序章
黒い上司の戸惑いと納得
達と別れて一足先に自宅へ戻り、着替えてから風呂の準備を始めます。
昨日はクダリの所でだったので今日は私の所が風呂当番でございます。
サブウェイマスターという多忙な職に就いてからの決まり事とでも言いますか、
食事や風呂の準備、洗濯などと言った家事を、隔日でそれぞれ分担しております。
それは少しでもお互いの負担を軽くする為に、必然的に始めました。
万全の体調で少しでも良いバトルを提供する事が私達の使命なのですから。
寝る場所はクダリが提供すると言っておりましたね…
そう言えば珍しく昨日部屋の掃除をしていたのでタイミングが良かったです。
リビング端にある扉を開けてクダリの所へ入ります。
玄関も全て別々ですが、お互い行き来が可能な様にと、後で扉をつけたのです。
最初は一緒に住む事も考えましたが、いい歳した大人でございますので
そこは色々…えぇ、色々多々な事情もございます。
互いに決まったお相手が出来た時はこの扉は取り壊さなければですね。
それはいつになる事やら、現段階ではまったく予想もつきませんが。
クダリの部屋のリビングに入って私は預かったボールからポケモン達を出し
それぞれにあったポケモンフードを与えます。ついでに私の子達も
一緒に出して食事を摂らせ、それぞれに変化がないかもチェックします。
ふむ…どの子達も特に疲れた様子もなく調子が良さそうでございますね。
先日卵から孵ったばかりのバチュルが私の頭に乗ってきて遊んでます。
肩にはその前日に孵った私のヒトモシも登ってきました。
それぞれに撫でてやっていると玄関から物音がして二人が入ってきました。
「ただいまー!僕の子達にもご飯あげてくれてたんだ、ノボリありがとう!
、入って。ちょっと散らかってるけど、昨日掃除はしておいた!」
「お帰りなさいまし、もうすぐ風呂の用意もできますので少しお待ちを。
クダリの子達も私の子達も問題なしでございます。」
クダリの後からお邪魔しますと礼儀正しく一声かけて入ってきたが
ポケモン達をみて目を細めます。
「やっぱ、見た事のないポケモンばっかだなぁ!
お、この子はゴーストタイプか?全部の能力高いな。特攻とかマジ凄ぇ!」
私の肩に乗ったヒトモシをが撫でると モシッ と声をあげて
の手に擦り寄っていきました。
あ、いけません…この子はまだ生気を摂る加減ができていないのでした!
案の定、ヒトモシの炎が大きくなります。しかし、生気を摂られたはずのは
なんでも無いように、ヒトモシを撫で続けているではありませんか!
「!大丈夫?この子はヒトモシって言う。生気がご飯だから
今、摂られちゃったはず。まだ加減できないから具合悪くなってない?」
クダリが慌ててヒトモシをから離します。それが不満だったのか
ヒトモシが嫌々とと身を捩ってへと手を伸ばしました。
「あぁ 俺は、そういうのは平気なんだよ。だからそのまま好きにさせてやれ。
っと、ヒトモシって言うのか。お前、控えめなくせに甘えん坊だな!」
差し伸べられたの腕に飛び込み、モシモシと擦り寄っているヒトモシと
その横ではクダリと私のシャンデラがそわそわした様子でを見ています。
普通、ゴーストタイプ…特に生気を食する種類の扱いは大変難しく、
私達も始めの頃はそれこそ指1本動かせないという事が多々ありました。
それでも、お互いに信頼関係を深め、慣れ親しめば何も問題はありません。
他地方のゴーストタイプよりもはるかに扱いが難しいはずですのに
は全く気にした素振りもみせず、シャンデラ達の前に手をかざしました。
すると炎が一瞬大きくなり、その後、元に戻りました。
今度はシャンデラ達までもがに擦り寄ってます。
「、今のは何をしたのでございますか?この子達はシャンデラと言って
このヒトモシの最終進化系でございます。そして生気が主食でございます。」
「あぁ、俺の生気をお裾分けしたんだよ。別に具合が悪くなったりしないから
そんな心配しなくてもいいぞ?これは俺の従兄弟が教えてくれたんだが
自分の中の余分なエネルギー…つうか、気を放出する方法なんだとよ。」
私、そのような事が出来る方に初めてお会いしました!
クダリも驚いた様に目を見張っております。本当に今日は驚く事が多すぎます。
「…っと、そろそろ風呂の用意ができますので先に入って下さいまし。
私達は明日の準備がありますので、どうぞ。」
それじゃお先にと言うからヒトモシを預りボールに戻します。
クダリも全てのポケモンのチェックを終えてボールに戻していました。
「、ヒトモシの能力と性格当ててた。まさか…ジャッジ?」
クダリが明日の着替えを準備しながら呟いた言葉に、私も頷きます。
「おそらくはそうでしょう。そして、先ほどのヒトモシ、シャンデラの
あの様子…極上の生気を摂った時のものと同じでございました…。
本当に、は何者なんでしょうね。」
キッチンに立ち、朝食の下ごしらえをしながら、私はの印象を
振り返ってみます。その身に纏う雰囲気が、他の方とははっきり違う。
それだけはわかるのですが、その先が見えない…と申せば良いのか
底が見えない、得体の知れない…そんな印象もあるのです。
私達もこの様な職に就き、人の上に立つ立場でもございますので
ある程度のその人と成り等、すぐに把握できますがそれが通用しない。
しかし、のそれは不快な物ではないのです。
何分、初めての事ですので戸惑いはありますが、彼は敵ではない。
むしろ、私達を更なる高みへと導いてくれる…そんな気がするのです。
直感でしかないのですが、私の感は自分で言うのもなんですが
殆ど外れた事がありません。なので、今回も信じてみるべきなのでしょう。
「ノボリが戸惑うのも無理ない。でもノボリの直感も間違いじゃない。
出会ってからをずっと見てきたけど、嫌な感じが全くない。
子供じゃないんだから、そんな事殆ど有り得ないはずなのにだよ?
ボク達よりずっと大人だから、そういう事を隠すのがうまいのかなって
ちょっと思ったけど、それは違う。はボク達の敵じゃない。
今はそれだけで良いと思う。」
クダリが横に並んで手伝いながら私の方をみて微笑みました。
普段の表情も笑顔ですが、今のこれは彼の素顔の方でございます。
天真爛漫、よく他の方々がクダリの事をそう例えますが、
本来の彼の姿は人の感情の動きに非常に敏感で細かな事も見逃さないのです。
そのクダリがそこまで言うのですから、それで良いのかもしれません。
「風呂、先にありがとうな。潮風に当たってたからマジ助かった!」
濡れた髪をタオルで拭きながら、タンクトップとハーフパンツという
ラフな格好でが戻ってきた頃には、私達も準備が終わっておりました。
「って、着痩せするんだね。実は結構筋肉あったんだ!」
ボク、ビックリした!と言って笑いながらの傍に行ってクダリが
グラスに注いだおいしい水を差し出しました。
ふむ、無駄な肉ではなくてしっかりと筋肉がついているのですね。
「仕事が肉体労働だしな。成人してから体型は殆ど変わってないぞ?」
クダリの頭をポンと叩いてからキッチンに来たから、空になった
グラスを受け取りました。それはちょっと羨ましいですね。
「クダリ、先に入ってくださいまし。私は洗濯物を干してしまいます。」
「りょーかい。、冷凍庫にヒウンアイス入ってるから食べて?
後、髪の毛ちゃんと乾かさないと風邪ひく。」
クダリが扉を開けてバスルームへ向かった後で、はカバンから
ノートパソコンを取り出してライブキャスターと接続します。
私が洗濯物を干し終わってリビングに戻ってきても同じ姿勢でした。
「、風邪を引きますので髪の毛はキチンと乾かして下さいまし。
おや、ライブチャットでございますか?」
おう、と生返事をしてパソコンを起動させていたので、何事かと思い
横から画面を覗いてみました。
「あぁ、ちょっとに確認したいことがあってな…
この時間なら起きてると思うし、って…接続設定がめんどくさいな」
「ライブキャスター経由のライブチャットは色々とセキュリティの設定が
複雑でございます。よろしければ、私のパソコンをお使いになりますか?」
起動画面とにらみ合っていたに提案すると、眉をハの字に下げて
こちらを見ます。こうして見ると本当に私達より年上とは思えませんね。
「いや、出来ないとか悔しいから、もうちょっと頑張ってみる。」
何気に負けず嫌いでもございますね。
私が差しあげたヒウンアイスを食べながら、うーんと唸って
眉間に皺を寄せて画面を睨みつける表情がおかしくて、ついつい
クスリと笑ってしまうと、ちょっとバツが悪そうに肩を竦めます。
あぁ、クダリの言うとおりでございますね。悪い印象などは
微塵も感じる事ができません。
私達以外の人間がこの部屋に来たのは初めてでございますが
はすっかり部屋の雰囲気に馴染んでしまわれていて
私も、気兼ねすることなく寛いで、傍でコーヒーを飲んでおりました。
カタカタとキーボードを打つ音だけが響く沈黙も全く気まずさ等
感じずに、穏やかな空気が部屋を満たします。
「ダメだ、繋がらねぇ!ノボリ、悪いけどパソコン貸してくれ。
なんか、凄ぇ負けた気がして悔しいが、人間諦めも肝心だ!」
両手を上げて降参のポーズを取った後に私の方をみて両手を合わせる
その様な姿が可笑しくて更に笑ってしまいました。
「わかりました、では部屋に戻って取って参りますのでお待ちくださいまし。」
そう言って、私の部屋へ続く扉を開けてノートパソコンを自室から持って
出てきた所に、丁度クダリもバスルームから出てきました。
「パソコンなんてどうしたの?」
「が自分のパソコンをライブキャスターと接続してライブチャットを
試みたのですが、セキュリティの設定でつまづきまして、お貸ししようかと。」
その時のの様子を話せば、クダリもクスクスと笑い出しました。
「パソコンは代わりに持って行く。ノボリはついでにお風呂入ったらいい。」
クダリがいたずらを思いついた様な表情をみせております。
これは、きっとをからかうつもりなのでしょう。
「あまりからかうものではこざいませんよ?ではお言葉に甘えてお願いします。」
「りょーかい」
クダリにいじられるも見ものかもしれませんね。
これは急いで風呂に入って、私も是非拝見しなければ!