-白い上司の失敗とその結果-

序章

白い上司の失敗とその結果



ノボリから預かったパソコンをもってボクのリビングに戻ってみたら

は床に座ってメモに何か色々と書いていた。

書類の字を見たけど、癖が殆どないお手本に出てくるような綺麗な字だった。

でも、今チラッと見た限りでは綺麗だけど結構癖がある。

オンとオフの使い分けってここまでキッチリするものなのかな?



「ノボリ お風呂に入ったから、コレ預かった。

の字って書類と普段じゃ結構違うんだね。使い分けしてる?」



後ろから声かけられてビクって背中が跳ねた。それだけ集中してたのかな?

ノボリのノートパソコンをテーブルに置いてセッティングしてあげながら

に気になった事を聞いてみる。



「オンとオフの切り替えとか大人だったら当たり前の事。それ以外でも

人って結構裏表が激しい。ボク達、そういうのすぐわかっちゃうから

人付き合いも結構厳選しちゃうんだけど、はこれってどう思う?」



メモを書いていた手を止めてがボクを見つめてきた。

黒曜石みたいな瞳がキュッと細まってからフッと表情が緩んだ。



「それって普通じゃね? 誰だって嫌な奴がいるし、好き好んでそいつを

自分に近いところに置いときたくない。付き合いたくないって思うだろ。

確かに仕事絡みとかどうしても付き合わなきゃなんない奴も多くなると

そんな事は言ってられなくなるが、その時はこっちもバリケードで

ガシガシ固めて守りに入っていいと思うんだが…急にどうした?」



セッティングの終わったパソコンをに差し出しながら、

言おうかどうしようか迷ったけど思い切ってに切り出してみた。

さっき、ノボリには 良い人って事で今はいいでしょ って言ったけど

がどんな人なのか、もっと知りたいって気持ちが抑えらんない。



「大抵の人は裏表あるのはわかってる。でも、はそれが無い…

仕事との区別とかじゃなくて、もっと根っこの部分の裏表が

には感じない。それって凄くおかしい。が良い人なのはわかる。

だからボク達、会ったばかりだけど友達になりたいって思った。

もっと一緒にいたいなって思ってこの仕事にも引っ張り込んじゃった。

こんな事初めて。今まで色んな人見てきたけど初めてだから。」



「ですから、私達は少し戸惑ってしまっているのでございますよ。」



いつの間にお風呂からあがったのか、ノボリがボクの後ろに立っていた。

僕の肩に手を置いて横に座る。そう言えば3人とも床に座ってる。



「…俺等みたいな奴って見た事無い…か。」



が持っていたメモを閉じて目を閉じる。

そして、ボク達を見たときにはその瞳が暗く曇っている様に見えた。

違う、にこんな顔させたくてこんな話した訳じゃない!

ボク、の踏み入っちゃダメな所に入っちゃった?

すっごく後悔してるけど、口から出た言葉はもう戻せない。



「えぇ、私達は仕事柄沢山の人と出会っておりますが、

の様な方は初めてでございます。

ですが、私は戸惑っていると同時に嬉しくもあるのですよ?」



ノボリが笑ってを見てる。さっきまで色々と考えてたっぽいのに

吹っ切れたのかな?すごくさっぱりした表情をしてる。



「私達は殆どあの場所から離れた事がございません。

ですから、訪れる人を待つばかりですが、バトルを通じて

様々な事が体験出来る、お客様と交流出来るあの場所を誇りに思っております。 

しかし、胸躍るようなバトルが毎回出来るわけではございません。

胸を掻きむしりたくなる様な苦い経験も多々ございました。

理解しあう事ができずにバトルさえも虚しくなった事もございます。

むしろ、そちらの方が多いといっても過言ではないでしょう。

ですが、それでも、私達にとってバトルは他所からの刺激と交流を受ける

貴重な方法でございますので、やめようなど考えた事すらございません。

あの場所を離れようと思った事もございません。 


とはバトルをせずとも、こうして交流を図ることができました。

クラウドも申していたと思いますが、それは非常に珍しい事なのですよ?

貴方といると、きっと私達に新しい風が吹く…そんな気がしてなりません。


貴方のような人を見た事が無い事など、瑣末な事でございます。

わからないと戸惑っているのであれば、これから知ろうとすれば良いのです。

ただ、人には必ず踏み込まれたくない部分も多々存在いたします。

万が一、私達がのその部分に踏み込んでしまった時は

どうぞ教えてくださいまし。私達は貴方と上辺だけの交流をしようとは

思いません。時にはぶつかり合う事もあるかもしれません。

友人とは本来そういった物でございましょう?

それらをふまえて、私達はと付き合って参りたいのです。

むしろ、貴方の方こそ、この様な特殊な私達と付き合って頂けるのか

私はそちらの方が不安に思っております。」



ノボリがこんなにストレートに自分の感情を相手に伝えるのって珍しい。

確かにノボリはいつも誰に対してもバカ正直にぶつかるタイプだけど

いっつも言葉が足りなくて変に誤解されちゃうから余計に口数が減る。

そんな悪循環を繰り返しちゃってたから、敬語で話すようになった。

それだと少しでも相手に嫌な思いはさせないでしょうって…ボクにも。


そう、ボクにまで敬語使うほどノボリの心が深く傷ついちゃったんだ。

ホントのノボリは誰よりも不器用で優しい。そして淋しがり。

だから、ボクは今のノボリを見てると時々辛かった。

でも、これってボクがどうこう出来るものじゃないから、どうしようもなかった。

、お願い!ノボリの気持ちを誤解しないでちゃんと受け止めて!!

これ以上ノボリが傷つく所なんて、ボク見たくない!



、ゴメンね?ボク、の踏み込まれたくない場所に入った。

でも、ボクもノボリと一緒。とちゃんと向き合いたい。

の事、もっともっと知りたいと思った。

だけど、ボク達会ったばかりだったの忘れてた。急ぎすぎ良くない。

だから、の事、これからもっと色々教えて欲しい。

そして、ボク達の事も色々知って欲しい。」



ボク達の言葉を黙って聞いてたが急に笑い出した。

え?今のこの状況って結構シリアスな所だと思うんだけど。

笑える所なんてひとつも無いと思うんだけど!



「あぁ、悪ィ。なんか、これって愛の告白か?とか思っちまってな。」



…確かに、ちょっと知らない人が聞いたらそう誤解されそうな所もある。

でも、ボク達ソッチの趣味は無いってば!

ボクとノボリすっごく肩に力が入ってた。だけど今ので一気に抜けたよ!



「変に茶化しちまってスマン。まずは、クダリ。

別に踏み込まれたくない場所とかじゃないから気にすんな。

俺達みたいなの、見た事ないって言われたのは、初めてじゃないんだ。

その後でな、気味が悪いって言われた事があって。

俺は別に気にもしなかったんだが、がちょっとショック受けてな。

あいつ、そのせいで唯でさえ引き篭り気味だったのが悪化しちまってさ。

それをちょっと思い出しちまっただけなんだ。


別に俺は無理して人に合わせるつもりなんか無い。自分がやるべき事とか

出来る事をしないで傍観するのができない性分だからな。

周りの奴等が何か言おうが、裏とか表とか細かい事は知った事じゃない。

人の好みなんざそれぞれだ。周囲の人全部に好かれたいとも思わない。


でも、クダリがオレと友達になってくれって言ってくれて嬉しかった。

そして、きちんと向き合って行きたいって言われてもっと嬉しかったぞ。

こんな俺で良かったら、これからもヨロシクな。」



あ、この笑顔ってとか他の友達の話をした時のと同じだ。

その笑顔がボクにも向かっていると思ったら、胸が暖かくなってきた。

なんだろ、ボクすっごい嬉しい!



「後、ノボリ。お前達の様な特殊な立場っつうか、立ち位置ってのは

確かに色々めんどくさいし、大変だとも思う。

それでも自分達のいる場所に誇りを持ち続けていれるってのは凄い事だと思う。

世の中楽しい事ばかり、綺麗な事ばかりじゃない。

むしろそっちよりも苦しかったり悲しかったりやり切れない事の方が

遥かに多いだろうさ。心がバッキリ折れちまう事だってあるだろう。

それでもしっかり受け止めて前に進もうとして、俺とも体当たりかましてでも

向き合おうっていうその姿勢は凄いよ。


ノボリお前ってさ、凄ぇ不器用だよな?何にでもバカ正直にぶつかるのは

悪い事じゃないが、それだといらない所でお前が傷つくぞ?

でもさ、俺はそう言うの嫌いじゃない。変に小細工されるよりも、ずっと良い。

俺もお前に対しては遠慮なんかしない。それって失礼だろ?

それでも良ければ、これからもヨロシク頼みたい。」



良かった、ちゃんとノボリが言いたい事わかってくれてた!

そして、ノボリが傷ついてる事もわかってた!


ボク達、人間関係で色々グダグダになってた。

人に全然違うイメージで見られるのが嫌で、色々もがいたけど無駄で

もう疲れちゃって、どーでもいいやって思うことも多くなってた。

今では別に地下鉄とバトルとポケモンとお互いがいれば良いと思ってた。

でも、ホントは自分をちゃんとわかってくれる人がもっと欲しかったんだ。

それは難しくって、いつのまにか自分を守ることに精一杯で

半分以上諦めてたんだけど、はちゃんと受け止めてくれた。


目の奥がカッと熱くなって、思うように言葉が出てこない。

ノボリの方を見たら、ノボリの顔がちょっと歪んでた。

うん、わかるよ。ボクもちょっとホントに泣きそう。

辛くてとか悲しくてじゃない、嬉しくて泣きそうなんて初めてだ。



…私、本当は色々とグダグダ考える事が好きじゃないんです。

いつも仏頂面とか言われますが、自分ではそんな事ないと思ってました。

でもいつも…どうして良いかわからなくて…どんな顔をしていいのかも

わからなくて…何を言ったらいいのかすらわからなくて……」



「うん、ノボリはそう言うの苦手そうだもんな。

でも、わかる人にはちゃんと伝わってるぞ?クラウドとかキャメロンとか

カズマサとかさ。あいつらにお前の事聞いたらなんて言ったと思う?

目は口ほどに物を言うタイプだとさ。

お前の思ってる事、あいつらはちゃんと理解してくれてるぞ? 

後、クダリの事も聞いてみたんだがな。

凄く色々と気を使いすぎるくらい使う人、人の気持ちがわかる人だってさ。


あいつら、すげーお前達の事尊敬してるぞ。

ボス達が最高のバトルをしてキラキラしてるのを見るのが何より嬉しいって

自分達がその手伝いを出来る事を誇りに思う。その為なら何でもできるって

皆、幸せそうに嬉しそうに俺に話してくれたんだ。

お前達どんだけ慕われてるんだよ?それって凄い事だと思うぞ?」



はそう言ってボク達の頭をを撫でた。ノボリはやっぱり固まっちゃったけど

それでもすっごく嬉しそうだった。ボクも嬉しい。すっごく嬉しい!


そっか、皆がそう思っててくれてるんだ。ボク達がやってきた事、頑張ってきた事

ちゃんとわかってくれてたんだ。ボク達も一緒に仕事が出来て嬉しい。

そんな部下を持った事を誇りに思う。

やっぱりは凄い人だな。そんな人と友達になれて良かった!



「俺もさ、今日会ったばかりでここまで深く突っ込んで付き合ったのは

正直初めてでさ、ちょっと戸惑ってたりもしてたんだよ。

でもな、俺も同じ様にお前達といるとなにか新しいことが見つけられる

そんな感じがして、ワクワクもしてるんだ。

だからさ…何も気兼ねする事なんかない。ありのまんまでやってこうぜ?」



そう言ってボク達に拳を握って差し出してきた。

ボクとノボリはお互いに顔を見合わせてから頷いて同じ様に拳を作った。

そしてそれをの拳にコツンと合わせた。



「えぇ、遠慮なんかしませんよ?全速前進でぶち当たらせて頂きますとも!」



「ノボリ、そのいつでも取り敢えず体当たりはやめようよ。

も仕事ではボク達の部下になるけど、それ以外では遠慮はしないで。」



「おう、俺の辞書に遠慮っつー文字は無いんだよ。ドンと来いってんだ!」



お互いの顔を見ながらニヤリとチョロネコみたいに笑いあった。



「「「これからヨロシク(な!)(ね!)(でございます!)」」」