-一章・孤軍奮闘編:二人目の部下の登場-

一章・孤軍奮闘編

二人目の部下の登場



昨夜はしこたま飲んで食って、結局ノボリとクダリは泊まる事になった。

早朝、一度戻って着替えてから出社するという二人に昨夜の残りで

朝飯を作ってやったらえらく感激された。


朝礼前に着替えて執務室に入れば、すでに二人共打ち合わせ中で

挨拶を互いに済ませた後にデスクに向かいパソコンを起動する。

昨日総務部長からもらった書類を確認して、提出に必要な物をピックアップし

別なファイルへまとめる。上に立つとこういう書類関係が多くてめんどくさい。
 

朝礼終了後、俺は管制室へ行き利用客数と混雑する時間と場所、車両の運行状況

それらに関する書類を受け取り、執務室へ戻りスケジュールを組み立てる。

そう言えば、の奴は昼頃にこっちに来るとか言ってたな。

黒ボスは午前中は社外にて打ち合わせで不在。白ボスはダブルに挑戦者が来たと

言って出てからそれっきりだし。

今日は雇用に関する書類と経理関係に関する書類形式の作成をするか。

執務室にはしばらく時計の音と俺のキーボードを打つ音だけが響く。


コツコツと足音が近づき、ドアが開くと書類の入った茶封筒を抱えて

ノボリが打ち合わせから戻ってきた様だった。



「ただいま戻りました。おや、クダリはバトル中でございますか?

私の不在の間、何か変わりがなかったのか聞きたかったのですが…」



「結構早くに、ダブルの挑戦者がって事で出て行ったきりですね。

っと、おかえりなさい。俺の知ってる限りでは問題はありませんでしたよ。」



ドサッといかにも重たげな音を立てて封筒をデスクに置くと

ノボリはインカムでシングルのチャレンジャーのいない事を確認してから

帽子とコートをハンガーにかける。

紙袋の中の書類をいくつかのファイルに分類してから

壁面のモニターのスイッチを入れると色々な場所のカメラが映し出す映像が

何分割にもされて映し出される。



「おや、今はスーパーダブル中の様でございますね。

戦況は不利の様ですが、なんとも楽しそうにバトルをしているようですね。」



モニターの画面を1面のみにして、スーパーダブルトレインの車両内が

画面いっぱいに映し出された。

そこには満身創痍のクダリのポケモンと悔しそうな表情で指示を出している

クダリの姿が映し出された。

チャレンジャーはよほどの強者なんだろう、クダリが必死になっている。

モニター画面を横目に書類をプリントアウトしてチェックする。

ノボリもバトルの様子を見ながら、不在中に届いた書類をチェックしていた。



「チャレンジャーは、おや?イッシュの方では無いようでございますね。

それにしても色違いのボーマンダとは珍しいし良く育てられておりますね。」



ノボリの手が止まり画面に釘付けになる。つくづくバトル好きだよなぁ…って

ちょっと待て、色違いのボーマンダ…だと?

デスクから立ち上がりノボリの横に並んだ時に、ちょうどチャレンジャーの顔が

アップになった。

ダークネイビーのスーツに身を包み銀縁のメガネをかけた男が映る。



「あいつはぁああああああ!!!なにやってやがるんだっ!」



横でノボリが耳を押さえてこっちを見てたが、そんなのに構ってられねぇ

俺はドアを開けて、スーパーダブルトレインの乗り場へ急いだ。



、構内を走ってはいけません!ってどうされたのですか?」


ノボリが帽子とコートをもって横に並んだ。

執務室以外は特徴あるこの制服着用は必須だが重いし暑いので普段は脱いでいる。

コートを広げて着込んだ後に俺の方を不思議そうに見ているノボリに向かって

俺は、口に出したくはなかったがクダリの対戦者の名を告げた。



「クダリと対戦してるのがですよ。アイツ…早くに着いたならサッサと

こっちに顔出ししやがれってんだ!」



「落ち着いてくださいまし。今、インカムで確認をとります。

クダリ、そちらのチャレンジャーは…

はい?通りすがりの通行人A様とおっしゃられる??クッ…いえ、失礼。

その方は様、の従兄弟様でございますよ?」



ノボリがインカムでクダリと話していたが…口元を押さえて肩を震わせている。

なぁにが、通りすがりの通行人Aだ! ふざけるのもいい加減にしろ。

そしてクダリ、その名前を言われて怒らなかったお前を俺は尊敬するよ。

俺とノボリがスーパーダブルのホームに着いて暫くすると車両が到着した。


ゆっくりと最後尾のドアが開き、白いコートを翻しクダリが降りてくる。

俺たちの方を見て片手を上げた後で、車内をみて一礼する。



カツン



革靴の硬い音を響かせて車内から降りてきた従兄弟は俺を見ると

ニヤリと笑い、近づきざまに鳩尾に拳をいれてきやがった。

沈み込みそうになる身体を気合で立て直し脇腹に回し蹴りを入れる

同じ表情で固まってる双子が慌てて俺達を抑えにかかった。



!落ち着いてくださいまし。リアルバトルは絶対駄目でございます!!

ギアステ職員である限りは許される事ではありません!」



、先に手を出すのは色々突っ込まれるからダメ!

まずは話し合う、コレが大事!」


俺にはノボリが、にはクダリがそれぞれの肩をつかみ距離を取らせる

俺達はお互いから目をそらさずに睨んだあとにニヤリと笑った。

リアルバトル?いいえ、ただの挨拶ですが何か?



「一年ぶりに喰らったが、鈍ってんじゃねぇのか?」



「うるせーよ。テメェこそ蹴りのスピード落ちてんぞ。」



臨戦態勢を解き、お互いにハイタッチをする。

白黒上司は未だにあっけにとられていたが、先に正気に返ったのはクダリだった。



「ちょ、物騒な挨拶やめて!ホントにバトルするかと思ってすっごく焦った!!」



両手を握りしめて、俺達を睨みつける顔が少し歪んだ。

あぁ、マジで心配させちまったみたいで申し訳なくなった。



「白のサブウェイマスターが気にする事じゃないよ。コレが俺達の挨拶で

別に仲が悪いって訳でもないんだから…な?」



がそう言ってクダリの背中をポンポンとあやす様に叩く。

鉄面皮なこいつにしては珍しく目元が優しげに細まっていた。

好き嫌いのハッキリしたコイツの性格を心配してたが、

どうやら俺の杞憂に終わりそうでちょっと安心した。



「えぇ、ですから黒ボスも改めて紹介したいのでいい加減戻ってきて下さい。」



未だに俺の腕にしがみついたままうつむいているノボリの頭をポンと叩けば

やっと我に返ったのか、ハッとした顔の後、失礼しましたと言って離れる。

場所を変えましょうという黒ボスの言葉に従い俺達は執務室へと向かった。


執務室に戻り、俺の横に立ったが白黒ボスに向かい姿勢を正して一礼する



「改めまして、この度こちらで経理をメインに担当するです。

イッシュには半年ほど前に来て昨日リーグ制覇を終えました。

まだまだ、習慣等不慣れですが宜しくお願いいたします。」



殿堂入りはいつもの様に辞退したらしく、二人に勿体無いとか言われていたが

はただ笑っているだけだ。

それにしてもクダリの懐きっぷりが凄いなと思ったら。

はスーパーで連続5回手持ちを変えてバトルしやがって全勝したらしい。

相変わらずの鬼畜っぷりに俺は笑うしかなかった。

ノボリが是非シングルにも乗ってくださいまし!と詰め寄っている。

シングルでもそこそこ行けるとは思うが、こいつはダブルの方が得意だ。

ぶっちゃけ、俺もこいつにはダブルでは負ける。シングルはその逆だけどな。


色々と必要書類を書かせて、仕事の流れについてざっと説明を終えた後

4人でコーヒーブレイクを楽しむ。


住むところは俺と同じく寮…っつうか、アパートにするらしい。

人に干渉されるのを極端に嫌う奴だから心配したが、少しは改善したみたいだな。

俺の受けたオリエンテーションと新人教育の話をしたら爆笑した後で

そのプリントを分捕って目を通し始めた。どうやら全部暗記して

やり込めてやるつもりでいるらしい…。

その様子にノボリとクダリが顔色を変えていたが、はどこ吹く風で

コーヒーのおかわりをしていた。



「こうして見ると、って兄弟みたい。がやんちゃなお兄ちゃんで

がツッコミ役?最初はビックリしたけど、仲良しみたいで安心した。」



俺がプリントの補足をしているとクダリが笑いながら更に補足をする。

ノボリがそれに頷いてもうひとつのプリントを指差して説明してくれた。



「で、ございますねぇ。雰囲気は正反対の様にも見えますが

なんと言いますか、根っこの部分が同じといいますか…」



「まぁ、俺の両親が事故死してゴタゴタがあった後

の親が後継人になってくれて一緒に育ったから、そう見えるかもな。」



俺の言葉にすみませんと慌ててノボリが謝るのを手で制した。

が俺を指差しておどけたように付け足す。



「こいつ、無茶苦茶グレてて手がつけられなかったんですよ?

まぁ、あれだけ色々とあれば仕方がないけど、良く更生したと思います。」



「まぁ、引き取られた時は人間不信の塊だったからなぁ…若かったんだよ。

今となってはいい勉強になったと思ってる。同じ経験はゴメンだけどな。」



二人が神妙な顔をしてるから、そんなモンは過去の話だって笑って見せれば

少し安心したように笑い返す。それをがみて頷いていた。



からが初対面の相手と凄く仲良くなっててビックリしたって

聞いてたけど、成程なって納得。こりゃ放っておけない。」



同時に首を傾げて頭の上にクエスチョンマークを乗っけてる二人に笑いながら

は手を差し出していた。



同様、俺とも仲良くしていただけると嬉しいな。どうでしょう?」



「うん、ボクとも友達になりたいって思ってた!ヨロシクね!!」



「私も、同様、と親しくなれたらとお話を聞いて思っておりました。

こちらこそ、どうぞ仲良くしてくださいまし!」



3人で笑顔で握手を交わしている光景に俺も気持ちが温かくなる。

早速明日から仕事をしてもらおうと話すとが首を横に振った。待てやコラ



が荷物が明日夕方に届く様にしてあるって言ってたから

それの受け取り頼まれたんだよ。午前中は俺もこっちに来て

オリエンテーションと新人教育受けるがその後はパス。

後は、あいつがこっちについたら俺、空を飛ぶが使えるから迎えに行くし。

その他にもちょっと色々やる事…あるだろう?

から聞いたぜ?サブウェイマスターって女どもに人気があって

親衛隊まであるそうじゃないか。それも結構過激で有名だって。」



苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた当人達に向かって更に言葉を続ける

の情報網ハンパねぇな…っつうか、それ程こいつらが有名なんだろう。



「あいつにちょっかい出そうって言うんだったら、全力で俺が排除する。

どうせ、ここにとっても、二人にとっても百害あって一利なしだろうし

いい機会じゃないのかな?」



「あぁ、その件についても頼もうと思ってたからな。

まぁ、あまり大げさにしないようにサッサと片付けたい…出来るよな?」



俺の言葉に上司二人も頷く。

は呼吸一つ分の沈黙の後、クスクス笑って俺たちを見た

やばい、目が笑ってない。こいつ、絶対とんでもない事をやらかすつもりだ。



「勿論、誰からも後ろ指さされる事無く完璧に相手を悪者にして

他の人達に見せしめて、世間一般から抹消させてあげるつもりでいるよ?

俺達に喧嘩を売ろうなんて自殺行為以外の何物でもないってわからせるさ。」



親指で首を横に切る仕草をする、こいつを敵に回すのは俺でも避けたいな。

後ろで怖すぎでございます。うん、ボクもと言ってる二人を手招いて

は二人にも何かあるようなら排除する協力を惜しまないと言っている。

顔を引きつらせて礼を言ってる二人をみて頷いた後、俺の方を振り返る



「と、いうわけだ。

明日はともかく、仕事始めの日までは俺は好きに動かさせてもらうから。

数字関連の物についてはまとめておいてくれれば、その時に全部やる。

職員への紹介もその時にするってことで頼む。」



クダリから、社員寮の鍵を受け取った後で荷物を持っては退出した。

同時にインカムからマルチのチャレンジャーの到来を告げる声が聞こえて

二人も執務室を離れる。

俺は記入済みの雇用に関係する書類をまとめて、ライブキャスターで

総務部長に明日の午前中にオリエンテーションと新人教育を入れて欲しいと

連絡すると大丈夫かと聞かれたので、俺と同じ事をしたらあれ以上の

突っ込みが返ってきますよと返事をすれば、それは楽しみだときたもんだ。

最古参は伊達じゃないってか、その位じゃないと総務の頭ははれないか。

よろしく頼みますと返して、通信を切る。


これからの事はまだまだ問題山積みで頭が痛くなる所だが、

役者は揃ったんだ、後はそれぞれが動いて派手にやってやるさ。