一章・孤軍奮闘編:
上司達と急病人
朝礼が終わって、執務室に戻ってものデスクは綺麗なまま。
今日は午後出って言ってた。なんだかとっても忙しそう。
ボク達も何か手伝いたいけど、の仕事はよくわかんなくて無理!
しばらく書類整理をしていたら、マルチのチャレンジャーが連勝中で
ボクとノボリは準備を始める。意気揚々と車両に乗り込んだんだけど
結局途中下車しちゃったみたいで残念だった。
終点について執務室へ戻ろうとしたら、ちっちゃなポケモンが一匹で
自販機の前にいた。あれはネイティだったかな?珍しいな。
その子が嘴を使って器用においしい水を買っていた。
その後どうするんだろうと思ったら、テレキネシスでボトルを浮かせて
一目散にボク達の横を通り過ぎていった。
その時に、しっかりとその子を見てビックリした。
全身に古傷があって、右目に特に大きな傷があるし多分見えてないと思う。
慌てて振り返ったら、ノボリも驚いた顔で同じ事してた。
「ノボリ、今の子見た?古いものだと思うけど傷だらけだった。」
ボク達は多分同じ事を考えてる。それは、トレーナーの虐待。
すっごく悲しい事、許せない事だけど、全く無いわけじゃない。
「とにかく事情がわかりませんので、後を追ってトレーナーを
確認してみましょう。万が一、虐待であれば許すわけにはいきません!」
ノボリがすっごく怒ってる。うん、ボクも怒ってる。
ポケモン達は一度ゲットされちゃえば、よっぽどの事じゃないと
自分達から離れる事をしない。真っ直ぐな大好きって気持ちを
トレーナーに全身で伝えるんだ。だけど、その気持ちがわかんない
人も多かったりする。そんな人達はトレーナーの資格なんてない。
虐待がハッキリとわかれば、最悪トレーナーカードの剥奪もある。
その位いけない事だから、絶対に見つけたらやめさせなきゃ!
構内は走っちゃダメだから急ぎ足で後を追えば
ネイティは一般車両ホームの一番奥のベンチに向かっていた。
そこにはハピナスとルカリオ、そしてイッシュじゃ珍しいムウマが
ベンチを取り囲んでいた。よく見るとあれはポケモンの技?
ハピナスとムウマは いやしのすず を、ルカリオは いやしのはどうを
ベンチに横たわっている人にかけているみたい。大変だ!!
「ノボリ!!」
「わかっております!お客様、大丈夫でございますか?!」
ベンチに駆け寄ろうとしたボク達の身体が急に動かなくなる。
さっき見たネイティがボク達の前にまるでこの人…トレーナー?を
守るかの様に立ちふさがって、サイコキネシスをかけているんだ。
「待って!ボク達悪い人じゃない!!この人、助けたいだけ!!」
なんとか口を動かして一生懸命にこの子達に話しかける。
ノボリも、なんとか動こうとしながら一生懸命に説得する。
「私達は、あなた達のお守りしている方を助けたいだけででございます!
どうか、どうか私達にお任せ下さいまし!!」
なんとかわかってもらおうと必死にボク達は話しかけるけど
ネイティは全然サイコキネシスを解いてくれない。
そればかりじゃなく、他の子達も大切な宝物を守るみたいに
ベンチを取り囲んでボク達を警戒している。
さっきまで虐待なんて思ってたボクが間違ってた。
これだけポケモン達に大切にされてる人がそんな事するはずない。
ポケモン達にこんだけ愛されてる人をなんとか助けなくちゃ。
どんだけ頑張ってもポケモンの回復の技は僕たちにはあまり効果がない。
動けないから、ライブキャスターもインカムも使えない。
だから、早く、早く!早く!!
「 お願い!信じて!!」
「 お願いします!!信じて下さいまし!!!」
ありったけの気持ちを込めてボク達が叫んだその瞬間に
技が解かれてボクは思わず床に手をついちゃった。
ノボリはちょっとバランスを崩したけど、すぐに立て直して
ベンチへ駆け寄る。
「お客様!しっかりして下さいまし!!」
遅れてベンチの方へ寄れば、ビックリする位真っ白な手がムウマに触れてて
ムウマは泣きながら必死になってその手に擦り寄っている。
ポケモン達をかき分けてベンチを覗き込んでボクはびっくりした。
漆黒のウェーブのかかった髪と苦しそうに細められた同じ色の瞳、
顔の色も唇の色もすんごく悪くて、冷や汗でびっしょりだ。
ボクもノボリも知ってる人…だと思う。その位、今の姿が普通じゃないんだ。
「?でございますよね?あぁ、話さないでくださいまし。」
かすかに頷いて、何かを言おうとしているを止めて
ノボリが静かに抱き起こし、額の汗をハンカチでそっと拭いてあげる。
ボクはの手を取り脈を確かめる。すっごく弱くて早い。
「ノボリ!早く医務室に「行きますよ、クダリ!!」 って、うん!」
ボクが言う前にノボリは自分のコートをにかけて抱え上げた。
あまり揺れない様に、安全運転で急いでいるノボリに何かを言おうと
の指がワイシャツを握り締めた。
「、大丈夫?話せる?どっか痛い?苦しい?」
ボクの問いかけに弱々しく瞳で頷いて、ゆっくりと口を開く
何かを言おうとしているの口元に耳を寄せたノボリが急に止まった。
え?どーしたの??
「あ…貴女は馬鹿ですかっ!自分でわかってらっしゃるのに、
これでは自殺行為以外のなにものでもないでしょうに!!」
うわー、ノボリ怒ってる。マジギレしてるかもしんない。
ノボリの腕の中でがギュって目をつぶって身体を縮めてる。
「ともかくっ!このまま医務室にいって休んで頂きます。
抵抗しても無駄でございます。大人しくして下さいまし!」
「ちょっと、ノボリどうしたの?は大丈夫なの??」
これだけ怒っているノボリに声かけるの凄く勇気がいる事だけど
何があったかわかんないから聞くしかない。
「…シンオウから飛行機で、そこからここまで地下鉄でこられたそうです。
乗り物酔いが酷いと聞いてましたが、正直これ程とは思いませんでした。
しかし、自分でわかってらっしゃるなら途中休憩入れるなりなんなり
すればよろしいのでございます!それを続けて乗ってこられるなど…」
あー、そう言えば乗り物酔いが酷いって聞いてる。
でもここまで酷くなるものなのかな?ちょっとよくわかんないけど
すっごい急病じゃなくて安心した。
「そっか、取り敢えず達に連絡するね。あ、後、にも。」
二人の名前を出して、ライブキャスターの画面を開いたら
が慌てたように身体を起こそうとして、失敗したみたい。
「その様に急に動いてはいけません!こら、大人しくなさいまし。」
ノボリの口調が完全にボクと話す時みたいになってる。
ここは下手に傍に行くと、とばっちりくっちゃう!
ノボリに連絡はボクが取るから先に行ってもらうように頼んで
ホームに立ち止まる。
何度目かのコールの後でと、その後ろはかな?が映る。
「おう、クダリ…って、白ボスか、どうしたんですか?トラブルでも?」
友達モードから仕事モードに変えてが笑ってる。
うん、トラブルと言えばそうなるのかな?
「うん、あのね…が今こっちに来てる。でも、乗り物酔い酷くて
ベンチに倒れてるのボク達見つけた。今、医務室連れてってる。
え?ドクター?あぁ…うんとね、いるんだけどチミンさんは
ペーバードライバーじゃなくてペーパードクターだから無理かも。
うん、ちょっと待ってメモする。えっと生理食塩液100mlと
炭酸水素ナトリウム注射液…うん、7%で20mlのが2個
うん、後はメトクロプラミド??何それ?うん、えっと、
プリンペランでオッケー?うんそれを1個と
ソルコーテフ?いや、わかんない。うん見てみる。
あれば、500mgか250mgを1個だね。わかった。
今どこにいるの?うん、あ、近くなんだ。りょーかい、待ってる。」
ももびっくりしてた。だよねー、だって来るの明日だったはず。
それにしてもに言われた難しい言葉のってお薬なのかな?
なんでそんな事知ってるんだろ?まぁ、いっか。
医務室に行って、乗務してるナースさんに聞いて言われた物の
用意をしなくちゃ。
メモを見ながら医務室前に到着!そっとドアを開けてビックリした。
だってね、ノボリがを膝の上にのせて抱きかかえてるんだよ!
どーしよ、ボクこのまんま入っちゃってもいいのかな?
って、ボクがいない間に二人に何があったの?すっごい気になる!
もう一回中の様子を覗いたら、今度はノボリと目が合っちゃった!
「なにをしてるのですか?早く入ってきてくださいまし。」
あ、ボクお邪魔じゃないのかな?ノボリ普通にしてるけど
は…うん、なんかちょっと緊張してる?大丈夫かな?
「うん、大丈夫?まだ顔色悪い。」
「えぇ、脈も弱くてまだ早いのです。それに冷や汗も止まりません。
病院に行きましょうと行っているのですが、どうしても嫌だと…
めまいも酷いらしくて、寝かせることも出来ないのです。」
ホントに顔色も悪くて辛そう。ノボリが額の汗を拭いてあげてるけど
全然止まらないみたい。だけど、さっきよりは少しはいいのかな?
ボクの方をみて弱々しいけど、目を細めて頭を下げた。
「と、急いでこっちに来るって言ってた。
後ね、からお薬?頼まれたんだけど、今日のトレイン乗務の
ドクターはチミンさんだから任せらんない。ナースさんに頼みたいけど
今日、乗務してる人って誰だったっけ?」
難しい言葉の書かれたメモを見せて、指差しでノボリに教える。
ノボリはしばらく考えた後で、ため息をつきながら首を横に振った。
「今、乗務してらっしゃるナース様は確か制服マニアの方だけだと思います。
これらを準備しておけば良いのなら、クダリ、貴方がやってくださいまし。」
ノボリの視線の先には薬が置いてある棚があった。嘘でしょ?
ボク、そんなのやった事ないからわかんないよ。でも、苦しそうだし
って、ちょっと待ってね。
外からちょっと慌ててるっぽい足音が聞こえたかと思ったら。
勢いよくドアが開いて、とが入ってきた。
「!大丈夫か?」
がの傍に近づいて、そっと額の汗を手で拭ってあげてる。
はスーツの上着を脱いで手を洗った後に、棚の中を見て
薬を色々と取り出し始めた。
「、黒ボスの仕事の邪魔になるからを受け取れ。
ゆっくり、なるべく頭を動かさないように注意してくれ。
後衣服を緩め…てはあるみたいだから大丈夫だな。
、取り敢えず点滴と注射するから腕出せ。」
「ちょ、お待ちください!一般の方が注射などいけません!」
ノボリが慌ててを見て叫んでたけど、はそんな事
聞いてらんないって感じでのシャツの袖をまくって
注射の準備を始めてる。
「黒ボス、心配ないです。はドクターの資格も持ってます。」
「えぇ、ちゃんと経験も積んでます。
ったく、お前はお騒がせにも程があるって言うのわかってんのか?
っと、失礼。恐らくこれで落ち着くはずですからもう大丈夫です。
後でガッツリにも言っておきますので、お二人は業務へ。」
ノボリがの汗を拭いて、そのハンカチをに渡す。
ボクとノボリは心配でその場所に立ってたけど
に言われて、何かあったら内線で呼んでねって言って部屋を出た。
「本当に大丈夫なのでしょうか?あの様に酷い乗り物酔いの方を見たのは
初めてですが、他に何か病気でもあるのでしょうか?」
ノボリが未だに心配そうに医務室のドアを振り返る。
うん、ボクも初めて見た。でもドクターが傍にいるなら大丈夫だと思う。
「がドクターの資格も持ってたのは驚いたけど、ライブキャスターで
いっぱい難しい薬の名前をスラスラ言ってたから成程って納得した。
もし、駄目だったらあの2人なら無理矢理でも病院連れて行くと思う。
だからの事は任せて、早く仕事終わらせちゃおう。」
「そうですね、私達は私達の業務を全うして
その後でまたの様子を見に行くとしましょうか。」
知ってる人が具合が悪いのなんて見たくない。辛そうにしてるのも嫌だ。
だから、も早く良くなって。前にライブチャットで見た時みたいに
元気な笑顔を見せて欲しいな。