二章 東奔西走編 -課長、さぎょういん になる。-

二章 東奔西走編

課長、さぎょういん になる。



最近のボス達はフットワークが軽い。

以前なら、バトル以外では執務室を離れる事は滅多に無かったんだが

今では、ちょっとした打ち合わせでも相手の部署に顔を出しているみたいだ。

まぁ、なんとなくだが理由はわかってる。



「ノボリ、トレーナーの選考書類見せて。

後は臨時の職員募集をどうするかって総務から言われてる。」



「来週面接予定のトレーナーの履歴書がこちらでございます。

臨時の募集は現在まだ各部署と検討中とお伝え下さ…いいえ、

あちらも大変でございましょうから、私が後程お伺いしましょう。」



圧倒的な人員不足。これが最大の理由なんだよな。

女子職員同士のボスへの確執めいた争いを根こそぎ一掃したのは良いが

まさか、あんな人数が退職する事になるとは思わなかった。

元々、彼女達はまともに仕事をしていたわけでは無いんだが、

小さな穴も集まれば大きくなる、それが今の現状だったりする。



『こちらクラウド、保全管理課の課長はおるやろか?』



インカムから俺を呼ぶ声がして、通話回線をonにする。



「こちら、クラウド主任の呼び出しって事は接待か?」



『せや、スーパーの4両目まで大事なお客さんが来とるさかい、

たっぷり、しっかり持て成してやってや!』



「了解。」



一番大きな穴が開いたのはバトルトレーナー部門だった。

鉄道員達はともかく、一般のトレーナー職員の1/4が抜けた状態で

バトルトレインの運行も危ぶまれる状態だったわけだが

そこはギアステ職員って言えば良いんだろうか。

清掃員のおじさんやおばさん、作業員の面々やほかの部署の職員達が

総出でフォローに回る事を申し出たんだ。

ぶっちゃけ、付け焼刃で大丈夫か?って思ったが杞憂に終わった。

廃人施設の職員、半端ないぞマジで!


スーパーシングルのホームに向かう途中で、白衣をきたと会う。

こいつも助っ人として、もっぱらダブル、スーパーダブルを担当中だ。

ちなみに俺は、さぎょういん。はドクターとして乗り込んでいる。



「おう、てめぇも接待か?」



が聴診器をポケットにしまいながら声をかけてくる。

何気に本職だから、そういう動作もスマートに決まってるよな。



「あぁ、スーパーシングルで遊ばせてもらうさ。」



「俺はダブルだったんだが、アレだな、手加減ってのは難しい。

全力でガンガンやれって言うなら、ずっと乗ってても構わねぇんだがな。」



それをやったら、ボス達の出番がなくなるだろうと言えば

肩をすくめて微妙な表情をしていた。



「まぁ、かなり欲求不満が溜まってるから、就業後のマルチで暴れるぜ。」



「あぁ、あれなら手加減の必要も無くなったから楽しめるしな。」



例のエキシビジョンマッチの練習は未だに続いている。

というよりも、俺らと両ボスの鬱憤晴らしの場になってる。

両ボスのバトルも洗練されて、無駄な指示がかなり減ってるしな。

良い資質をもつトレーナーってのは成長過程を見るのも楽しい。


トレインに乗車して暫くすると、列車がホームから離れる。

さて、楽しいバトルの始まりになれば良いんだがな。

目の前のドアが開きチャレンジャーが入ってくる。

俺はお客様に向かってゆっくりと一礼してから口上を述べる。



「仕事合間に やってるわりには 俺って 頑張ってんだろ?

お客様とのバトルも仕事も、完璧に仕上げてみせましょう。」


一応このセリフはバトル部門に提出してあるんだが、

今度変更届でも出すかな。なんとも小っ恥ずかしい。

バトル自体は指示出しが甘すぎて話にならなかった。

こんな状態のチャレンジャーをこれ以上先に進ませても時間の無駄だろう。

適当につばぜり合いをさせてから、時間を計算しつつ勝利に向かう。



「大人も 子供も 結構 楽しめるのが ポケモンってか

本日の仕事はこれにて終わらせていただきます。有難うございました。」



ポケモン達をボールに戻してから、駅に着くまでの間に

相手によっては色々と話をすることもあるし、黙ったままの事もある。

今回は結構熱心なトレーナーみたいで、俺の手持ちについて色々聞かれる。

実際のバトル用のポケモンではなく、作業用のポケモンだが

実レベルはカンストしていて、6Vですよと言えば驚いていた。

やはり高個体値がとつぶやいてるので、それについて反論してみる。



「確かに、同じポケモンであれば個体値で差も出るでしょうね。

でもここバトルトレインじゃそれは稀でしょう?

むしろ、なつき度上げての恩返しもかなり効果がありますよ?」



ちなみに、俺のポケモン達の恩返しの威力は最大だと言えば

凄いとか言われたが、大切な相棒だと答えれば納得したみたいだ。


駅について、お客様を降ろしてからバトルトレーナー統括部へ向かう。

この後、自分の仕事が入ってるからその間のヘルプを決めたかったんだ。



「失礼します、シンゲン部長はいらっしゃいますか?

俺、この後自分の仕事が入っているので、シングルとスーパーシングルの

運行表とトレーナーの割り当て表を見たかったんですが…。」



部長のデスクを見れば姿がなかったが、取り敢えず中に入る。

鉄道員の面々に挨拶をしてから後ろの壁へと目をやる。

今日のトレインの運行表とトレーナー名が記入された用紙が貼ってあり、

トレーナー名のない場所が赤く囲まれている。

そこがトレーナー職員の、どうしてもはいれない場所になっている。



「お疲れ様でした!さんのバトルって凄いですよね。

時間配分だとか、せめぎ合いとか、色々勉強になります!」



「カズマサもお疲れさん。しかし、こうして見ると結構穴があいてるな…

ここまで支障が起きるんだったら、あの大掃除はマズかったんじゃないか?」



カズマサは俺の質問にすぐに首を振る。

しかしこの状況を考えると、一掃するよりは少しずつでも良かったかもな。



「そんな事はありません!確かに今は抜けた穴が大きすぎますけど

それでもトレーナー個人のスキルは格段に上がっているんです。

モチベーションも然りで、全員がそれぞれのフォローをしあってますし

職場全体の雰囲気が凄く良くなってるんです。」



俺等の話に、傍にいたキャメロンも参加する。



「ソウダヨー、確カニ凄ク忙シイケド楽シイヨ?

オレモ結構バトルガ上手クナッテキテルシ、新人モ必死ニ頑張ッテル。

皆ガ団結シテルッテ感ジデ、毎日ガ充実シテルヨー。」



成程、有事があって結束力が高まったってヤツなんだろう。

仕事をしていても充実感があるのなら、身体の疲労なんて気にもならない。

一種のワーカーホリック状態なんだろうな。



『こちら保全管理課のですー。課長いますか?』



インカムからの声が聞こえてきた。

あいつは自分が乗り物酔いが酷くて、バトルトレインの手伝いができないから

俺の分まで仕事を引き受ける形で貢献している。



「こちら、仕事で何か問題でもあったか?」



『いえいえ、その逆ですよー。思ったよりも早く終わったので

この後の課長の仕事を、私がもらっちゃいますねー。

だから、課長は思う存分バトルトレインを満喫しちゃって下さい。以上!』



あいつの事だから、最初からそうするつもりで急いだんだろう。

できる部下がいるってのは頼もしい限りだな。



「ウワー、モ張リ切ッテルネー。コレハオレモ負ケラレナイヨ。」



さんも本当はトレインに乗りたかったみたいですよね。

一番最初に助っ人をインカムで要請した時に名乗り出て

酔い止め飲んでマルチに乗り込もうとしたって、ボク聞きました!」



「あぁ、それで慌てた白ボスが止めに入って、黒ボスはあいつに

説教かましたんだよ。本人はすげー食い下がったがな。」



あいつも根っからのバトル好きだからな、さぞ悔しいだろう。


俺はこの後のシングル、スーパーシングルの名前の書いてない赤枠に

自分の名前をそれぞれに記入していく。



「どっちみち、明日は車両点検日で休みになるんだからな。

せっかく部下が作ってくれた機会だ。目一杯楽しませてもらうさ。」



キャメロンとカズマサが男前すぎる!なんて言ってくれるが違うぞ?

俺もバトル狂だし、廃人施設の一員なんだからな。

仕事そっちのけでバトルできる機会を逃すわけがないだろう。


さて、さぎょういんのが、負けても良いと思えるチャレンジャーに

今日中に出会う事が出来るのか、楽しみにしようじゃないか。