キリ番 13000
年の初めの試しとて 1
クリスマスのラッシュが終わり、業務的にも一段落ついた年末この期間は
ニューイヤーラッシュ前の体力温存の期間でもございます。
私もクダリも平常運行しつつ日々を送っていたのでございますが…
「あれ?クラウドがこんな時間まで残ってるとか珍しい!」
就業時間をいいだけ過ぎ、本日分の仕事を終わらせて帰宅途中
バトルトレーナー統括部のドアの前でクラウドとバッタリ会いました。
「ボス達は相変わらずやな、お疲れさんです。
明日から休暇に入るんで、諸々書類やらやっとったらこんな時間ですわ。」
「あぁ、ジョウトのご実家に帰省されるのでしたね。
遠く離れた場所にいる貴方をご両親はご心配されてるのではございませんか?」
イッシュとジョウトではそう簡単に行き来できる距離ではございませんから
せめて年に一度位はご両親に元気な姿を見せてあげるべきでしょう。
ご両親を思い浮かべてるのでしょうか、クラウドは柔らかく笑いました。
「放蕩息子で散々心配かけよりましたしなぁ…
せやから年に一回位はこうやって休暇をもろて、帰らしてもろてます。
嫁さんも子供もあっちのおせち料理を楽しみにしとるし、家族サービス?
そんな感じでやらせてもらっとるんで助かりますわ。」
「「おせち料理?」」
聞きなれない言葉に、私とクダリの声が揃ってしまいました。
料理というからには、それはジョウト地方の料理なのでございましょうか?
「あぁ、ボス達は知らんでもしゃあないですわ。
せやなぁ…縁起物をぎょうさん詰め込んだ料理の総称ちゅうたらええんかな?」
「縁起物?ってのもよくわかんないけど、なんだかすっごい料理っぽい!
それってジョウトでしか食べない料理なの?」
「白ボスの疑問ももっともやけど、ちぃと違いますねん。
カントーやホウエン、シンオウでも中身が多少違うとりますけどありますわ。
せや、…は食うだけやろな、かなら知っとると思うで。」
そう言ってクラウドは私達に別れの言葉を告げて帰られましたが
残った私とクダリはそれから家に帰るまでおせち料理がどの様なものなのか
ずっと気になっておりました。
「これはもう、明日三人に聞くしかございませんねぇ…。」
ネットで調べると綺麗な器…重箱というのですね。に綺麗に盛り付けられた
その画像を見て、私もクダリもより一層興味を持ってしまいました。
レシピを見ても正直言って材料がどの様な物なのかわからない物も多く
出来れば作ってみたいと思っていた私達はお手上げ状態でございます。
「…それはおせち料理が食べたいって言う事なのかな?」
次の日、朝礼の後に時間がございましたのでクダリと二人、保全管理課へ向かい
事の顛末を話すとが苦笑いをしてこちらを見ます。
「うん、ネットで見たらすっごく美味しそうだった!」
「確かにいろどりとか綺麗ですしね、でもそれ程美味いもんでもないですよ。
あれは縁起物と年始に家人が休めるようにって意味合いの料理ですからね
それに最近じゃセットで売ってるものを買って食べてる家が殆どです。」
セットで通販しているというのを聞いて私もクダリも驚いてしまいました。
なんでもチルドになっているとか…取り寄せも可能なのかと聞けば
今からでは間に合わないと言われてガックリと肩を落としてしまいました。
「そっかー、クラウドさんはジョウト出身ですもんね。
おせち料理かぁ、黒豆とかこっちじゃ絶対食べらんないしなー。」
「数の子だってそうだぞ?白醤油、黒醤油どっちも美味いからな。
おせちなんて聞いたら食いたくなってきちまったじゃないか!」
「おせちだけじゃねぇだろ、俺は雑煮が食いてぇぞ。
あぁもう!ボス達のせいですごく食いたくなってしまったじゃないか。」
「それってボク達が悪いの?えっと…ごめんなさい?」
「イッシュでは作れないのに思い出させてしまい申し訳ございません。」
それぞれに思い入れがある様で、これは悪いことをしてしまいました。
クダリと二人で謝れば、慌てた様に三人が首を振ります。
「いやいや、そういうつもりじゃないですから!えっと…気にしないで?
っていっても気になりますよねー、すみません。」
「なぁ、材料さえあれば作れないわけじゃないだろう?
俺も久々に正統派のおせち料理食いたくなってきたから作らないか?」
「どうせてめぇは食うだけだろう!って作っても良いが材料がねぇぞ?」
「そうそう、ほとんどの食材はこっちじゃ売ってないし?
ないものから作るなんてできるわけがないでしょー!」
「お前等、甘いな…栗きんとんより甘いぞ。こういう時は…っと」
との突っ込みを受けても不敵に笑うはライブキャスターで
どこかに連絡を入れ始めました。
「もしもし、俺だ。おう、久しぶりだな。
いや、今日は仕事の材料じゃないんだ。お前の所って食品も取り扱ってたよな
おせち料理のセットは売ってるか?…あぁ、やっぱりそうだよな。
いや、これからなら無理なのは知ってたから良いんだ。
材料なら揃えられるか?あぁ、別にフリーズドライでも冷凍でも問題はない。
…成程、それは流石に難しいか…いや、そっちはあてがないでもないから良い。
場所は…ギアステで…俺が作るわけないだろう?速達ペルシアン便で頼む。
料金は着払いで…はぁ?太っ腹だな!おう、それじゃ頼むな。」
通話中にがが何をしようとしてるのか理解したのでしょうか
同じ様にライブキャスターを取り出してどこかと連絡をとり話し始めました。
「やぁ、久しぶり。…そんなつれない事を言っても良いのかな?
この前送ったライブキャスターの最新モデルがこっちで発売されてるんだけど
…話が早くて助かるよ。それじゃあ塩数の子とみがき鰊と昆布の上物…うん
そうだね、後は…「黒豆と黒砂糖と栗の瓶詰め!」…聞こえたかい?
ふふっ、その通りだよ。日にちがそんなにないからね、速達デリバード便で…
あぁ、了解。こっちも送るから頼んだよ、それじゃあね。」
ほぼ同時に通話が終わった後、とがお互いにハイタッチを交わし
はそんな二人に向かって良い笑顔付きで親指を立てております。
これはどうやら私達の願いが聞き届けられた、そういう事でございましょうか?
「おせち料理全部ってわけにはいかないけど、代表的な物は作れるよ。」
「うわー、ホント?やった!」
「これから材料が届いて作るとなると大変ではございませんか?
私達でお手伝い出来る事がございましたらさせてくださいまし。」
「煮物とか結構特殊な料理は無理ですけど…そだ、栗きんとんとか茶碗蒸し!
それなら大丈夫だと思うので手伝ってもらえます?
そんで、年末から年始うちに集まって一緒に年越ししちゃいましょうよ!」
おせち料理につづいて年越し?聞きなれない言葉にクダリと二人で首を傾げると
三人は笑いながら説明してくださいました。
あちらでは年末年始をこちらでいうクリスマスの様に集まって過ごすとか
それは大変心躍るお誘いでございますので私もクダリも喜んで受けました。
その日はそれで話が終わり、2日程後に仕事が終わって帰る途中
三人が何やら大きな荷物を持って厨房の職員通路から出てきたのを見かけ
「うわー、すっごい荷物だけどそれってこの前言ってたおせち料理の材料?
ってか、こんなに沢山の材料が必要だとかお金もすっごいかかっちゃった?」
「言いだしたのは私達ですので、費用はこちらで持たせてくださいまし。」
そう提案したのでございますが、が頼んだ材料は費用がかかっておらず
(頼んだ方はダイゴ様で、費用は要らないと言われたそうでございます。)
の方は新型のライブキャスターと交換という事で
(頼んだのはシンオウのジムリーダーのデンジ様でございましたか!)
たまたま機械の方を無料でもらったとの事で断られてしまいました。
ですが、なにもせずに食べるだけというのは気が引けますので
荷物の半分を持たせてもらい、の部屋へ向かいました。
「うっし、んじゃまずは黒豆を選別しちゃおっかな。」
「俺は塩数の子の塩抜きと、みがき鰊を戻すな。えっとコメのとぎ汁で…」
「俺は煮物用のわらびとたけのこの塩抜きしとくぜ。後は…あったあった
干し椎茸を水でもどして出汁もとらねぇと…このくらいで間に合うな。」
見た事のない食材を慣れた手つきで扱うのを見ておりましたが
やはり何か手伝いたいと思い申し出てみます。
「、この豆って皮が破れてたり形が変だったりしてるのを分けてる?
その位ならボクにも出来ると思うから手伝わせて欲しい。」
「了解でっす、んじゃさつまいもは…あったあった。」
手にしているのは普段食べているポテトとは外見が違い驚きましたが
こちらの方は甘味が強くお菓子の材料にもなるのだとか。
何をするのか見ていれば、これは私にでもできそうでございます。
「これはどのようにすればよろしいですか?厚めに皮を向いて…
なるほど1日水につけてさらすのでございますね。それは私がやりましょう。」
「うわーい、助かります!んじゃ栗きんとんの材料を…って大変!
、クチナシの実を頼むの忘れてたよ、あれがないと綺麗に色が出ない!」
「マジか!クチナシの実なんざここらで簡単に手に入らねぇ…いや、待てよ
ノボリ、クダリ、この辺に漢方薬を売ってる店ってあるか?」
「近くに専門店がございますが。食材に漢方薬をいれるのですか?」
「漢方薬って苦い!そんなの入れて食べるとか信じらんない!」
「違ぇよ、さつまいもを着色するのに必要なものなんだけどな
山梔子、梔子、山梔とも言って解熱、消炎、止血、鎮静にも使われるんだよ。」
「サンシシ…でございますね、私ちょっと行って購入して参ります。」
そう言ってさつまいもを切る手を止めてコートを手にすれば
が漢字?の書かれたメモを手渡してくださいました。
「ノボリちょっと待ってくれ、ついでに三温糖…っとブラウンシュガー?
それも買ってきて欲しいんだが頼めるか?」
「それはオーガニックストアに売ってるけど方向が逆だからボクが行く!」
のリクエストにクダリが黒豆をより分けていた手を止めて立ち上がり
コートを持って私の隣に並びました。
お金を手渡そうとする二人を止めて、外に出れば寒さが身を引き締めます。
「寒っ!でも頑張って買い物しなくちゃだね、ノボリ。」
「えぇ、元はといえば私達が言い出した事でこの様になったのですから
ですがあの材料からあれほどの綺麗な料理が出来上がるのか?不思議ですね。」
「それボクも思った!でもね、作る経過を見るのも面白いし皆で集まるのも
すっごく楽しいから、無茶なお願いだったけど言って良かったと思ってる。」
「ふふっ、三人には申し訳ありませんが確かにそうでございますね。」
途中まで暫く歩きながら話をした後、二手に分かれてそれぞれの目的地へ
料理が仕上がるのにも時間がかかるのでしょうが、その間も皆でこうして集まり
それがニューイヤーまで続くのです。
当初の目的は料理でしたが、今はそれも含めて達と新年を過ごせる事
それが私もクダリも嬉しくて仕方がないのでございます。
ポケットに入れたメモを握り締めて、暖かな気持ちで私は道を歩きました。