二章・東奔西走編 -悩みまくった上司達-

二章・東奔西走編

悩みまくった上司達



溜まっている書類が気にならないわけではございません。

しかし、私達に必要な事は何か?今後の為にもするべき事は?


家に帰って、シャワーを浴びて出てみればクダリが夕食の支度中。

お玉を持ったまま、何事かを考えている様でございますね。



「クダリ、ミソスープをその様に沸騰させては風味が飛んでしまいます。」



「え?わわっ!」



私の声に我に返り、慌ててコンロのスイッチを切りました。

その後に溜息をついて、尚も思案顔をしております。



に言われた事を考えているのですか?

貴方はこの話を聞いた時から、どこか納得しきれてないのでしょう?

実は私もなのです。彼女のやり方はどこかエメットに似ております。」



私生活はいい加減でどこまでも自由すぎる彼ですが、仕事は別です。

あの二人は無駄を徹底的に嫌います。感情など入り込む余地も無い程に。

平常の業務でのストレス以外に、仕事のノルマを押し付けられた部下が

何人も辞めていく度に、彼等は使えない人間はいらないと言いました。

そうして出来上がったユノーヴァのギアステの業務形態は

一切の無駄がない効率重視を徹底したものになっております。

それは確かに素晴らしいですが、私達は好きにはなれません。



「確かに、効率重視でそう言う所はエメットと同じかもしんない。

でも、ボク達がどう受け止めるかは自由って言った言葉が気になる。

もしかしたら、ボク達がそう思う事も予想してたのかなって…」



オーブンから白身魚の香草焼きを取り出して、皿に盛り付けながら

クダリはさらに言葉を続けます。



が言ってた。部下の能力を把握してるなら答えは出るって。

の言いたい事もそこにあるって、答えを出すのは簡単。

ただ、やり方が二通りある。それのどっちなんだろうって考えてた。」



スープボウルにミソスープを盛りつけ、テーブルに置く手を止めて

クダリの方を見れば手元はドレッシングを作るのを止めておりませんが

更に考え込んでいるようでございますね。



「最後にが言っていた変な答えと言うのも気になります。

もう一度最初から思い出して、考えた方が良い様でございますね。」



クダリの傍で白飯を皿に盛り付けて、二人で顔を見合わせて考えます。

彼女は執務室に入ってきて、私達に書類を渡しながら言ったのです。



『ボス達、本当に学習装置持たせますよ?同じ事の繰り返しは駄目です。

貴方達は先日、総務部長さんからトップとして成長したと言われたでしょ?

それをもう一度思い出してください。』



そう言って、数ある書類の中からいくつかピックアップをし始めたと思えば



『これも、これも、これも、全て貴方達がやる必要がありますか?

自己犠牲と言えば聞こえは良いでしょうけど、仕事には必要ないです。

もっと視野を広げて、もう一度全体を見渡してください。』



「私達が部下を使って、仕事の割り当てをしろという事ですよね?

それは部下達にノルマとしての仕事を渡すという事になるのでは?

彼等の負担が今以上に大きくなるのは、私は非常に心苦しいです。

視野を広げ、もう一度全体を見渡せとは、広く仕事を割り当てろと?」



向かい合わせにテーブルにつき、それぞれに食事を始めながら考えます。

色々と考え込みながらの食事と言うものはあまり美味しくありませんね。



「そのやり方だと、ユノーヴァと同じになる。

だけど、それをやれってが言うとは思わない。だから悩んでる。」



「と、言いますのは?どういう事でございますか?」



「あのね、前に退職者リストの処分に反省文をつけた人達覚えてる?

その言葉が本当なのかどうなのか調べて欲しいって言ったのは

部長さんが言ってた。自分ならそんなの無視して辞めさせてるって。

でも、やり直すチャンスを与えられる人もいるかもしんないって…

が部長さんにお願いして、色々身辺調査させたみたい。」



「私達が考えていた事を、先に彼女が部長に申し出ていたのですか?

あぁ、捕まったヤングマフィアにでさえ、情けをかける方でしたね。

上のマフィアの方にやり直すチャンスを与えないのかと言ってましたし

その様に進言するのも十分に考えられる事でございますね。」



そうでした。彼女は私達よりもずっと優しいのです。

なのに、私達に突きつけた事柄はそれから余りにもかけ離れております。

そこまで考えて私は異様な違和感を感じました。

彼女は本当にエメットと同じ事を、私達にさせたいのでしょうか?



「もしかしてボク達、変な答えを出そうとしてるのかもしんない。

うわー、ちょっと待って!のド正論はキツすぎて怖い!」



「効果は抜群過ぎて1確で戦闘不能になるので勘弁でございます!

では、彼女の望む答えとは?問題の解決法とは?」



先に食事を済ませたクダリがキッチンに食器を下げながら、

眉間に皺を寄せて考えこんでしまいました。

…答えはすぐに出ませんし、問題も解決出来ない状況でございます。

あの時はわかった様な気がしていたのに、なんとも情けないですね。



「えっと、はボク達を部下を信用してない、舐めてるって言った。

はボク達に部署の処理能力と部下達の能力を聞いてた。」



私も食べ終わったので食器をキッチンに下げ、その後リビングに行き

クダリと向かい合わせにソファーに座って考え直してみました。



「私達がこれから、ギアステをどうやって「あーっ!」…クダリ?」



急にクダリが手を叩いて立ち上がりました。

その表情は先ほど悩んでいた物とは別な、スッキリとしております。



「ノボリ、に聞かれた時、なんて言った?」



「私ですか?えぇと、上役も部下も素晴らしい仕事をされる方々だと。」



「違う違う!その後、その後にノボリ言ってた!

それがホントの答え。うん、絶対にそれ!そう言う事だったんだ!」



クダリは既に答えがわかった様ですが、私はまだでございます!

つまりは、私が言った事が答えになるという事なのでしょうか?



「…確か…個々の能力を捉えて、能力最大限に発揮させギアステ…!!」



「うん、それがボク達がギアステをどう動かしたいかって答え!

それがわかれば、その為にどうすれば良いのかってのも、ハッキリする。」



「つまり、出来る事を出来る範囲で仕事をさせろと。

その特徴を掴み、能力を発揮できる分だけの仕事を任せろと。

それをしていない私達は部下を信用しないで舐めていると…」



何と言うことでしょう!私達はとんでもない思い違いをしておりました。

ノルマを設けて仕事の改善を図る必要など無いのでございます。



「皆、まだまだ仕事の処理範囲に余裕がある。

ボク達は人が減って忙しくなったからって、殆どを引き受けちゃった。

皆、すっごく優秀。ボク達がモタモタしてる事だってすぐに出来る。

ううん、ボク達以上にすっごい仕事をしてくれる人ばかり。」



「その通りでございます!私達はもっと全体を見渡して判断しなくては…

そうとなればクダリ、色々と今まで出された書類の内容と、決済類を

見直しましょう。私達では正直、役不足でございます。」



「うん、これはノルマじゃない。皆にお願いして出来る事を教えてもらう。

勿論、ボク達は大体の把握はしてる。それでも皆が協力しあえば

それ以上の仕事だって絶対できるはず!それは皆のスキルアップにもなる。

自信にもなるし、そういう事ができる人達しかここにはいない。」



お互いの出来る事を其々が責任を持って受け持ち、尚且協力し合えば

仕事の効率も格段にアップするのは間違いございません。

もそれが言いたかったのでしょう。

彼女のやり方は、エメットのそれとは全く異なっておりました。



「皆が力を合わせて、出来る事をして、他の所とも協力しあう。

ボク達はそれのお手伝いをすれば良い。仕事を増やせば良いんじゃない。

トップは自分で動く事も大事だけど、皆をうまく動かせないと駄目。」



以前、同じ事をは私達に言っておりましたね。

失敗しても同じ事を繰り返さなければそれで良いのだと…



「本当に、何度同じ事を繰り返せば良いのでしょうか…

私、もうに学習装置を持てとは言えなくなってしまいました。」



「フフッ、ボクもが一人で頑張りすぎるって怒れない。

ボク達の頑張りは自己満足とかそんな感じで、全然意味が無い。」



の言う通り、答えはすぐにはありませんが出ました。

後は問題解決に向けて全速前進すればよろしいのです。

私達はもう、何をするべきかわかっているのですから簡単でございます。



「クダリ、私は休み明けの朝礼の後で各部署の方を残して

この件についてお話したいと思っておりますが、よろしいですか?」



「うん、まずは各部署のトップの人に相談するのが良いと思う。

今の状況で、どの位の事を頼めるか、どの位出来るのか教えてもらおう。

勿論、ボク達もほかの部署の人達も、皆で協力し合うようにお願いする。」



「明日は休日ではございますが、出勤した方が良さそうですね。

今現在、私達の所にある書類の内容を把握しなくては、話が進みません。」



「それはボクも思ってたから全然オッケー!

あのね、休日出勤だからお昼のお弁当作らなきゃなんない。

どうせだったら達にご飯とか差し入れしたい。」



そういえば、は明日から突貫で仕事をするのでしたね。

は食事も忘れて仕事に集中しそうで心配でございます。



「それは宜しゅうございますね。それでは今から下ごしらえしましょうか。

私、張り切って作らせて頂きますとも!」



「ボクも手伝う。皆で一緒に食べれたらもっと良いね!」



休日出勤と言えば気が重くなっておりましたが、明日は違います。

私達のするべき事がはっきりした今は、その様な事はございません。

そして、友人達への差し入れという、今までやった事の無い事にも

私達は心を躍らせているのでございます。