二章・東奔西走編
主任、上司達に宿題を出す。
スーパーダブルの助っ人が終わり、先にホームに降りてから
チャレンジャーに軽く一礼をして、下車してもらう。
今回のトレーナーはそこそこ遊べたんだが、ボスの所には通させなかった。
常連らしいが、俺を新人だと思って舐めてるからこうなるんだぜ。
ステート(聴診器)をポケットに突っ込んでから、白衣を脱ぐ。
正直、さぎょういん でバトルトレーナーの登録をしても良かったな。
着替えるのが面倒臭くて適わねぇ。
スタッフオンリーの場所にある喫煙所近くを通れば、見知った顔が2人分
何やら小難しい顔してやがるが、何かあったのか?
「そこまでやるのはボス達には無理でしょう?
ユノーヴァでは可能でもイッシュでは無理です。私も反対します。
こっちのギアステはボス達が甘い分、部下達がそれをフォロー出来る
優秀な人材が集まってるんですよ?それを利用しない手はないでしょう?」
『Hmm…確かにソウかもネ。ダケド、lineを決めるノハ誰がヤルノ?
ノボリ達は部下に負担をかけたくナイ。部下はボス達にッテなるヨ?』
喫煙所のドアを開ければ、がライブキャスターで会話してる。
相手は…エメットか?なんだか随分と深刻な話みてぇだな。
「おう、助っ人お疲れさん。一服していくか?」
が俺に煙草を差し出したんで受け取る。一応吸わない事になってるが
嫌いなわけじゃねぇ、火を点けてゆっくりと吸い込む。
「あれか?ボス達の業務を減らす算段なんだろうが、なんでエメットが?」
「総務部長にに業務改善させろってエメットが言ったらしいぞ。
それで、なんて事言いやがるって話になってな…」
が肩をすくめて答える。相変わらずは貧乏くじ引くな。
ここの連中は連帯感が強すぎる。それは悪ィ事じゃねぇが
甘えを増強させる原因にもなっちまうからな。
そういう甘えを仕事に持ち込まないだからこそ、業務改善には
適任だってわけなんだろう。エメットの観察眼もすげぇな。
「それは…ボス達が決める事でしょう?一応その辺は話しますよ。
これは自分達だけじゃない、部下にとっても助かる事なんですから。
それでも意地になるようだったら、この話はそれまでですね。
広い視野で状況把握が出来ないんだったら、トップの資格はありません。」
『Wow!相変わらずハッキリ言うヨネ!デモのソウ言う所好きダヨ。
アノ二人、その位言わないと全然通じナイと思うネ。』
「はいはい、私にリップサービスは必要ないですよー。
エメットさんの言う通りにするってのが癪だけど、頑張りまっす!では!」
乱暴に通話を切ってからはしゃがみこんだ。
仕事前に疲れるような事するんじゃねぇよと言いたい所だが、仕方ねぇか。
「はこのまま厨房に行っててくれる?私、この書類渡してくるね。
そん時にちょっとボス達に話すんで、アレだったら先にやってて。」
「それは構わないが、余り悩むなよ。
あいつらなら必ず理解出来るはずだ。傷つけるとか余計な心配だろう?」
「俺はそのまんまの手伝いしとくから、任せとけ。
中途半端はてめぇの一番嫌いな事だろうが、しっかりしやがれ。」
「あはは、確かにそうだね。うん、じゃあ行ってくる!」
書類の束を抱えて喫煙室を出たを見てたら横からため息が聞こえた。
「全く…放っておけない性分ってのも困りもんだな。」
「オイオイ、それをてめぇが言うとかマジか?
今だっての後を追っかけて行きてぇって顔に書いてあるぞ。」
程じゃねぇが、も自分の懐に入れた奴にはとことん甘い。
尤も、その甘さは馴れ合いとかそういう類とは違う。
こいつは相手を敢えて谷底につき落とす事もできるからな。
あぁ、面倒だがここはどうやら俺の出番みてぇだな。
「予定変更だ、俺も作業服に着替えてからそっちの手伝いにまわる。
てめぇはさっさと、厨房に行きやがれ。」
俺の意図を読み取ったんだろう、は苦笑いをしながら
頼むな、なんて言って喫煙所を後にした。仕方ねぇ、頼まれてやるよ!
ロッカーに助っ人用の白衣を押し込んでから、事務所に入る。
そこにはボス達のデスクの前で両ボスに挟まれたがいた。
「正直言って、この件も任せられるでしょう?
ボス達はこんな細かい事まで自分でやらないと気が済まないんですか?
それって、部下を舐めきってますし、信用してないのと一緒でしょう?」
…早速行動開始してやがるし、こういう時のは素早い。
ボス達の表情を見ながらも、自分の意見を言い続けている。
ボス達は、ちょっと表情が固い所をみると納得してないってか?
「、が荷物移動でワタワタしてて埒が明かねぇ。
てめぇの仕事はこっちじゃねぇよな?さっさと持ち場に戻れ。」
「…了解。それでは私の提案は以上です。
この件を、お二人がどう受け止めるのかは自由です。では失礼します。」
ボス達に一礼しては持ち場に戻ったが、この重苦しい雰囲気ってのは
正直やってられねぇんだがな…。
仕方がないんで、コーヒーを3人分いれてボス達に手渡す。
「が何かマズイ事を言いましたか?」
まずは様子見で、しらばっくれて聞いてみるか。
両ボスは力なく首を横に振った。苦笑いしながらコーヒーを飲み始める。
「の言うことは当たり前の事、それをボク達が出来てなかっただけ。」
「で、ございます。少々…いえ、かなり自己嫌悪に陥っております。
あれ程部下を頼れと言われたにも関わらず、結局はこのザマ。
自分達は何も成長していないのだと…情けない限りですね。」
取り敢えず意地になってないのは良いが、少々やりすぎたか?
いい歳した大の男が、部下でそれも自分達より若いのに言われるってのは
色々と堪えるもんもあるだろうよ。
「フィールドは違えど、あいつはシンオウのポケモン協会相手に
同じ様に業務改善をやり通しましたからね。
ボス達はまだマシだよ?むこうの連中は使えない奴ばかりだったからね。
ここの部下達は非常に優秀だと思うよ。それで、どうするつもりだい?」
あいつは完全にアウェイ状態の中でそれをやりきったんだ。
こっちはまだマシだろう。一人でやるんじゃない、二人でやるんだ。
そして、部下達もこの二人の役に立つなら喜んで動く連中ばかりだ。
「人が少なくなってて大変だとは思う。
だけど、それをボク達が全部カバーしようとするなんて間違い。」
「ですが、どの程度の事をお任せして良いのか…
その様に考えると、自分達でやった方が早いとも思ってしまいます。」
ちょっと待て、それは自己犠牲と言えば聞こえが良いが、馬鹿のする事だ。
ホントにこいつらは人に頼る事が苦手だな!
そういう所がに似てて、思わずお節介をしたくなっちまうんだよ。
「ボス達は各部署の処理能力や、部下達の能力を把握してますか?」
「うん、大体だけど全員の仕事の仕方とか出来る事はわかってる。
それって、最高責任者なんだから当たり前。」
「それをまとめる上役の方々も素晴らしい仕事をされる方々でございます。
彼等がいてこそ、ギアステは成り立っていると言って過言ではありません。
個々の特徴を捉えて、能力を最大限に発揮させギアステに貢献して頂く、
それらを纏める為に私達は存在しているのですから。」
、お前がこいつらの事もちゃんと把握してるのは流石だぜ。
こいつらはトップに立てるだけの器を持った人物だ。発展途上だがな。
「そこまでキチンと部下を掌握してるなら、答えはすぐに出るでしょう?
が言ってるのは、そういう事じゃないのかな?」
「「あ…」」
ようやく気がついたか、だが俺はこれ以上は言わねぇよ。
人がいないのを差っ引いても能力範囲内で仕事をしてもらえばいい。
できる人物がいるのに、それを腐らせるのは馬鹿のする事だ。
中身のなくなった紙コップをゴミ箱に捨てて、俺は作業服の上着を着る。
「ボス達にこの後必要なのは、残った書類の整理じゃない。
自分達がこれからこのギアステをどうやって動かすかでしょうね。
今日はもう家に帰って、じっくりと考える必要があるのでは?
どうすれば良いのかわかってるなら、問題は解決出来るでしょう。」
デスクに散乱している書類をまとめて未処理のボックスに放り込む俺に
二人は苦笑いをしていた。
「うん、今日は中途半端になってるけど家に帰る。」
「えぇ、今は書類を見ても無駄になるでしょうしね。帰るとします。
、色々とアドバイスをいただきありがとうございます。」
こういう素直な所がこの二人の良い所で、俺達が気に入ってる部分だ。
人の意見を聞く耳を持つやつは、人間的に成長をし続ける。
その先がどうなるのか、俺達は見てみたいとも思うんだよな。
「俺はの言いたかった事を代弁しただけですよ。
ボス達、考えすぎて変な答えを出さない様に気をつけなくちゃ
誰かさんの容赦無いド正論を正座付きで聞く事になりますよ?」
「あはは、それはさっき散々言われた!正座しなかっただけマシ。
でも、言ってくれるのはボク達の為だってわかってる。」
「フフッ…えぇ、言ってくださるだけでも有り難い事でございます。
彼女にとってこの問題は、関係ない事ですのに敢えて苦言を申すのです。
その好意に応えなければ、友人の資格もございませんでしょう?」
「俺達の中ではあいつがそういう事に一番容赦無いですからね。
そして後から言いすぎたって落ち込むんだから手がつけられませんよ。
きっと今頃、厨房で暗くなってると思うんでフォローしてきます。
では、ボス達はお疲れ様でした。」
背中にボス達の頑張れという声援を受けながら、俺は部屋を出た。
二人がどんな答えを出すのか、休み明けに期待しようじゃねぇか。