●● いと わいるど なり ! --- 拗ねてしまった付喪神 ●●
ごうごうと音を立てて鞴(ふいご)が動かされるたたら場で
歴史修正主義者から歴史を守る為、政府に請われて審神者になって1年
日課となっている鍛刀で初めてみるその数字の羅列に
何度も目をこする女性はその傍らに寄り添う小さな影と固まっていた。
「いしきりまるのきとうが こうをそうしましたね、あるじさま!」
「いやちょっと待って!3:20と4:00とか、どーした私?!」
小さな影=今剣が小天狗の様にもう一人の女性の周りを飛び回っている。
我に返った様に彼女は首を大きく左右に振りながら叫んだ。
「いやいや、4:00はまた三日月かもしれないし?
こっちは藤四郎達が待ってる一期一振か左文字兄弟が待ってる江雪左文字
それとも伊達組が実は待ってる鶴丸国長?あー、鶯丸だったら連結決定だけどね
と、とにかく手伝い札使ってみる!うりゃー!!」
「あるじさまは あいもかわらず おんならしくありませんね。」
「ほっといてください!って…お、おー?」
手伝い札が使われ炉の数字が0に変わり、まばゆい光と桜吹雪が包み込む。
その中から水色の髪を綺麗に整えた優し気な青年が現れた。
「私は、一期一振。粟田口吉光の手による唯一の太刀
藤四郎は私の弟達ですな」
「やったよ!今剣!!」
手を取り合って小躍りする二人を驚いた様に見ていた一期一振だったが
その姿が記憶にある弟たちの様で自然と顔が緩む。
此度の主は女性なのかと思いながらあらためて彼女を見つめた。
自分よりやや低い身長は女性であれば高い部類に入るだろう。
癖のない黒髪を無造作にひとまとめにし、化粧もせず服装も黒の作務衣に
葡萄茶の羽織を無造作に羽織っただけ。
顔の造形は悪いわけではない。特に黒目がちの大きな瞳が綺麗だと思った。
「でかしました、あるじさま!ですがごあいさつをせねばだめですよ。」
一期一振が顕現してからずっと女性は今剣の手を取り飛び跳ねていたが
流石にいい加減何らかの説明を彼にすべきだろう。
それに最初に気が付いた今剣が女の作務衣の裾をひっぱりながら注意すると
はっとしたように一期一振を見ると、咳ばらいをしながら言葉を紡ぐ。
「そーだった!では改めまして、私がここの本丸の主と申します。
藤四郎の皆は貴方以外全員この本丸にいて、貴方が来るのを待っていました。
前の主とは比べ物にもならない若輩者ですがこれからよろしくお願いします。」
「こちらこそ、弟たちが世話になってる様で…」
ぶんっ!という音が聞こえそうな程頭を下げた彼女の姿に笑みをこぼしながら
自分がこの本丸では粟田口で最後だという言葉に一礼すれば
目の前でパタパタと手を振りながら、彼女が慌てたように頭を上げろと言う。
どうやら此度の主は非常に気さくな人の様だと一期一振は思った。
「いえいえ、こっちがお世話してもらってる?まぁ、そんな事はおいといてー
今剣、さっそく藤四郎の皆の所に連れてっちゃって!んで、案内お願いね。」
「わかりました、ばびゅーんといってきます!いちごひとふり、こっちです!」
今剣に手を引かれ、鍛刀部屋を出ていく一期一振を見送っていた彼女の足元
刀鍛冶の妖精がこちらと残った刀の炉を交互に見ている。
どうやら向こうには手伝い札を使わないのかと言っているようだが
は妖精に視線をあわせる様にしゃがみこんでから首を横に振った。
「別に急ぐ必要ないからのんびりこのままで!時間がきたら教えてね。」
そういって懐から金平糖の入った小さな袋をとりだして渡す。
妖精はわかったという様に頷くと、喜んでそれを受け取って行ってしまった。
「さーてと、出来上がるのが丁度晩御飯の時間帯位か…
歓迎会しなきゃだね、さっそく歌仙達に行って準備にとりかかりますかっと!」
大きく伸びをして、は鍛刀部屋を後にした。
背後で使われている炉の炎とは異なる青い炎がひとつゆらゆら揺らめいていた。
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戦闘部隊と遠征部隊が帰還して、報告書の作成を終わらせてから
審神者の執務室を出たは、そのまま夕食の支度をしようと厨に向かった。
「、丁度良い所で出会った。鍛刀の妖精がお主を呼んでいたぞ。」
「三日月と、石切丸、わざわざ呼びに来てくれたの?ありがとう。」
「君は一期一振には手伝い札を使って、もう一方には使わなかったんだって?
それは不公平だと思うのだけど。」
背後から声をかけられ振り返れば狩衣を着た青年の姿をした刀剣が二振
そのまま彼等を連れては鍛刀部屋へ歩を進めながら話を続ける。
「だって別に急いでるわけじゃないし?
待たれている刀はどっちだってなればそうするんじゃないのかな?」
上背のある彼等を見上げる様に言うに悪気というものは微塵もない。
それがどうしたという様なの態度に二振は苦笑する。
「もう一振りがもし小狐丸であれば、拗ねてしまうやもしれぬぞ?」
「彼はああみえてなかなかに矜持が高いからねぇ…」
袂で口を押えて笑う三日月と鍛刀部屋の方をみて同じ様に笑う石切丸に
は肩を竦めて溜息をついた。
「いわれがどうとか、位がどうとか?刀剣男士達の間ではあるのだろうけど
ここは私の本丸。誰もが同じ敵と戦う仲間で同志なんだからね?
知識や経験は歓迎するけど、それ以外はいらない。皆平等だよ。
例え貴方達が御神刀と天下五剣だったとしてもそれは変わってないでしょ?」
「はっはっは!お主は最初からそうであったな。俺を前にしても
この格好では動きにくくて戦に影響があるのではとしか心配せなんだな。」
「加持祈祷の途中だろうと問答無用だからね。」
「当然でしょ?初めに刀ありき、戦う為に貴方達をここに呼んだんだ。
人と同じ容姿と感情を持って顕現したから色々と楽しんでもらいたいけど
本分を忘れてもらっちゃ困るんですからね?」
「勿論、武器であることをわすれたつもりはないよ。」
「うむ、俺も給料分は仕事をしているぞ。」
「他の本丸だとレア刀剣を大事にするとか贔屓にしてるとかあるみたいだけど
まぁ、私の所に来たのが運の尽きだと思って諦めてよね。」
そのまま先を行くの後ろで二振りは目を細めた。
見た目は手弱女だが、そこは多くの刀剣を率いる主であるから豪胆だ。
三日月も石切丸もその扱いを不満に思った事は一度たりともない。
呼ばれ、顕現された事を抜きにして二振りはを気に入っていた。
鍛刀部屋の前に到着したの目の前でいきなり扉が開き
慌てた様子で妖精が数人飛び出してきた。彼等はを見るなり両手を広げ
中に入るなという素振りを見せる。
「え?妖精さん達どうしたの?」
「ふむ…よ、どうやら石切丸の予想が当たったと見えるぞ。」
「これは…あぁ、やはり君の態度が原因なんだろうけど…困ったね。」
屈んで妖精達の様子を見ていたより先に三日月と石切丸が部屋を見て
手は彼等の本体である刀にかけられ、彼女を庇うかの様に場所を移す。
「ちょっと待って、中で一体何が起きてるって言うの?!」
二人をかき分けるようにして中の様子を見たは絶句した。
出来上がったばかりの刀剣から青い炎が吹き上がっているのである。
その周りでは、妖精達がお神酒を捧げてなにやら平伏している。
「あの刀って…」
「うむ、小狐丸だな。」
「まずいね、我を忘れて怒っている。、君はさがっていた方が良い。」
ひときわ大きな炎が刀身から吹き上げ近くにいた妖精を掠めそうになり
慌ててが抱き上げて事なきを得る。
妖精は腕の中で必死にに向かって頭を下げ、まるで自分達が悪かったとでも
言うような仕草をしていたが、はその頭を優しく撫でて首を横に振る。
刀身から吹き出す炎はひときわ大きく膨れ上がり達を目掛けて襲いかかる。
炎は彼女を包み込んだかに見えたが周囲を大きく囲んだだけだった。
「相変わらず君の結界は素晴らしいね。」
「はっはっは、安倍晴明もかくやだな。」
「褒めても何もでないからね?さて、悪いの私だから謝らなきゃ!
小狐丸様、どうぞお怒りを鎮めてくださいませ。私に他意はございません
ですが貴方様のお怒りを買ってしまった事、誠に申し訳ございません。
どうぞお姿を顕して下さいませ、直接謝罪をさせて下さいませ。」
最敬礼からの五体投地を刀に向けては行う。
流れる様な動作は神社に長く奉納されていた石切丸が何度も頷く程で
彼女がどれだけ深く反省しているのかが伺えた。
しかし目の前の刀剣は更に炎を大きくするだけで顕現する気配すら無い。
「彼女に悪意は全く無いのだよ、ここは私達に免じて許してはくれまいか。」
石切丸の言葉に刀から吹き上がる炎が少し弱まったのも束の間
「うむ、小狐丸よ、その様に拗ねるものではないぞ。」
三日月の言葉の後、炎は一層大きくなり部屋中を覆い尽くそうかという程の
勢いで吹き上がった。
熱さは感じられないが、神気とでもいうのだろうか大きな力が場に充満する。
結界で守られているはずの場所ではあったが、神の怒りのすさまじさからか
とうとう耐え切れずにそれは破られ、衝撃で扉が吹き飛んだ。
「主!」「、無事か?!」
爆音と土煙が充満して視界がきかない彼等の声に返答はない。
視界がきくようになり、目の前で妖精達を抱えて倒れているの姿を見て
二振の瞳が冷たくすっと細められた。
「これは少々やり過ぎだと思うのだけどね。」
「はっはっは、俺はこういう冗談は好かぬ。」
それぞれの手が鯉口を切る。大きな音に気がついた刀剣男士達の何振かが
こちらにくる足音が聞こえた。
「石切丸の旦那と三日月の旦那、これはどういう事だ?大将?!」
「主君!しっかりしてください!!」
「おや、これは随分と溜まっていたんだねぇ……怒りの事だよ?」
「これは…いくらレア刀だと言われようとも万死に値するぞっ!!」
の周囲を刀剣男士達が取り囲む。
タタラ場の中央にある小狐丸の炎は未だ衰えを見せない。
全員の鯉口がカチリと音を立てて切られた時、ゆっくりとが起き上がった。