一章・共闘!ギアステ大掃除編
小鳥は唄う
業務終了からどの位時間が経ったでしょうか、今現在も執務室では
誰ひとり帰る事無くカタカタとキーボードを叩く音が響いております。
「、このさっきの休日出勤の届出用紙なんだけど
ここを直してこっちに書き直してもオッケー?」
クダリが席を立ち、のデスクに書類を持っていきます。
先程のあの書類をギアステ用に変更しているのですが、先程から
この様に何度もの仕事の手を止めさせて申し訳ないですね。
はその様な事を気にもせずに、クダリにキチンと答えてくれます。
「あー、成程!その方が使いやすいし他の所も見やすくなりますね。
それでしたらこっちの欄をここにしたらどうですか?
そうすれば視線の動きも変えないしわかりやすいと思いますよ。」
「あ、そっか!うん目があっちこっち行くよりずっと良い!」
頭の上にネイティを乗せたまま仕事をしておられるが
クダリの方に向かって色々とアドバイスをしております。
彼女が動く度にネイティがバランスをキチンととるのが素晴らしい。
「…ねぇ、。ネイティの羽、まだちょっと濡れてる。
ボク、拭いてあげてもいい?ネイティ、ボクが触ってもいい?」
クダリが屈み込む様にしてネイティに話しかけております。
ネイティの体中の傷は恐らく虐待か何かを受けたものでしょう。
それならば、他人に触れられるのを嫌う事が多くなります。
ネイティは暫くじっとクダリを見つめておりましたが
やがて、ポンと彼の頭の上に移動しました。
「…ネイティもお願いしますって。白ボス、頼んでもいいですか?」
「ボクがやりたいって言った事!はじめてネイティを頭にのせたかも!
フワフワしててすっごく可愛い!」
クダリが喜んで自分の席に戻りタオルでネイティの体を優しく
拭いてあげます。気持ちが良いのでしょうね、目を細めております。
その様子をだけでなくもも見ておりますが、なんでしょう
とても嬉しそうで、そして少し悲しそうに見えるのですが…
「ネイティが、私以外の人を自分に触らせるとか、殆ど無いんです。
お二人は気がついてるんでしょう?この子が虐待されてたって。」
あぁ、やはりそうだったのですね。クダリが頷くので私も頷きました。
「この子、ある組織の実験ラボにいたんです。
能力は全てにおいて6V以上あります。それも人工的に上げられた物です。
特に特攻は255を遥かに超えています。この意味がわかりますか?」
「…まさか生物兵器?って嘘でしょ、この子まだ進化前!」
昔からまことしやかに言われてきた、ポケモンを兵器にという話は
まさかと思っていたのですが事実だったとは。
何と言うことでしょう、虐待どころか生物実験、果てには生物兵器
その様な悪行が行われていたなど、断じて許せません!
「鳥ポケモンの刷り込みは凄いですからね。それを利用されたんです。
だけど組織が一斉検挙された時、この子のトレーナーはこの子をおいて
逃げたんです。ある意味、この子は捨てられたんですよ。」
「そんな、酷過ぎる!虐待だけじゃなく捨てられたとか…
この子達はボク達と一緒、家族にだって友達にだってなれるのに!
ポケモンはモノじゃない!命はオモチャじゃない!
すっごく痛かった!辛かった!悲しかったはず!!可哀想すぎるっ…!」
クダリがネイティを抱きしめます。その眼にはうっすら涙さえ滲んていて
えぇ、私も胸が潰れる様に痛んでおります。
「見つけて保護しようとした人達はかなりの怪我を負いました。
もう手がつけられないので殺処分の命令が出される位に…
仕方ないです。この子にとっては人間は憎しみの対象だったんですから。」
人間にこの様に翻弄されれば当たり前だと思います。
殺処分命令まで出るとなると、かなりの被害だったのでしょう。
ですが、ポケモンに罪はないのです!全ては人間の有り様ですのに!
しかし現在、この子がの手持ちとしているという事は…
「それをがゲットしたのですね?ありがとうございます。
このネイティが人を嫌いなままでなくて良かった。
少しでも私達人間を信用してくれて本当に良かった!」
ネイティを見れば、未だ泣き続けているクダリに擦り寄っております。
あぁ、ポケモンはどこまでも優しい。
私達の想いにそれ以上に応えてくださる、返してくださる、
その様な純粋で誠実な存在を私は愛さずにはおれません。
「ゲットするつもりは全くなかったんで、説得しただけです。
まぁ、タダじゃ済まなかったですけどね。
それでもそんな事はこの子が受けた体と心の傷に比べたら
全然ちっぽけで、気にするのも恥ずかしい位ですよ。
結局野生にも戻す事ができないし、また悪用されては困ると言う事で
本当は国際警察で預かる予定だったのですが、色々とありまして
正規の手順ではありませんがゲット…ううん、家族になったんです。」
そう言って両袖を捲り上げたの手首から肘近くには無数の
傷がうっすらとですが残っておりました。
特に左手首から肘までにわたる傷はよほど深かったのでしょう、
象牙色の滑らかな肌の上に薄紅色のかぎ裂き状の跡がはっきり見えます。
女性でこの様な傷が残ってしまうなど大変な事のはずなのに…。
はまだ泣き続けているクダリのそばに寄るとネイティを撫で、
そしてクダリの肩をその傷跡の残る手でそっと触れます。
「白ボス、ネイティの為に泣いてくれてありがとうございます。
きっと白ボスの心が綺麗で、優しくて誠実なんだって事が
ネイティもわかったんでしょう。ホラもっと撫でて欲しいみたいですよ?」
「、傷だらけ…でもネイティももっと傷だらけ…可哀想っ
ゴメンね、ボク達人間がひっどい事してゴメンね。そしてありがと
それでも人間を信じてくれてありがと…っ
もっ、傷だらけになって…も、ネイティを助けてくれた
ネイティ、人間嫌いなまま…じゃなくて良かった!
ホントに、ホン…っとにありがと…っ!!
…あのね、ボク、ネイティと友達になりたい!駄目?」
クダリが涙を拭いてネイティに微笑むとネイティも目を細めて
クダリの問いに答えるかの様に、撫でてくれと甘えてきます。
優しく労わる様にクダリとがなでてやればいっそう目を細め
気持ちよさそうに小さく鳴き声をたてます。
その姿がとても神聖な物に見えて私は胸が熱くなりました。
「ネイティすっごく良い子!この子、すっごく良く育ってる。
でも進化してないのはやっぱり実験とかのせい?虐待のせい?」
それは私も疑問に思っておりました。
は少し寂しそうな顔をして首を振ります。
「本当ならいつ進化してもおかしくないんです。
後はこの子の意思次第なんですけど、ずっとこの姿のままなんです。
…この子はまだ恐れているのかもしれません。
もしかしたら、また誰かに自分の力を悪用されてしまうのかって
もしかしたら、私がそう言う指示を出すかも、捨てられるかもって
思っているのかもしれませんね。この子の傷はまだ癒えていないのかも。
まだ信じてくれる所までいってないのかな?
この子の傷を癒してあげるには、私では役不足なのかもしれません。」
その言葉に驚いたのかネイティが慌てての頭へ飛び移り、
必死にその身体を、すりよせて鳴いております。
えぇ、その様な事は絶対にありません。の誤解でございます。
「ネイティは具合が悪く倒れてしまった貴女を心配して
自分で自販機に行って貴女に飲んでもらおうと、おいしい水を買ったのです。
近づいた私達の動きをサイコキネシスで止めて守ろうともしておりました。
医務室で回復した貴女を見て、泣いて擦り寄ったとも聞いております。
ここまでトレーナーである貴女を想っている子と貴女に信頼がない等
そう思う事すら、この子の気持ちを踏み躙るのと一緒にございます。」
「うん、この子の事すっごく好き、大切って思ってる!
後ね、今見ててボクわかった。ネイティ、の頭の上がお気に入り!
進化したらそれできない。だから進化しないだけ。ね?ネイティ。」
私達の言葉に戸惑っておられるの頭の上で、大きく鳴いて
翼をありったけ広げ、ネイティが伏せて頬ずりをしております。
その姿はを抱きしめようとしているようにも見え、
あまりにも愛らしくて私達は思わず笑ってしまいました。
「いつもオレ達が言ってるだろ。ネイティはお前が大好きなんだ。
ったく、人の事はよく見えるくせに自分の事は全く見えねぇとか
勘弁してくれ、テメェの鈍感さには呆れて物が言えねぇよ。」
のこの口調はとにのみ使われるものでございますね。
普段のきちんとした口調からは想像すらできませんが
こちらの方が彼の性格を考えると合っているのはないでしょうか?
「そうだな、仕事以外でももっと自分に自信をもつべきだぞ?
以上にコイツのことをわかってやれる人間はいないだろ。
こっちの連中は皆、お前が好きで大切だって思ってるんだ。
だからお前も、少しはその思いにちゃんと向き合ってやれよ。」
がの頭の上のネイティを撫でてやると目を細め、
再びクダリの頭の上に乗りました。本当に愛らしい子でございます。
あ…私と目があってしまいました。これは撫でてもよろしいのでしょうか?
恐る恐る怖がらせないように、そっとネイティに触れると、手にスルリと
擦り寄ってこられます。今度はしっかりと優しく撫でて差し上げると
目を細め小さく唄うように鳴き始めました。
「うわぁ…この子、すっごく嬉しい時じゃないと唄わないんですよ?
そんなに黒ボスの手が気持ちよかったのかな?
もしかして、もしかしなくても黒ボスってテクニシャンですか?」
人が感動に耽っていると言うのに雰囲気ぶち壊しでございますね。
どうして貴女はその様なはしたない言葉をサラッとおっしゃるのでしょう!
えぇ、否定はいたしませんが、この様な時に使う言葉ではございません!
しかし!いつも怒鳴ってるだけでは能がありませんね…ふむ。
「さぁ、私はよくわかりませんが…なんでしたらが試してみますか?
私、全力で貴女を撫でて差し上げますよ?」
「えっと…なんだろ、今すっごい地雷を踏んだ様な気がしますので
遠慮させていただきますね。うん、とりあえず、ごめんなさーいっ!」
ちょっと一服!と叫んでは逃げるように部屋を出てしまいました。
クダリもももその光景に大爆笑しております。
少々お仕置きが過ぎましたでしょうか?
キョトンとした表情でこちらを見ているネイティを優しく撫でれば
目を細めて再び美しい声で唄い始めました。
その声はどこまでも美しく澄み渡り、私の心の奥にに響きました。