めぐりあい --- ファントムと客人
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めぐりあい

ファントムと客人



「私はモノ…なんですか?」


人間に普通欲しいって言葉は使わないよね?つまりモノ扱いされてるんだ。
この人は凄く偉い人だったって、今まですっかり忘れてるとか駄目だわ。
つまりは職場に得な存在かどうかが重要で、不要になれば廃棄処分?
この人ってポケモン以外にはこんな感じで冷淡なんだろうか?


「私はインゴさんといると楽しかったんです。仕事の付き合い以外で
はじめて友達が出来たみたいで凄く嬉しかったんです。
でも、もっと仲良くなりたいなって思ってたのは私だけだったんですね。」


ちょっとでも本当の自分に戻れた気になってた私が馬鹿だった。
浮かれまくって舞い上がってた分、ダメージが大きすぎる。
でも、元々接待する事が目的だったんだから落ち込むのが間違いなんだ。
相手に喜んでもらえてなんぼでしょう?それで良しとしなきゃだね。


「Oh…ワタクシの言い方が悪かった様デスネ、モノ扱いナドしておりまセン。」


持ってたコップを取り上げられ、両手でそっと包む様に私の手を握る。
伏し目がちな青い瞳が、お日様の光で時折宝石の様に煌めく
空の色って言うのか、海の色って言えば良いのかわかんないけど綺麗だなぁ…


「周囲にいる人間は部下を除ケバ、私欲にまみれた者達が殆どデス。
その様な連中と友人関係を築くナド有り得まセン。
貴女様はそんな連中とは最初から違いましたネ。一般客と同様の扱いカラ
今ではモットFriendlyになってるデショウ?ソレが嬉しいのデス。
は地位、名声に興味が無いデショウ?それは非常に希少なのデスヨ?」

「興味が無いっていうか、それが何か?って感じですけど…
だって偉い人を友達にしたって自分が偉くなるわけじゃないでしょう?」

「デスガ、友人として特別な待遇を得られる…そう考えられませんカ?」


今迄穏やかだった表情が一瞬初めてシンオウに来た時に見た顔に戻る。
もしかしたらこの人もそういう事を気にして友達がいなかったのかな?


「そんなの友達じゃないです!そういうのはやっちゃ駄目でしょう。
それを目的で友達になりたがる連中なんてぶっ飛ばせば良いんですよ。
だって本当に友達なら、そんな事するなって普通は殴ってでも止めますよ?」


普段割と伏し目がちっぽいインゴさんの目が驚いた様に見開いた後
私の手をポンポンと軽く叩きながらクスクス笑いだした。


「…Ladyがその様な言動をシテは駄目でゴザイマス。」

「間違った事を指摘できないなら、そんなモンになりたくないです。」


私の言葉を聞いて、インゴさんは本格的に笑い出した。
爆笑っていうには控えめっぽいけど、こんな風に笑うのは初めて見たかも


「ククッ…本当に貴女様は面白いデスネ。
ワタクシにその様な事を言う人物は初めてでゴザイマス。」

「それはそれで問題だと思うんですけどねぇ…」

「ツマラナイ人間関係に使う時間をワタクシ持っておりまセン。
ポケモンとバトルと地下鉄が有れば良いのデス。デモ、今は違いマス
職員じゃなくテモ構いまセン、貴女様に傍にいて欲しいのでゴザイマス。
、どうか良い返事をワタクシに聞かせてくだサイ Please…」


まっすぐに私を見つめる瞳は真剣そのもので、インゴさんが本当の気持ちを
伝えてくれてるんだってのがわかる。
私を…ファントムでもない、シンオウのでもない本当の私を
誰かが認めて、傍に居て欲しいなんていう日が来るとは夢にも思わなかった。

今、この人の手を取れば私は本当の自分に戻れるのかもしれない。
誰も私を知らない場所に行けば、自分を偽らなくても閉じ込めなくても良い
あぁ、なんて魅惑的な誘いなんだろう…!!


…?」


インゴさんに握られていない方の手で、インゴさんの手に触れる
大きくて、私の手をすっぽりと包みこむ温かいその手を私はとる事が出来ない


「インゴさん、ごめんなさい。私はそちらには行けません。」

「……理由を聞いテモ?」

「私の家族が眠るお墓を残してはいけません。」


嘘は言ってない。は自分の目の前で家族が事故に遭ったって聞いてる
そして、それを苦に自分も家族の元へ行こうとしてたんだ。
彼女なら、絶対にどんな良い条件を出されても行くとは言わない…はずだ。


「貴女様を縛り付ける真似を家族が望んでいるとは思えないデスネ。
家族は家族、…なのデハありませんカ?」

「普通ならそうかもしれません。でも、家族が死んだのが自分のせいだったら?」

「…?」

「家族は…私がジム戦の旅に出てる途中、ここに立ち寄る私に会う為に
皆で待ち合わせ場所へ向かう途中で事故に遭って死んだんですよ?
家族皆の未来を私が奪ってしまったんです。私は私?それは違います。
……ここにいない人の分も私はここで生きなくちゃならないんです。」


それが本来この世界の人間じゃない私がここで生きる為の条件なんだと思う
ここを離れた事が原因で、向こうの世界に戻れなくなる可能性もあるんだもん
それに今の話はにとっての事実だから…私は嘘を言ってはいない。


「…辛い事を思い出させてしまいマシタネ。泣かないでクダサイ。」


ふわりとインゴさんのコロンだろうか?が私を包む。
あぁ、私はいつの間にか泣いて、インゴさんに抱きしめられたんだ。
泣いたって仕方が無いのに、こんな話聞かされてインゴさんも困ってるよね


「過去の事…です。でも私はそれを忘れちゃ駄目なんだと思ってます。
すみません、こんな話聞いてて楽しいものじゃないですよね。」

の事ナラどんな話でも聞きたいデス。
今の貴女様を形作った全てを知りタイ、貴女様という人をもっと知りタイ
ワタクシに話してくれた事を嬉しいと思っておりマス。」

「ありがとうございます…インゴさんには泣き顔見られっぱなしですね
でも、ホントの私はこんな泣き虫じゃないですからね。」


目元にあてられたインゴさんのハンカチは黒とグレーのチェックで
何回汚しちゃえば良いんだろうか…また洗濯して返さなくちゃ。


「フフッ、ワタクシはどんなも好きデスヨ?」

「…インゴさんって実はタラシだったりします?」

「ワタクシ、女性ニモ冷徹だと言われておりマス。貴女様は特別デス。」


私を私のまま見てくれるっていう言葉が嬉しい。特別って言葉が嬉しい
でも、この状況はちょっと…いや、かなり照れる、凄く恥ずかしい。


「私が泣くのを見るのはポケモンだけだったんですよ…」

「Hmm…デハ、ワタクシもの特別デスネ。」


簡単にそういう事が言えるのがタラシなんだと言えば
インゴさんはなんだか楽しそうに頭の上でクスクスと笑ってた。

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