-一章・孤軍奮闘編:課長VS部長-

一章・孤軍奮闘編

課長VS部長


   

総務部のドアをノックして中に入れば、部長が俺を手招いた。



「経理の方の目処はついたみたいだね。これが必要書類だから渡しておく。

それにしても、よく見つかったね。一応私の方でも探してみたんだが

なかなかフリーな人ってのはいなかったよ。うん、良かった良かった。」



穏やかな笑みでとんでもない書類の束を部長は俺に渡した。

この狸親父マジで食えねぇ奴だな、だが俺もやられっぱなしだと思うなよ!



「えぇ、俺の従兄弟が持っていまして、幸い現在イッシュでチャンピオンリーグに

挑戦中だという事でしたので引っ張りました。

色々とご面倒をかけると思いますが、よろしくお願いします。」



これはお世辞でもなんでもない、ちなみには俺以上に辛辣だ

そして、やられたら倍返しじゃすまない。10倍が基本な奴なんだ。

俺のこのやり返す手法の見つけ方とやり方は仕込みだったりする。

まぁ、覚悟して相手をするんだな。そして俺も反撃開始といこうじゃないか!



「こちらが、先程の男子トイレへのオムツ換えスペース設置の意見書です。

現在の社会背景、育メンと呼ばれる父親の育児参加率の増加の状況と

世間一般での男性の子育てに対する見解、意見等が書かれています。

それに付随して、ギアステ内の授乳スペースの設置の企画書も

新たに作りましたので、これらを見ていただいて検討…というよりも

早急に導入をすべきだと思います。」



受け取った以上の書類の束を部長の目の前につきだしてやる。

それを他の総務部の連中がびっくりしたように見つめていた。

部長はその書類全てを凄ぇスピードで目を通す。



「成程ね、需要が高まっているならば、それに応えるべきだろうね。

だが、授乳スペースを新設すれば男子トイレのスペースを作る必用は

無いんじゃないのかね?」



それらが書かれている部分にアンダーラインを引いて見せてきた。

やっぱりそうきたか。俺が何も考えないでいると思ったら大間違いだぜ

そんなもん言われる事なんざ最初から想定内なんだよ。



「授乳は女性にしかできないものでしょう?そこに男性が入るのは

どちらも気まずいですし色々と問題が起こると思いませんか?

授乳スペースを区切り一箇所を女性専用授乳スペースで確保がベストですが

男性が授乳させるのはパーティションで仕切る必要はないんです。

それこそ、構内のカフェスペースでお湯をもらってミルク作って飲ませても

何ら問題はないでしょう。ですが、女性はそうはいきませんでしょう?

ですから、両方が必要になると言っているんですよ。」



一息にぶちまけた後、部長の顔を見下ろすと、眉間に皺発見!



「しかし、予算的にもスペース的にも色々と考えなければいけないから

そうそう簡単に出来る事ではない。それは君にも理解して欲しい。」



そんな事言ってると、時代に取り残されるんだぜ、おっさん。



「予算やスペースについては何処の企業施設でも同じでしょう?

他で出来る事がここで出来ないというのはおかしいですよ。

お客様の為、ギアステーションのアメニティの向上を考えるなら

むしろ、なぜ今までこれらの施設がなかったのか俺は不思議ですね。

バトル施設だけではない、イッシュの住人の足として利用されてるなら

そういった子供連れのお客様だっていらっしゃったはずなのに

ベンチでおむつ交換?トイレで授乳?そんな事させるなんて本末転倒です。」



バッサリとブチ切ってやれば、部長は無言になった。

しかし、この案件は普通なら俺なんかよりも女性職員から出て良いんだけどな

そんな事を考えるような頭を持った奴がいないって事なのか?



「…話はわかった、この件はいつか役職会議の時に発言してみよう。」



おーっと、そうやって逃げるつもりか?だったら追い討ちかますぞ?



「その会議の時は、この案件を掘り下げて新たな部分も立案した俺も

参加したほうがいいでしょうね。

今度の役職会議はいつですか?ギアステーションのアメニティの上昇、

イメージアップの為だけじゃなく、俺をここに引っ張ってくれた

両ボスの功績アップにも繋がると思ってますので

実現に向けて更に資料を集めて煮詰めて持っていきますよ?

彼等の役に立ちたいんです。その位しなくちゃバチが当たりますから。」



とどめに両ボスの名前を上げれば、部長の雰囲気が変わった。

この人、どんだけ二人が好きなんだよ!まぁ、俺もだけどな。



「そうだね、…うん、次の役職会議に提案する事にしようか。

確か総合役職会議が2週後にあったはずだから、その前に私が

把握する時間も込みで完成書類を作る事は可能かね?」



「えぇ、午前中の今でこの書類を作ったのですから。問題ないです。

では来週末に書類をお渡しするって事でよろしいでしょうか?」



「あぁ、そうしてくれると助かるかな? では、その会議の時は

君にも参加してもらって、プレゼンテーションも頼むからそのつもりで。

それにしても、君は凄いね。専属契約が終わったら…いや、その前でも

私が推薦するから、正職員の試験を受けてみないかい?」



よし!勝った…勝ったぞ!!

今までの疲れなんざ、すっかりブッ飛んで俺は満面の笑みで部長を見る。



「それ、白ボスからも言われましたよ。

有り難いですが、今は契約した業務を完璧にクリアさせる事で頭が一杯ですので、

申し訳ありませんが、謹んで辞退させていただきます。」



部長も、いつもの人を食ったような笑みじゃない穏やかな微笑みを浮かべる



「そうか、そう言えば君も職人だったね。うん、良いね気に入ったよ。

その時が来たらまたこの話はさせてもらう。

ギアステでは、優秀な人材は縄で縛ってでも確保するのが通例だからね。」



何気に恐ろしい事を言われた気がするが、お互いに握手を交わして

俺は部長へ一礼すると部署全体に向かっても失礼しましたと声を掛けて

一礼して、総務部を後にした。


この部長とのやりとりが、ギアステのダークライ新種の格闘タイプに敗れる! と

ギアステ全体に一日も経たないで広まったなんて知ったのはあとの話。


部長、アンタどんだけ有名人だったんですか…っつうか、俺が格闘タイプとか

まぁ、言い得て妙だからそのままにしておくけど、

でも、ぶっちゃけるなら

俺は口よりも、リアルのバトルの方が得意なんだと付け足して欲しいぞ。