-一章・孤軍奮闘編:課長から見た上司達の考察-

一章・孤軍奮闘編

課長から見た上司達の考察




就職してすぐに職を失うなんて洒落にもならねぇ危機は回避した。

しっかし、マジで疲れた!もう、あの狸親父に反撃する気力も全部

持ってかれちまって脱力感がハンパねぇ。


クダリがここの正職員を勧めてくれた。

俺としてもまだ仕事を始めたばかりだが、ここは凄く魅力的な場所だ。

仕事も、人間関係も、おそらくはバトルでも満たされる場所。

できればすぐにでも頷きたかったが、そうはいかない。

見えない鎖に縛られた自分が恨めしく思うが、望んだ事だ 後悔はない。

書類を手に取り、文字を目で追う。

今はまだその時じゃない、それまでは俺達は好きな様にさせてもらうさ。

気を取り直しパソコンのキーを叩きながら書類を作っていく。

やっぱ色々とムカムカして収まらねぇから狸親父に喧嘩でも売ってくるか。


俺が書類を作っているあいだに、傍にいた上司たちはそれぞれに呼ばれて

バトル業務へと向かう。その嬉々とした表情と戻ってきた時の無表情さが

こいつらの満たされない想いを物語っている様だった。

ある意味この施設は閉鎖空間だ。その中での繰り返される日常に

正気を保っていられる事自体がおかしいとも思う。



『私達にとって、バトルは他所からの刺激と交流を受ける貴重な

方法でございますので、やめようと考えた事すらございません。

あの場所を離れようと思った事もございません。』



きっぱりと誇らしげに語ったノボリの言葉が頭をよぎった。


例えは悪いかもしれないが、こいつらって究極の引き篭りじゃないか?

それでも、心までは引き篭らず外の刺激を渇望する。

その二律背反にもがいて苦しんで、それでも前を進むことをやめない。

そして、他人に対しても誠実で清廉潔白であろうとする。

悪意や敵意を向けられる事もあるだろうに、どんなに傷ついても

その姿勢を貫き通して、決してその瞳を曇らせる事はない。

俺の様なひねくれた人間には到底出来る事じゃないと素直に賞賛できる。


危なっかしくて見てられない、少しでもこの二人を傷つけるものから守りたい

そんな気持ちがここの職員達…あの狸親父からでさえもありありと伺える。

この二人はこの暗く澱んだ地下でも宝石の様な輝きを失わないから。


でもな、高みを目指している相手を、守るだけじゃ駄目なんだ。

滞る水は腐る。谷底深くに叩き落としてでもやらなきゃならない事もある。

こいつらならきっと歯を食いしばり、心って名前の爪が剥がれ血を流しても

その瞳を曇らせる事なく、上を見続けて這い上がってこれるだろう。

そういう事が出来るのは恐らくはこの二人を崇拝にも似た形で見ている

ここの連中には不可能だろうな。


俺といると新しい風が吹くか…その期待に添えるようにやってやるさ。

ぶつかり合って傷ついてでも、そこから得るものは沢山ある。

そういうものを全て乗り越えた先で二人がどうなるのかを見てみたい。


疑心暗鬼でパッと見じゃ真っ直ぐに見える様で、近づいてみると

コイルの様にグルグル巻きにねじ曲がった性格の俺が

他人とこうも早く、それもかなり突っ込んで付き合うなんてありえない事だ。

だからも驚いていたし、もこの事を知ったなら

目ん玉ひん剥いて同じ様に驚くだろう。

二人といれば俺達にも何かが起きるって予感がするんだ。

それは悪いもんじゃなく、きっと俺達自身もを高みへと上げるもの。

ノボリもそうみたいだが、俺の直感も外れた事がない。

お互いに高みを目指したその先に何があるかは知らないが、

並んで進める相手がいるってのは良いモンだと思う。


色々とグダグダと考えている事自体、俺らしくない。相当疲れたんだな。

完成した書類をパソコン画面でプリントアウトのボタンを押して苦笑いした。



疲れてる?帰ってゆっくりしたほうが良い。

て、言うか まだ正式に仕事始めじゃない。オリエンテーションも教育も

全部終わったなら、後はとかが来た後からの仕事でも良いと思う。」



マジでクダリは人の事をよく見てるよな。確かに疲れてはいるが

今はもう、そういう素振りすら見せない様に隠しきったと思ってたんだが

こいつはちょっとした変化も見逃さないで気遣う姿勢を崩さない。

気を使いすぎて自分が雁字搦めになって身動き取れなくなる癖にな。



「そうでございますよ、その事で誰かが…部長とか部長とかが

何かおっしゃるようでしたら、私が全力でお相手いたしますので

は自分の事だけを考えて、今はお休みくださいまし。」



ノボリ…あの狸親父に喧嘩吹っ掛けようとする相手なんていないって

自分で言っておきながら、自分が吹っ掛けてどうするんだよ?

ホント、傷つく事がわかってるくせに不器用だから

体当たりをしてでも、相手にぶつかって行くんだから困ったもんだよな。

でも、どっちのやり方も嫌いじゃない…いや、羨ましい位好きだな。



「ありがとうございます。ですが筋を通さないのは俺の主義に反するので

それに、問題は全部解決して、やりきった感の方が強いですね。」



プリントアウトされた書類をチェックしながら笑って言えば

ノボリからは控えめな、クダリからは満面の笑顔が返ってくる。



「総務部長に報告がてらこの書類を叩きつけて、軽くバトルでもしてきます。

恐らくロマン砲で1確ってわけにはいきませんので、やどみが食べ残しの

トリプルコンボで粘って勝利をもぎ取ってきますよ。

終わるのはきっと定時過ぎると思うのでその時点で上がらせてもらっても?」



ニヤリと悪タイプの様な笑みで書類を見せながら言えば

二人共自分を抱きしめるような格好で震え上がった。どんだけ恐れられてんだ。



「そのバトル、怖くてボク見れない!でも頑張ってすっごいバトルしてね。」



「バトルとは行う事に意味があります。その先にあるものが勝利か敗北か、

私には想像すらつきませんが、全速前進で出発進行して下さいまし!」



二人がグッドラック!と親指を立てて見送ってくれるのに応えて、

俺もウィンクをして親指を立てる。負ける気なんざねぇ。

さて、目指すは勝利、総務部に向かって出発進行!ってやつだ。