三章・旅は道連れ先駆け編
密談する従兄弟達
バトルの呼び出しもないので、執務室で各部署の書類のチェックをしていたら
不意に私のライブキャスターが震えました。
滅多にない状況にエメットのデスクに座っていたクダリがこちらを見ます。
よそ見をせずに書類を完成させろと言えばムッとした顔で下を向きました。
ライブキャスターを操作すればエメットからのメールでございました。
── 今資料室にいるんだけど、クダリに内緒で出てこれる? ──
あれがこんな事をするなんて、イッシュで何かトラブルが起きたのでしょうか?
今すぐここを離れては目の前の従兄弟に感づかれてしまいますし…
── 5分後にそちらに行くのでそれまで待っていなさい。──
そう返信して、書類業務を再開させました。
私の動作に意識を集中していたクダリもしばらくすると平常に戻ったので
そろそろ動く事にいたしましょうか……
「資料室へ行ってきマス。マルチの呼び出しがかかったナラ先に行きなサイ。」
「……りょーかい。」
書類の束に見せかけたコピー用紙を何枚か手にして、部屋を出て向かいました。
資料室とは名ばかりの不用品置き場のドアを開けるとやや奥まった棚の近くで
エメットは書類の入ったダンボールに腰掛けておりました。
『こんな時間に呼び出すのですから、中身のある話をしなさい。』
『向こうじゃボクの出番はもうないから問題ない。でも、ちょっと問題あり?』
イッシュに出向したばかりの時は他地方のサブウェイボスと対戦ができるからと
それなりに忙しかった様ですが、どうやらその状態も落ち着いた様ですね
話があると言いながら、どう話そうか迷ってるその態度に若干イラつきました
『人に話す前にきちんと話をまとめておけないとは、お前はやはり馬鹿ですね。』
『ちょっと酷すぎない?! 話はまとめて出来るんだけどさ、ちょっと…
かなり曖昧な部分が多くてどうやって説明すれば良いかわかんないだけだよ。』
そろそろノボリが参ったのではと思っていたのですがどうやらそうではなく
何か別な問題が浮上したという事でございましょうか?
あぁ、そういえばとがジム巡りを再開すると言ってましたね
日にちを思い出せばそれが終わってしばらく経過してますからその件でしょうか?
『それをやれるかどうかが…はぁ、無意味な議論をする時間が勿体無い。
良いから早く話を始めなさい。不明な点はその都度指摘いたします。』
『そうだね、ちょっと長くなりそうだから立ってるのもなんだし座れば?』
言われるまま斜め前に積まれたダンボールに腰を下ろせば
エメットから普段使っている香水とは別の香りがします。なぜこれが?
『エメット、お前はどこか怪我をしているのですか?』
『え?あぁ、インゴにはやっぱりバレちゃったかぁ。
多めに香水つけて、無臭性の使ってるんだけど君って嗅覚も凄かったよね
これは何ていうのかな…軽い打撲?まぁそれも関係あるから後で話すよ。』
リアルバトルでも私達はそれなりの腕前だと自負しております。
逆恨みで私達を暴力でどうにかしたい連中もいないわけではございませんから
ですがそれに屈するなど万に一つも有り得ない程度の実力はお互いあるわけで
エメットがその様な状態になる事が正直信じられないのですが…
『まずは前にいってたのミッションに関わる人物の追跡が可能かって事
あれはちょっと難しいみたい。誰かに追跡させれば良いんだろうけど無理。
はカクレオンに発信機を持たせて追尾してるらしいってのがわかって
その発信機からなんとかできないかってに聞いたけど無理だった。』
『つまり、事前にこちらが先回りして動く事は不可能だという事ですね。
それはある程度予測できた事なので今更でございましょう。他には?』
『と、あと道案内でも一緒にフキヨセジムに行ったんだけど
あぁ、勝敗はもちろん彼等が勝ってバッジゲットしてる。でも問題はその後。』
棚に寄りかかり頬杖をついて話すエメットの顔つきが変わりました。
顔だけ見れば相変わらず笑っている様に見えますが、目つきが違うのです。
『帰ってきていきなりがこれからしばらく残業するからって来たんだよ。
あの部署って割とそういう事あるからってノボリは納得してたみたいだけどさ
ボクが知ってる限り、今の状態で残業の必要性なんてないはずなんだ。
変だなと思って、こっちの仕事を終わらせて戻ってみたら鍛錬場にいたんだ』
『次のジムはドラゴンタイプですからその為のシミュレーションですか?』
『違う違う、ポケモンを鍛えてるんじゃなくてを鍛えてたんだよ。』
『……は?』
『やっぱりインゴもそう思うよね!でさ、その鍛え方がおかしいんだよ。
が相手にするのは一人じゃない、との両方なんだ。
それにあれは護身の域を超えてる。お互いに急所狙いでおとそうとしてるから。』
『それを傍観してただけ…にお前はしませんね、それで?』
『なにやってるの?!って思わず叫んじゃったよ。』
まぁ、私でもそうなるでしょうね。ですがどうして…多勢を予想しての護身術?
くだらない女達のゴタゴタの時にもありましたが、彼女の動きは完璧で今更です
あの時でも彼女は相手の急所をはずして動けなくするだけにしておりました。
甘いと指摘すればそれが自分のやり方だと言っていたのにどういう事でしょう。
携帯灰皿を取り出し、タバコに火をつけた後紫煙をゆっくりと吐き出してから
エメットは肩をすくめて言葉を続けました。
『どうやらプラズマ団がウロウロしてて、の事だから巻き込まれる事も
十分に考えられるし、相手が大勢で向かってきた場合の対処法って言うんだ。
でもさ、は最初からプラズマ団に絡まれてたのになんで今更?
それだけじゃない、頭数はいた方がいいからって手伝わされたんだよ。
もう実践顔負け!ももは女の子なのに遠慮なんかしてないし
ボクにもそうしろって言うんだよ?無理!できるわけないでしょ。』
『その結果お前が負傷したという事ですか?』
コートの袖口をまくって包帯の巻かれた腕を見せて苦笑いしております。
彼女の実力では私やエメットでは勝てない、ですがここまで食いつくとは…
『何がをそうまでさせているか…でございますね。』
『そんなのもうわかってるよね?きっとミッションに関係してるでしょ。』
短くなったタバコを携帯灰皿にねじ込みながら苦々しい顔をして吐き捨て
その後で私を黙って見つめておりますが、意見を聞きたいという事でしょうね。
『バッジは8個でリーグに挑戦する権利を得ます。残りは2個…
リーグ戦でその様な荒事をする必要性はない。それ以外で必要になる。
ミッションも大詰めにきているという事なのでしょうね。』
『ボクも同じ考えだよ。ボクが不思議に思ってる事はとがいて
どうしてにそんな事をさせているのか、これは二人に聞いたけど…』
そう言い淀んで、左右に視線を彷徨わせます。
これがその様な表情をする時は大抵面倒事が起きている場合なのですが
の件については今更でございましょう。あれは面倒事しか起こさない。
いえ、面倒事に巻き込まれるしかない、といった方が良いでしょうね。
『二人が言うには多分これからプラズマ団と派手にやらなきゃならないって
ももももミッションクリアする時そうだったって…
似たような組織とどうしても関わってしまうんだって言ってたんだ。
ねぇ、ボク達はに降りる気ないんだなって念を押されて答えたよね
ボク達は普段はそばにいる事ができない、インゴどうする?』
どうすると言われても、私達は今更降りる気は更々ないのですがね…
ポケットからタバコを取り出せば、エメットがこちらに灰皿をよこします。
黙って受け取ったあと、火を点けゆっくりと吸い込み考えます。
クダリがこちらに来て、しばらくしてからがエメットと一緒に
クダリに知られぬ様にユノーヴァにやってまいりました。
あの従兄弟達の身に起きた事が今後私達にも起こるかも知れないのだと
降りるなら今だ、むしろ降りて欲しいと言う様なニュアンスで聞かれました
お前達はこれからどうするつもりなのだ?と…
私達の答えはこのまま降りない、自分に降りかかる事は自分で解決する
まぁこれに何か起きたとしても私がそばにいれば何とでもなるでしょうから。
ですがは違う。彼女に何かあったとしても私達は離れております。
事が起きた時に一番近くにいてすぐに動けるのはアレ等しかおりませんが…
『ノボリはそのまま動くでしょうが…』
『ノボリにはが聞いたみたいだよ、降りるなら今のうちだけどどうするって。
またクダリに何か起きるかもしれないんだからよく考えろって言ったんだって。』
『痛い所をつきましたねも。』
『もだったけど、もボク達に降りて欲しいんだから当然でしょ?
二人に関しては保留みたいだよ。クダリがあの状態だからね。
インゴ、クダリの件は急いだ方が良いと思う。時間が必要なのはわかってる。
でもボクの時みたいに時間はかけてられない。』
クダリに必要なのは時間、ですが今の状態のままがミッションに挑み
失敗に終わってしまったのなら、今迄の時間は無駄に終わってしまうでしょう。
公私混同など以ての外、私達はこのユノーヴァのバトルサブウェイのトップです。
部下と本部となによりあの従兄弟達を納得させる様な手札は…
『エメット、お前があちらにいって集客率はどの位上がりましたか?』
『え?…ごめん、それは今すぐ答えられないや。』
『戻ってすぐ調べなさい。私はもう戻ります。
いくら能天気なあれでも私の長時間の不在を変だと思う頭位あるでしょうから。』
『クダリは結構そういうの気づいちゃうからね!
了解、一度向こうへ行って、また戻ってくるからその時に報告するよ。』
吸殻を入れて、灰皿をエメットに戻してから部屋を出ます。
執務室に戻れば、クダリは出て行った時と同じ様に書類整理をしております。
「不在時に何かありましたカ?」
「別にないよ。」
ぶっきらぼうに書類から目を離さず返事をする従兄弟の顔をみれば
以前と比べて顔色も良くなり、やつれた頬にも丸みが戻ってまいりました。
肉体的にはもう問題はない。あるとすれば心の方でございます。
本来ならリスクを徹底して避けるのが私のやり方ですが、時間がない。
これからやる事は大博打ですがやるしかないでしょう。
パソコンのメール機能を起動させ、こちらの要求を打ち込んで送信。
恐らくそれ程時間がたたないうちに返信はくるでしょう。
結果が他人次第というのは私の主義に反しますが、仕方がありません。
そばで聞こえるキーボードを打つ音を聞きながら私は返信を待ちました。