じゃない世界の訪問者達 

じゃない世界の訪問者達 




駅長のさんの家に泊めてもらったんで、ここは何かお礼をと思い
夕食の残りをちょっとアレンジして、朝食を二人で用意しておけば
なんだか凄く感謝された。

「あのスープが全然違うのに変わるとか、すっごい!
ぼく、こっちも好き。パンにも合うね。」

「昨日のスープとは全く別な料理にしか見えません。
わたくし、きょうはバターを落として食べさせていただきます。」

「昨日のスープに牛乳をぶち込んでから味を整えただけです。
だし巻きは昨日話してたら食べたくなったんで作っちゃいました。
お口に合えば良いんですけど、大丈夫ですか?」

「このほうれん草のだし巻き卵は朝飯に合うな。
確かにちょっと固めだが、中に具材を入れて巻くんだったら
この位で良いんじゃないか?味も薄めでこれもアリだな。」

取り敢えず気に入ってもらえたようでひと安心だ。
食事が終わって、使った食器をきれいに片付け、ギアステに向かう。

駅長室に向かう途中でジュニアさんがホームに立っていて
俺達を見つけて手を振る。

「兄貴と親父はこれから仕事だけど、二人はどうすんだ?
外に出てのんびりするんだったら、案内するぜ。」

「仕事の段取りしたいし、お世話になったんで、丁度材料置かせている場所
資材置き場だったか?そこの整理でもお礼にさせてもらおうと思ってる。」

うわー真面目とか言われているが、正直に言おう。
があの資材置き場の乱雑な状態を許せないだけだ。
こいつは、整理整頓とかキッチリしていないと何気にキレるんだ。

そうして、食堂の業務終了を待つ間に材料の置いてある場所を片付ける。
まずは、バトル業務と一般業務に分けてそれらを年代別と項目別に
更に細分化する。ダンボールには見やすいように見える場所に中身が何か
書いて古いものから積み上げなおす。
ちょっと埃っぽかったから部屋全体の掃除をすれば、丁度良い時間になった。

迎えに来た駅長さんにえらく感謝されながら
厨房に行き、スタッフさん達と一緒に荷物の移動をした後で
移動できないものが汚れない様にしっかりと養生する。
それが終わると、変色した壁を取り外してダクトを露出させる。

「…消防法とか立会検査とかの意味が無いだろうこれは。」

「でしょー?マジでふざけんなよって責任者に説教したくなったもん。」

中の状況は頭を抱えるほどお粗末なモンで
これを施工した業者がいたら問答無用でぶん殴りたくなったぞ!
ゴミを落とさないようにゆっくりと保温板を外して、そばに置いた
廃材入れにいれる。ダクトについた保温材を綺麗に取り除いてから
がダクトピンを取り付け始めたんで、俺は廃材を片付ける。

「おう、作業は順調か?何か不都合な事があったら
俺は駅長室にいるから、いつでも呼んでくれ。」

後ろから声を掛けられて振り返れば駅長さんが手を振っていた。

「作業は順調に進んでるんで問題無しですが、駅長さんは?
うわ、こっちに泊まり込むつもりですか?もしかして俺等のせい?」

それだったら申し訳ないと思っていたら、関係無いと笑って手を振られた。

「それにしても、昨日もらった書類を見て笑っちまったんだが
あの書き方はなんとかならなかったのか?」

そう言われて、俺は昨日駅長に渡した書類の記名欄を思い出した。
確かに笑われても仕方が無いと思うんだが、それ以外に俺等を
どうやって説明して良いかわからなかったんだから仕方が無い。

「俺等の事を表記するのに、あれ以外にどうやって書けと?
正直にそのまんまだから仕方が無いって事で、勘弁して下さい。
ちなみに、業務報告書の記名も同様にさせてもらいますんで。」

そう言ってニヤリと笑えば、似たような笑顔を返された。
悪巧みってわけじゃないが、こういう事があっても良いだろう。

駅長さんと別れた後は、作業の再開でダクトに保温板を取り付け
コーナーガードを使って固定したあとに、ラス…金網をかける。
保温作業が終わって時間はすでに翌日に変わっているが
この後の作業はボードを取り付けるだけだから問題は無い。

俺がボードの取り付けをしている間に、食堂の片隅で
に業務報告書の書式を作ってもらって書類を作り始める。
正直作業が終わって、どの時点で向こうに帰るのかがわからないんで
こういう事は早めにしておかなければマズイってもんだ。

「おはよう、朝ごはん持ってきたから駅長室で食べよう。
ぼく、こういうのって見るのはじめてだけど凄いね。」

「壁の中など、わたしたちは殆ど見ませんから新鮮でございますね。
駅長も待っておりますので、駅長室に行きましょう。」

私服姿のここのボスが入ってきて、面白そうに周囲を見渡している。
確かに、普通の人間は工事中の現場には入らないから珍しいんだろう。
時間的にも余裕はあるんで、お言葉に甘えて同行する。

「おはようさん、作業の方は順調か?
それにしても、お前さんは俺とそんなに歳がかわらねえはずなのに
徹夜してもすげえ元気そうだな。」

そう言う駅長さんの目の下にはうっすらと隈ができてる。
もしかして寝てないのか?デスクをみれば書類が山積みされていた。
なんとも、管理者っていうのは大変だと改めて思い知らされる。

「3徹位なら余裕ですね。一日平均2、3時間の睡眠時間でそれ以外は
通しで仕事を工期が終わる間続けるとか無いわけじゃないですから、
ぶっちゃければ、慣れてるんですよ。」

俺の言葉に3人が驚いているが、建設関係の仕事で突貫なんて珍しく無い。
現場を掛け持ちしてたらよくある事でもあるんだよな。
差し入れされたサンドウィッチを頬張りながらコーヒーを飲む。
ほろ苦さが体中に染み渡って身体の力が少し抜ける。

「お父さんも見た目若いと思ってたけど、はもっと若く見える。
下手するとぼくたちと同じか、下に見えるかも。」

「確かに外見は若く見えるのは否定はしねえが、それ抜きにしても
はすげえな。あれか?普段から鍛えたりしてるのか?」

「まぁ、そんな所ですかね?腹筋とか割れてますんで見ますか?」

俺がおどけて言えば細マッチョか!なんて3人の声が揃うし。
マジでこの人達は仲が良いよな。

食事を終わらせて作業を再開したんだが、両ボスが仕事を見たいと言って
厨房に入ってきた。作業をしている横で色々と聞いてくるので答えながら
手は休めずに動かし続ける。そうしているとジュニアさんも来て
面白そうに作業を見つめていた。

そして、最後のボードを貼り付けて終わり、も書類を完成させ
俺等はその書類にそれぞれにサインをする。

「マジか…終わっても戻れないとか…冗談だろ?」

改修作業を完了させても、なんの変化も無い俺達をジュニアさんは
呆然と見つめていた。
さすがにこの状態で何も変化が出ないのはおかしい。
俺の直感が外れるとか信じたくはないが、現実は残酷だ。
両ボスに呼ばれて駅長さんも部屋に入ってきた。

「二人共お疲れさんは良いが、この状況はまずいな。
これから一体どうするつもりなんだ?」

最後の手段で神頼みと行くかと覚悟した時に
悲痛な顔をしてるであろう俺等に、が緩く首を振った。

「皆さん、そんな顔をしないで下さい。仕事はまだ全部終わっていません。
この仕事は掃除に始まり掃除に終わるんです。」

そう言って、手に持ったゴミ袋を見せる。

「恐らくはこれを捨てに行った時点で向こうに帰れると思います。
挨拶も無しにいきなりサヨナラってのは好きじゃないんで、
こういう姑息な手段をとってみました。」

そういう事は事前に俺にも教えろ!マジで焦ったんだぞ?!
尚も不安そうな表情のままの四人を連れて、俺達はゴミ捨て場へ向かった。

「あ、駅長さん、これが業務報告書になりますんで受け取って下さい。」

「…やっぱりこの表記は変えねえんだな。」

俺が差し出した業務報告書を見て、駅長さんは苦笑いをする。
両ボスとジュニアさんが不思議そうに書類を覗き込む。

書類の最後に俺等のサインを入れる場所にはこう書いてある。



“じゃない世界のライモンシティ ギアステーション
バトルサブウェイ施設設備保全管理課
課長:      作業員:   ”



それを見て、皆が笑った。
それ以外にここでの俺達を表すのにぴったりな言葉なんて無いんだ。
ここの人間からみたら、じゃない世界から来てるんだからな。

がゴミ袋を、ゴミの積まれたコンテナに入れると
俺等の身体が淡く光りだした。どうやら無事に帰れるらしい。

「二人は大変だったと思うが、正直こちらとしては助かったぜ。
駅長として、改めて礼を言わせてもらう。ありがとうよ。」

「もし、ぼくたちがそっちにハイリンクした時にはバトルしてね!」

「お二人と過ごした時間は短かったですが、楽しゅうございました。
お元気で、無事な帰還を祈っております。」

「俺もすげえ楽しかった!今度そっちにハイリンクする事があったら
もっと色々と話を聞かせてくれよな。」

四人がそれぞれに俺等へ別れの言葉を送る。
この短い間の出会いだったが、四人は俺等に強烈な印象を残した。
こういう交流も悪く無いって素直に今なら思える。

「皆さん、本当にお世話になりました!
皆さんもお忙しいのにかまけて無理しないで、身体を大切にして下さいね!」

がニッコリ笑いながら四人に手を振る。
俺も笑いながら手を振っていたが、ある事を思い出したんで
最後におきみやげでもしていくとするか。

「本当に、お世話になりました。皆さんお元気で!
後、駅長さん。
似て非なるシンオウ地方のキタキツネは、るーるるるって言っても
そばには寄ってきませんからね、むしろ逃げますよ?」

俺の言葉に駅長さんが目を見開いて何か叫んでいるようだったが
その声は俺等に届く事なく眩しい光が視界を覆った。


──時間にすればホンの瞬きをする位の間に、周囲の景色が変わっていた。
そこには見慣れた作業道具や、材料がきちんと整頓されて置かれている。
そして、例のわからない材料は全て無くなっていた。

あぁ、なんとか無事に俺等は帰って来れたんだ。
隣を見れば、も同じ様にホッと肩の力を抜いていた。
お互いに笑いながら、ハイタッチをしていれば、凄い勢いでドアが開く。

「ちょ、なんや物音がする思うて覗いて見れば、お前等かいな!
こちらクラウド、両ボスー、お探しの迷子が戻ってきたで!
場所は保全課の仕事部屋や、二人共全然変わらず元気そうやでー。」

中に入ってきたクラウドが、俺等を見た途端にインカムで通話をする。
その後で凄い勢いで両ボスが入ってきた。

「二人共無事?どっか痛い所とか無い??
ボク達すっごく心配した!でも無事で良かった、ホント良かったぁああ!
インゴとエメットも戻ってくるまで待ってるって言ってたけど、
そんな事してたら休みが終わっちゃうから駄目って言った。
二人が戻ってきたら連絡するって約束して帰ってもらった!」

「二人共ご無事で安心致しました!私達は不安もありましたが、
貴方たちなら、絶対にどんな手段を使っても戻ってくると信じておりました!
お顔の色が優れないようでございますので、まずは執務室に戻りましょう。
全ての話は休憩をしてから、ゆっくりと聞かせて下さいまし。」

二人に抱きつかれて倒れそうになるが、なんとか踏みとどまる。
両ボスが目を赤くしながら笑う姿に、釣られて俺等も泣きそうになった。
この二人は心配しながらも、帰りを信じて待っててくれた。
きっと凄い不安だったはずなのに、いつも通りの笑顔をみせる。
そんな二人をそれぞれに抱きしめ返した。

滅多にない経験も出来て、素敵な人達と出会う事ができて、
それはそれで楽しかったし、また行きたいとも思ってはいる。
だけど、あくまでも遊びに行くだけで、ずっと居たいって事じゃないんだ。
俺等が居たいと思う場所はあの世界じゃない、この世界なんだから。









そげらのさく様へ、40万HITのお祝いとして押し付けました。
こちらの長編キャラ達が、さく様の長編のじゃないシリーズの世界に乱入致しました。
いただいたこちらの話と対と言いますか、似たシチュエーションになってしまいました。
どっちのお話も初対面なのは、ポケモン世界は何でもアリなんだぜー!って事にして下さい。(笑)
食事シーンにつきましては、レシピが全てあるわ、保全課の仕事の手順はリアルと同じとか
あいも変わらぬ無駄知識がテンコ盛りで、長くなってしまいました。(猛省)
さく様、この様な作品を受け取っていただいてありがとうございます。
そして、掲載していただきお目汚しで恐縮しきりにございます。
改めまして、40万HIT おめでとうございました!