-一章・孤軍奮闘編:その男、世話好きにつき-

一章・孤軍奮闘編

その男、世話好きにつき



施設関連の修繕計画の書類を完成させ、バトル業務が終わり書類整理中の

両ボスに見せながら、優先順位やスケジュールについて話し合っていた時に

俺のライブキャスターが鳴って画面を開くとが映る。



「おう、アパートの方はもう片付いたのか?あぁ、いやもう少しで終わる。

飯はどっかデリで適当に…って作ったから食いに来い?

相変わらず家事力高い…いやいやスミマセン、何でもないです。

っと、ちょっと待ってくれ、聞いてみる。」



画面から目を離し、書類を見ながら話し合っていた両ボスを見る



「両ボスとも、仕事はまだ残ってるんですか?

もし、良かったらが晩飯食いに来いって言ってるんですけど、どうします?」



「ボク達も、もうこの書類で最後、ご飯は嬉しいけど迷惑じゃない?」



白ボスが飯と聞いて目を輝かせる。そして何気に気を使っている。

だから、そんなに気を使うなと言ってるんだが、癖なんだろうな。



「迷惑っつうか、あいつが言ってるんだから問題はないですよ。

どうせ大量に作りすぎたんだと思うんで、遠慮は不要です。

むしろ気を使いすぎると絶対零度の笑顔付きで拳が飛んできますよ?」



「売られた喧嘩は買わせていただき…じゃなくてですね…

そういう事でしたら、喜んでお邪魔させていただきましょうか。

何か欲しい物がございましたら、途中で買っていきますよ?」



何気に黒ボスはアグレッシブだな。

俺とが揃って欲しい物と言えばアレしかないだろう。



「多分、いや…間違いなく酒が足りなくなると思いますので

それを買って行く事にしましょうか。

おい、聞いてたんだろ?後は何か要る物…そっか、了解。

んじゃ、仕事終わってこっち出る時にまた連絡する、したっけな。」


通話終了のボタンを押し、残務整理を黙々とこなす。

途中で集中力の切れかかる白ボスを、俺と黒ボスで叱咤激励して

なんとか仕事を終わらせて着替えた後で、昨日も行ったショッピングモールへ

そこで酒とつまみになりそうな物を適当に買う。

プリンが食べたい!と言う白ボスに、も甘いものが好きだから

お勧めを買っていくと喜ばれますよと言えば、嬉しそうに厳選していた。

買い物が終わって、これまたポケモンの空を飛ぶでアパートへ向かったが

ここでも黒ボスが俺のトゲキッスに目を輝かせていた。

白ボスのアーケオスも格好いいな、俺もゲットしたくなってきた。


アパートについたと同時に1階の左端のドアが開きが出てきた。

ブルーグレーのカッターシャツの袖をまくり、モスグリーンのチノパン

いつもキッチリとオールバックにしている髪も今は降ろされていて

メガネも外しているその姿に、ノボリとクダリが驚いている。

うん、こういう格好してるとすげー若く見えるんだよ、コイツは。



「あーっと、ちょっと普段着なんで雰囲気違うけど気にしないで欲しいな」



二人の様子に察したのかが苦笑いをしてどうぞと中へ二人を入れる

俺もその後に続けば、入口で靴を脱げと言われた。

うん、やっぱ俺等にはこの習慣じゃないと落ち着かないよな。

他の連中もあまり気にしていない所をみると

こっちでも、そんなに珍しい事ではないのかもしれないな。


中に入るとヒメグマと鼻水垂らしたちっこい白クマがこっちを見てた。

ノボリがクマシュンでございますかと言ってる所をみるとそう言う名前か

どっちも ようき な性格って事はすばやさ振り目指してんのか?



「なにコレ、なにコレ!かーわーいーいー!!

あ、ヒメグマが照れてる…もうもう、ボク我慢できないっ!」



そう言ってクダリがヒメグマ向かって突っ込んで抱きしめた。

慌てて止めようとしたノボリのパンツの裾をクマシュンが掴んで

上目遣いで首をコテンと傾げている…ちょ、可愛いじゃねぇか!

案の定、ノボリもノックアウトで抱き上げて頬摺りしてるし。

と言えば、うちの子可愛いでしょう?とドヤ顔している。

何気にこいつはモフモフ系の可愛い物が好きだったりするんだ。


ポケモン達を膝に乗せ、テーブルについた二人を確認してから

が料理を並べる。サーモンとほうれん草のグラタンとコンソメスープに

大根と生ハムのサラダ、バゲットはガーリックトーストにしているあたり

相変わらずの凝り様に笑っちまった。

出てきたメニューに目を輝かせた二人に、どうぞと促して食べさせた後で

賞賛の言葉をもらって満足げに笑いながらワインを一気飲みしてる。


食事中は色々とポケモン談義に花を咲かせ、種族ごとの育成論を

熱く語り合ったりした。帰る頃にはすっかり意気投合したようで

口調も雰囲気も砕けて長年の付き合い同士みたいだった。

会ったばかりの相手にがこんなに打ち解けるとか珍しいな…って

俺も人の事言えないか。まぁ、仲良くなる事はいい事だ、うん。


歩いて帰るという二人を送って行くと言えば、酔いを覚ましていきたいと

やんわりと断られ、それじゃあと見送った後でと飲みなおす。



「いい連中だな。お前が自分の懐に入れたのも納得したわ。」



がオリエンテーションと新人教育のプリントの束を見ながら

色々とメモを書き込んでいる。その表情は凄く穏やかだった。



「だろ?色々と人間関係であったみたいでよ。ほっとけないんだわ

それにあいつらは俺達を助けてくれる、そんな気がするんだよな。」



「お前の直感がそう言ってるんなら、間違いないんでないか?

問題はだなぁ…って、そう言えば

凄く良い人みたいで一緒に仕事するのが楽しみって言ってたからいいか。」



空になった俺のグラスに無言でワインを継ぎ足して自分のグラスにも注ぐと

一気に飲み干したと思ったら、なにやらパソコンを取り出して書類を作る。

のグラスにワインを注いで覗いてみれば、何かの意見書とその資料…

おいおい、マジでやらかすつもりかと問えば、ニヤリとした笑いが返ってくる

部長…取り敢えず頑張れ、超頑張れ!俺では止められません。



「そう言えば、の荷物だが、中に入れるのは運送会社に任せるけど

細かい配置とかも頼まれたからさ、お前明日の帰り手伝えよな。

俺は細々したもの揃えたりするから、時間はいつでも構わない。」



「了解、んじゃ明日仕事終わったら連絡する。

一応お前の作業服とかは揃ってるから明日は早目に来てくれ。」



グラスの中身を飲み干して言えば画面に視線を向けたまま片手を上げて

了解の返事が帰ってきたんで、グラスをキッチンに置いて部屋を出る。

さて、シャワーでも浴びて俺も寝るとするか。



****



翌朝、仕事に向かおうとカバンを掴むと同時にドアがノックされて

出てみればがスーツ姿で立っていた。

一緒に出社して、着替えた後でオレ達が朝礼に行ってる間は待機してもらい

その後、総務からオリエンテーションの連絡が入ると、分厚い書類の束を持った

が不敵な笑いをして執務室を後にした。



「ボク、このあとの展開が読めるんだけど。」



白ボスがパソコンの画面を開くと総務部の画像が送られてきた。

タイトルは…「ダークライ連敗の危機?あの課は格闘タイプの巣窟か?!」

画面では部長の手にした書類にアンダーラインを引きまくりにこやかに…

目が笑ってないがな…説明していると青い顔した部長が映る。



「少なくとも達に喧嘩を売ろうという考えを持つ者はいなくなるでしょう。

まぁ、その様な方はこのギアステにはいらっしゃらないと思いますけどね。」



敵に回せば怖いけれど、味方につければ重宝しますよ?と言えば

友人としては頼もしい限りですねと控え目な笑みが返ってくる。

横で白ボスがも凄いよね!と満面の笑みを見せてくれる。

聞いてるこっちが照れくさくなって、どうもとだけ答えた。


昼近くになって、ギアステバトル連勝中だぜとVサインをしたが戻り

上司二人は労いの言葉?をかけているが、一番労ってほしいのは部長だろう。

一緒に昼飯でもと声をかければ、このまま退社して荷物受け取り前に

掃除なんかを済ませておきたいからと断られた。

帰りにそっちに寄る事を再度言って鍵を渡すと両ボスに向かって一礼してから

はギアステを後にした。



「なんと言いますか…は、実はかなりの世話好きでらっしゃいますか?

あ、実はは恋人同士だとか?」



「それ、ボクもちょっと思った。もそうだけど、

をすごく大切にしてるってわかる。なんだろう友達以上っぽい?」



二人の言葉にもう少しでコーヒーを吹き出すところだったのをなんとか堪えた

あぁ、確かにそれは他の人にも散々言われてきたが、違うと断言できる。



「ダチ以上は認めますね。俺やにとってはは妹分です。

一時、俺もも荒れに荒れた時期があって、それを文字通り返り討ちにして

壮絶なバトルを繰り広げてまっとうな道へ引き戻してくれたんですよ。

事実、昔は俺たちのことを兄ちゃん、兄ちゃんって言ってましたから

マジで妹みたいな、まぁ身内みたいな感じなんですよ。

ですから、恋愛感情は全くありません。ぶっちゃけあいつの裸見ても俺達は

絶対に勃たない自信がありますよ?」



白ボスは何度も感心したように頷き、黒ボスは顔を赤くして納得してた。

まぁ、言ってもなかなか信じてもらえないんだが、事実なんだから仕方ない。



「そっか、妹…うん、言われてみればそんな感じが一番しっくりくるかも。

二人とはボクとノボリみたいな感じなんだね。」



「成程、そう言う感じであれば色々と世話を焼きたくもなりますね。

事実、私に妹がいたら同じ様に世話を焼いてしまうかもしれません」



黒ボスの世話焼き具合が簡単に想像できて思わず笑っちまった。

昼飯を食いに食堂に言ってみれば、さっきの部長とのバトル映像?を見てた

職員達が俺の傍にきての事を色々と聞いてきた。

俺の従兄弟だと説明すると全員が納得するのには俺が納得できないぞ!


午後からは総合役職会議に提出する為の書類を作成しながら

時々バトルの為に不在になるボス達の書類を代わりに受け取ったり

伝言を言付かったりして退社時間までを過ごしていた。


退社時刻になって一度着替えてから執務室へ戻ってみれば

両ボスがバトルから戻ってきたばかりのようで、コートと制帽着用のままで

書類を眺めながら何かを話していた。これは残業するんだろうな。大変そうだ。

2人に声をかけてから退社して、俺はに連絡を取ってから目的地へ向かう。



「どうして、こうなった?」



部屋に入るといかにもお洒落な女の子の一人暮らしの部屋が完成している。

いや、それをコーディネートしたのはいい歳ぶっこいた野郎だぞ?

ビタミンカラーを上手く取り入れたカントリー風のリビングを前にして

呆然としていると、バスルームからエプロン姿のが出てきた。



「おう、早くに着いたんだな。んじゃベッドの位置変えるの手伝ってくれ

あと、クローゼットも移動させるから頼む。後な…」



俺が来たことで、一人では動かせない大物たちを移動させて

色々と配置していく。はマンスリーに住んでたから、

こういった大物はきっとこいつが買ったんだろう。

電化製品のセッティングも終えて、すぐにでも生活できるようにする頃には

いいだけ時間が経っていた。そう言えば俺、飯食ってねぇぞ!

腹が減ったとに言えば、んじゃ場所を移動しようと言われて向かった先は

つい最近来た事のある上司の家の前だったりする。同じマンションだけどな。

どういう事だと聞いてみれば、メールをもらったんだとが笑っている。

インターフォンを押せばドアロックが解除され中からクダリが出てきた。



「二人共お疲れ!んとね、ボク達きっと二人はご飯食べるのを忘れて

荷物整理しちゃうと思ったからご飯作っておいた!食べて食べて。」



クダリに背中を押されてリビングへと入る既に料理が並べられていた。

ノボリがキッチンから冷えたグラスとビールを持ってきてテーブルに並べる。



「労働のあとのビールは格別でございますよ?

その様子だと全部終わったのでしょう?おつかれさまでした。」



ホント、何気にこいつらの気遣いってすげーよな。

申し訳なくて俺とがすまないなと言えば二人同時に首を振る。



「あのね、ボク達誰かの為にこういう事をした事がない。

なんだか、こういう事するの、初めてでくすぐったいような嬉しいような?

だから謝らないで。友達なら、仲間なら当たり前! ね?」



「で、ございますよ?そこはありがとうと言われた方が私達も嬉しいです。

余計な気遣いや遠慮は不要!と言うものです。」



その言葉に俺もも笑って感謝の言葉を述べるしかなかった。

たらふく食って、ほどほど飲んで(ノボリが毎日飲みすぎでございます!と

怒って酒を全部回収したからなんて言えねぇ…)バカ話に花を咲かせて

ひとしきり騒いだ後に俺達は寮へ帰る事にした。

泊まっていけと言われたが、明日は俺も午後出で午前中はちょっと

やる事があると言えばひどく残念そうな顔をされた。

また今度休日前にでも泊まりに来る事を強制的に約束させられ

二人の家を出たのは日付が変わった位の時間になっちまった。


酔い醒ましがてら歩いて寮に向かう。

イッシュの夜空はシンオウとは比べ物にならないほど星が少なかった。


一度はドラゴンに…ポケモンに滅ぼされた国、だけどポケモン達と人間が

手を取り合い再び歩き出して築いてきた国…素晴しいと素直に思う。



「良い所だな、イッシュも」



俺がぼそりとつぶやいた言葉をは聞き逃さなかったらしい

頷き返して同じ様に空を見上げる。



「この世界は良い所しかないだろうさ。

お互いが思いやって、未来を希望を疑うことすらしねぇ。」



そう言ってが俺の顔を真剣な表情で見つめてきた。

わかってるよ、俺も…そしてや他の奴らも想いはただ一つだ。

視線をそらさずに頷けば満足げな顔をして再び前を向く。


沢山の街の灯りをくぐり抜けるように俺達は家へと帰って行った。

明日も色々忙しいだろうなという予感が外れて欲しいけど、無理だろうな。