-一章・共闘!ギアステ大掃除編:静かな慟哭-

一章・共闘!ギアステ大掃除編:

静かな慟哭



大勢での食事というのは、あまりする機会がございませんでしたが、

気心の知れた友人達とであれば、楽しいものでございますね。

先程紹介された(様とお呼びしていたのですが、やめてくれと

土下座されてしまいましたので敬称を外す事になりました。)も

とても気さくな方で、食事中の会話もはずんでおりました。

しかし、だけがいつもと違っております。

食事も殆ど手をつけず、あまり会話にも参加しておりません。

どうしたのかとインゴに聞かれ、殴られた口が痛いと言っておりましたが

それだけでは無い事は間違い無いでしょう。


食事が終わり、その後に達はビールを飲み始めました。

インゴもエメットも、全員がそれに倣って飲んでおります。

は後片付けをするというので、私が手伝っておりますが

ここでもやはり、いつもよりも口数が少ないのです。



、この皿はどちらに片付ければよろしいですか?」



私が聞けば、それにはしっかりと答えていただけますが

やはり、心此処にあらずな状態で、少々心配になりました。



、何が貴女をそれ程までに不安にさせているのでございますか?

これからの話、もし私達に聞かせたくないと言うのでしたら

それでも構いません。その場合は私達はこのまま部屋に戻ります。」



食器を洗う水音に紛れる程度の声で、私は思い切って聞いてみました。

はしばらく考え込んでから小さく首を振ります。



「…いつかはわかってしまう事なんで、それが今になるだけです。

そして、ひとつ話せばいずれは全て話さなければならなくなるでしょう。

私達はちょっと特殊なんです。その中でも私はさらに異常なんですよ。

自分でも、なにコレ気持ち悪いって思いますからね。」



神経を耳に集中させて、気をつけなければ聞き落としてしまいそうな程、

その声はか細く、弱々しいものでございました。

そう言えば以前が言っておりました。

他人から気味が悪いと言われて、がかなりのショックを受けたのだと

その後しばらくの間、引き篭り状態になってしまわれたのだと…。



、私は今朝も言いませんでしたか?

どの様な姿になっても貴女は貴女で私の大切な友人だと。

それは外見だけではございません、中身や過去の貴女全てを含めてです。

今の貴女があるのは、そういう物全てを含めての事でございましょう?」



私の言葉に洗い物をしていたの手が止まりました。

その瞳は様々な感情浮かんでは消え、揺らいでおります。

まるで迷子になった子供が不安に泣き出しそうな…そんな表情です。

私はシンクに下げられたの手をそっと握り締めました。



「私は今の貴女が大好きですよ。

例え貴女が天使であろうと悪魔であろうとモンスターや幽霊であろうと

同じ事が言えると断言いたします。大好きだと、大切だと言えますよ?

だからその様に不安になる必要はございません。

少なくとも私もクダリも、自分から貴女の友人をやめるつもりは

この先何があっても絶対にございません。

それとも、出会ってまだ日の浅い私達の言葉は信じられませんか?」



大きく見開かれたの瞳から、涙が一粒こぼれ落ち

慌てて下を向いた彼女を、私は抱きしめずにはおれませんでした。

慌てて身体を離そうとする腕を自分の背に回させて、そのまま力を込めます

リビングの全員が驚いてこちらを見ておりますが、気にしてはいられません。

やっぱりという様な顔をして立ち上がり、私達の方へ近づくクダリに気付き

がさらに身体を離そうと腕の中でもがきます。



「うわわ、ノボリさん離してください。ちょっと自分でも情けないんで

頭を冷やしたいんです。ホント、見苦しい物をみせてゴメンナサイ。」



いつもの口調と表情を作ろうとしているのでしょうが、出来ていませんよ?

恐らく、これこそが貴女の素なのでございましょう。

脆く、儚げでそして美しい心を、軽口と飄々とした態度で覆い隠す。

それが彼女が身につけた自分自身を守る術なのでしょうね。



「見苦しい事などございません。今の貴女に必要なのは泣く事です。

その為の胸でしたらいくらでもお貸しします。

今までは達が貴女の支えでしたのでしょうが、これからは

私やクダリもおります。皆が貴女を大好きで大切思っておりますよ?」



、すごく辛そう。あのね、そういう時はいっぱい泣いた方がいい。

大丈夫、ボク達がいる。達も皆がいるよ?

を絶対に嫌いにならない、一人にもしない。大丈夫、大丈夫だよ。」



傍にきたクダリが優しくの背を擦ります。

他人の感情の変化に敏い貴方が気がつかないわけがございませんものね。



「いや、ホントすみません。泣くとか一番嫌いなんですよ。

なのに泣くとかホントだらしがないっつーか、なんて言うか…

泣いたって仕方がないんです。泣いたって何も変わらないんです。

私なんかが泣いちゃ駄目なんです。」



そう言って無理に笑う姿がとても痛々しいのですが…

それ以上、私にはどうする事も出来ずにの身体を離した時に

彼女の腕をクダリが引っ張り、抱きしめました。



「ボク達も大概頑固だと思うけど、も頑固!

あのね、どうして泣いちゃダメなの?誰がそんな事決めたの?

泣きたい時は泣いた方が良い。泣かなきゃダメ。

泣いたって仕方ないし何も変わらないのは知ってるよ?

それでも、どーしても泣きたくなる時だってある。

なんで我慢しなきゃいけないの?そんな我慢こそしちゃダメ。

そんな事してたら、心が疲れちゃう。壊れちゃうよ?」



眉間に皺を寄せたまま一気にそこまで言った後に、表情を和らげて

背中に回した手で子供をあやす様にポンポンとの背を叩きます。

それと同時にの肩が震え出しました。

ですがこれだけ言っているのに、貴女はその手を背に回すことをしない。

の中にある涙の原因は何程彼女の心を抉っているのでしょう。

底の見えない闇がぽっかりと空いているような錯覚さえ覚えます。

ただ下を向いて、クダリの胸に額をつけるだけで寄り添おうともしない。

その空間がもどかしくなったのでしょう。

力いっぱい引き寄せてクダリはを抱え込むようにしました。



と出会えて良かった。と友達になって良かった。

が大好き、が大切。この気持ちは変わんない。

が辛い時はそばにいる。泣きたい時はこうしてあげる。

だからひとりになろうとしないで?強がらないで?無理しないで?」



「貴女を独りにはしません。私達が傍におります。

貴女を独りだけ暗闇に飲み込ませません。私達が引っ張り上げます。

貴女独りでどこかに行かせはしません。私達が共に参ります。

これからはもう、不安になる必要はありません。大丈夫ですよ。」



未だに下げられたその手を私は持ち上げて両手で握りました。

静かな泣き方なのに、の心が何かを叫んでいるような気がして

何かを激しく求めているような気がしてならないのです。


リビングの方を見れば、エメットはため息をついて笑っており

インゴは何かを考え込んでいる様な顔でを見つめております。

そしては私達に頷いて、穏やかに微笑みます。


あれだけポケモンには、愛情を惜しみなく与える事の出来る貴女ですのに

自分に向けられる愛情を受け取ることには慣れていないのでしょうか?

まるで手負いのポケモンの様な、頑ななその仕草に心が痛みます。

どうか私達が少しでも貴女の心の支えになり、安らぎになって欲しい

私の思いが、貴女へ届きます様にと願いを込め

の手をとった両手の力を強めずにはいられませんでした。