地獄の沙汰は彼次第 -私がここにいる理由-

● 地獄の沙汰は彼次第 --- 私がここにいる理由 ●



現世にいるお父さん、お母さん、お兄ちゃんお元気ですか?
親より先にあの世にきてしまった親不孝な私は今日も地獄で元気にしてます。


「違う意味で地獄を味わってるけどねー。楽しいから良いけど」


机の上には所狭しと積み上げられた書簡、そのひとつを広げれば
人の名前と今迄の素行が事細かに書かれている。
頭の中でそれぞれの罪状にあった地獄の名前を浮かべながらその横に
それらを書き留める。それが私のお仕事のひとつです。

ある程度書き終わった書簡の束を抱えて立ち上がって目指すは法廷
裁くのは知らない人はいないあの閻魔大王様。
だけど地獄にこんな細かく沢山の役職があるなんて想像できなかったよ!
これじゃ現世と変わらない…ってか、私ホントに死んだんだよね?!


「まさか地獄にきてまで働くなんて思わなかったなぁ…」

「おや、罰を受けたいなら喜んで協力しますよ。」


溜息をつきながらこの状況を嘆いてたら後ろから聞き覚えのある声がした。
諸悪の根源…もとい、この状況を作った張本人が何を言ってるんだか!!


「加々知さ…じゃなかった、鬼灯さんがそれを言うんですか?」

ここで2番目に偉い人…第一補佐官の鬼灯さんが書簡を抱えて後ろに立ってた。
首が痛くなりそうな程の身長差が悔しいけど、相手は人間じゃなくって
鬼神様だから仕方がないって事にしよう、決して私の背が低いわけじゃない!!

私が地獄で働く事になったのは全部この人のせいだ。
その時の彼は加々知さんと名乗って、私の働いてる会社に派遣社員として来て
彼の指導を担当したのがたまたま私だった…よくある話だったはずなのに
実は地獄から現世の視察に来た鬼…鬼神様だったなんてねっ!
本人曰く、私の仕事ぶりが気に入ってアフターとかで色々観察した結果
これなら地獄で働いても問題ないだろうって決めたらしい。


「そうですねぇ、私にそんな権限はありませんが頼めばなんとでもなります。」


山の様に抱えた書簡の更に上に自分の持ってた書簡を乗せるとか鬼畜!
あぁ、鬼神様だから仕方ないのかもしれないけどその顔が憎らしい!!


「そういうのを職権乱用って言うんです。
そうだ、私の本来の罪状って何だったんですか?まぁ聖人君子じゃなかったけど
それなりに善行はしてた様な気がするんでちょっと納得してないんですよね…」


悔しいから言い返しては見るけれど、口でも仕事でも彼に勝てるわけがない
意趣返しで文句を言えば、ふむ…と考え込んでから懐から帳簿を出すと
パラパラと紙面を眺めてからゆっくりと口を開いた。


さんの罪状は親より先に死んでしまった…これが一番ですね。
貴女の言う通りそれを補って余りあるほどの善行は確かにありました。
ですがそんな事は些細な問題であって取り合う必要もないですね。」


この人は怖いことをさらっと言うんだって忘れてた。
些細な問題じゃないって、じゃあ私は別な何かをやったって事?
そのまま鬼灯さんが何を言うのか待っていたら、急に黙ってしまった。
あれ、そんなに言えないような話なんだろうか?


「…優秀な部下が欲しかったから、それでは納得できませんか?
使えないど阿呆のせいで私の負担は元々大きかったんです。
何故こんな事までと言う様なものも来るので仕事が増えるばかりです。
鬱憤ばらしにあの阿呆をどうにかしたって仕事が減るわけではありませんし?
むしろ時間の無駄になってしまいます。だからといってやめませんけど。」

「まぁ、確かに鬼灯さんの気持ちはわかるかも…
正直、ここに来るまで閻魔大王様って凄く怖いイメージしかなかったし
実際あの気の抜けた顔を見たら、ここホントに大丈夫かと不安になりました。」


罪人…死者を前にした時の大王様はそれなりの威厳や貫禄がある感じだけど
それ以外は鬼灯さんに良いようにされっぱなしの残念なおじさんだ。
新米の私にも随分腰が低いんでなんだか拍子抜けしちゃう。


さんのそういうハッキリした物言いは良いですね。
他の獄卒の皆さんは貴女程明け透けには言いません、思っていてもね。」


思ってるのかよ!ってツッコミは入れるのはやめておこう。
そんな話をしているうちに法廷に到着してみれば、丁度仕事が一段落したのか
大王様が椅子にもたれかかってぼんやり上を向いていた。
今日はなんだかこっちにくる罪人が多くて朝からずっとお裁きしてたもんねぇ
でも仕事はまだまだ山積みなんだから頑張ってもらわないと、私も帰れません!


「大王様お疲れの所申し訳ないのですが、次の裁定に使う書簡を持ってきました
今お茶をお持ちしますので、一休みしたら再開願います。」

「うぇええええ?!くーん、もう朝からずっと座りっぱなしなんだよ!
お腹も空いたから少し休ませておくれよぅ…」


極太眉毛をこれでもかって下げて、ぶっとい指を組み合わせて懇願するのが
なんだか可愛く見えるのは私だけなんだろうか。
私達のやり取りを黙って見てた鬼灯さんがいつの間に持ってたのか金棒を
思い切り床に打ち付けて大王様を絶対零度の視線で見つめる。
うわ…ヒビが入ってるんだけど、ここの床って何で出来てたっけ?
その視線だけで人が殺せるよね…あ、ここにくる人は全員死んでるんだった


「大王、私は朝にハッキリ言いましたよね?
今日は罪人が多いのでペースを上げて裁定を進めろと…それがこれですか?」

「鬼灯くぅん、これでも随分頑張ったんだよ?努力は認めて欲しいなぁ。」

「努力してこれですか?ミジンコが動いたってもうちょっと早いですよ
大体、人数は多くても罪状がそれ程複雑でもないんですから出来て当然で
それが出来ていないんです。努力に失礼すぎます。」


眉間にくっきりと皺を刻み込んで元々つり目気味な目を更に釣り上げて
言ってる内容はアレだけど口調は普段と変わらないとか凄い…


「そうは言っても慎重にやるべきだよ?そんなに早くは無理!
それだけ言うなら鬼灯くんが代わりにやれば良いじゃないかー!!」

「逆ギレですか?自分の非を認めたくないでしょうが現実を見ましょう。
私が代わりにやるなら全員無間地獄に叩き込みますよ、面倒くさい。」

「それ、やっちゃ駄目だからね?!くん君の上司なんだから止めようよ。」

「大王様、私を巻き込むのはやめてください!
鬼灯さんもその視線で石化しそうなんでこっち見ないでください!!」

「私はメデューサですか、それよりさんはコレをどう考えますか?」


話をこっちにふるのはやめて欲しいなぁ…鬼灯さんは現世で私の仕事を見てて
オマケに私の性格なんかも色々知っちゃってるのに、聞いちゃうの?
まだこっちに来てからそんなに経ってないし、波風は立てたくないんだけどなぁ
チラリと鬼灯さんを見れば絶対零度の視線はなりを潜めて、どっちかと言えば
私がやらかすのを期待してるような感じで目を細めてるし…


「正直に言わせてもらえるなら、態々私が采配をし易いようにと頑張ったのに
全然生かしきれてなくてびっくりしました。
あれだけの長い文面、全部読み上げて罪状を言い渡すなんて時間の無駄を
よく今までやってきましたよね?頭が硬すぎでしょう。」

「え?」


鳩が豆鉄砲食らった顔ってきっとこういう顔を言うんだろうな…
そんな顔した大魔王様の後ろからブフッって声が漏れてますよ鬼灯さん!
抱えた書簡を大王様の机の上に積み上げてから、ひとつを取り出して
私は大魔王様の目の前で広げた。


「いいですか、何故文章にカッコをつけてその横に罪状を書いてるのか?
そこが罪状の経歴であるからですよ?大体余計な文章が多いんです。
文章はわかりやすくはっきりと!その時の気持ちなんて必要なし!
やってしまったら、実はやりたくなかったなんて言い訳は通じませんからね
同じ罪を繰り返してる場合はちゃんと正の字つけてるでしょう!
それを数えればどの地獄に送れば良いかなんて簡単にわかるはずですよね?
そもそも閻魔庁って罪人を各地獄に叩き込むの前提である場所なんですから
文句言う隙を与える必要なんてないんです、問答無用でやれば良いんです!
そういう事で良いんですよね、鬼灯さん?」


一気にまくし立てるように話したのでちょっと息切れしちゃった。
下を向いて呼吸を整えてたら、鬼灯さんがパチパチと手を叩きだした。


「えぇ、さんの言うとおりです。ここは罪人を調伏させる場ですから
つべこべ言う隙なんて与える必要は全くありませんよ。
書簡の書き方についてはこれは規則だからというだけではありませんので
変更するのは難しいですが、その為に貴女に仕事をしていただいてますしねぇ
それを無駄にするかしないかは後は大王自身にかかってますね、はい。」


それは暗に大王様が出来ない子と言ってるようなものじゃないですかー!
そりゃあ私もちょっとはそう思ってたりしてますけど…


「ちょ、ちょっとくん!君ってそんな子だったの?!
確かに鬼灯くんが人間だけど絶対ここにぴったりだからって言って
天国行きを止めるくらいだから優秀だとは思ってたけど、ちょっと違くない?!」

「は?」


え、私ホントは地獄じゃなく天国にいけるはずだったの?!
聞いてない、そんな事聞いてないですよ鬼灯さん!
今の私はきっと凄い顔してるんだと思う、だって大王様がひいちゃってるもの。
あ、鬼灯さんの金棒が閻魔様の口に突っ込まれててちょっと痛そう
でも、問題はそんな事じゃない!!


「きちんと説明していただけるんですよね、鬼灯さん?」

「はぁ、余計な事をしやがりますね。えぇ、よろしいですよ。
ですが、いくつか教えてください。貴女は現世で仕事は好きでしたか?」

「へ?」

「好きでしたか?」

「あ、はい…」


いきなり現世の話になって意味がわからないけど、聞き返すのはダメな雰囲気だ。
鬼灯さんが笑顔なんだけど目が笑ってなくて怖い!


「あの会社は所謂世間ではブラックと言う場所だった様ですがそれでも?」

「ブラックかどうかなんて個人の感じ方ですよね?
私的には業績さえ残せば評価はしてもらえるんでそうとは感じませんでした。」

「…サービス残業は」

「社会の常識」

「休日出勤」

「喜んで!」

「有給休暇をとって良いと言われたら」

「死ねと言われたのと同じですねぇ…」

「煉華くん、それって社畜って言うんじゃないのかなぁ」

「やだ大王様、褒めても何も出ませんよ?」

「え?あぁ…うん、わかった。」


鬼灯さんとやり取りするにつれ、大王様の顔がチベットスナギツネみたいになる。
鬼灯さんは普通にうんうんって頷いてくれてるんだけど。なんでだろう??
大王の口を塞いでた金棒を肩に担ぎ直して、鬼灯さんが更に続ける。


「天国には仕事はありません。何もしないでのんびりできますか?」

「あ、無理です。」

「ここ(地獄)には沢山の仕事がさんを待ってます。」

「どんと来い、大歓迎です!」

「では貴女の沙汰については何も問題はありませんね。」

「あ…え?」


ちょっと、なんだか、良いように丸め込まれた気がするけど違う?


「では、そろそろ仕事に戻りましょう。大王、スピードアップを忘れなく。」


鬼灯さんは私の背を押すようにして一緒に法定から出た。
金棒で肩をトントンしてるんだけどトゲトゲが当たって痛くないのかなぁ…

あの後、残りの書簡を法廷に持っていったら大王様が怯えて


「煉華くんは鬼灯くんの様にならないでよね、ねっ!」


と、念を押されたんだけど
仕事のできる鬼灯さんが今の私の目標ですって言ったらそうじゃない!だって…
じゃあ何をどうすれば良いのかわからないなぁ…鬼灯さんに聞いてみようかな。