一章・共闘!ギアステ大掃除編 番外
小鳥は願う 前編
ボクはママに捨てられた。
どうして?どうして?ママの為に苦しい事もイタイ事も悲しい事も
全部全部全部全部我慢したのに、我慢してたのに。
ホントは誰かを傷つけたり、殺しちゃうのがイヤだったんだよ?
誰かが僕の為に死んじゃう、殺されちゃうのがイヤだったんだよ?
悲しくて涙が止まらなくて、でも我慢したんだ。
ボクに変なお薬を飲ませたり、チクッって刺されて何かを入れられたり
その後で死んじゃいそうな位カラダが変になったりしても
イイ子にしてないとママに嫌われちゃう、そんなのイヤだったから
ママが喜んでくれるならって頑張ってたんだよ?
ママがキライな涙も、もう出なくなったんだよ。凄いでしょ?
ボクの事でママが褒められて、ママが嬉しそうにしている。
ママが笑ってくれる、それだけがボクの生きる意味だったのに。
どうして置いていったの?ママはボクをスキじゃないの?いらないの?
キライ、キライ、キライキライキライ…大キライ!!
ボクを捨てたママがキライ。
ママに捨てられたボクがキライ。
キライなボクと同じポケモンがキライ。
ママと同じニンゲンがキライ。
ボクを閉じ込めている箱がキライ、おウチがキライ、セカイがキライ。
全部全部全部キライ!全部全部全部!無くなっちゃえ!消えちゃえ!!
ボクを閉じ込めていた箱、ホントはこんなの簡単に壊せたんだ。
こんな箱いらない。
ボクの他にも沢山のポケモンが箱に入ってる。
こんなポケモンいらない。
沢山の気持ちの悪い物がいっぱいの場所、ママが大切にしてたおウチ。
こんな場所いらない。
初めて見るおウチじゃない場所、ボクの目の前にはニンゲンがいる。
こんなニンゲンいらない。
ボクのチカラ、ママがくれたチカラ。
こんなチカラいらない。
ボクを殺せって、沢山のニンゲンがボクの周りに集まってる。
こんなボクいらない。
沢山のニンゲンが倒れた。死んじゃったのかな?殺しちゃったのかな?
悲しいのに、苦しいのに、ボクはどうして良いかわかんない。
チカラを使うのをやめたら、いらないボクを消してくれるかな?
早く、早くボクを殺して。ママに捨てられた、いらないボクを殺して!
キライなニンゲンを見たくなくて、後ちょっぴり怖くて
ボクはギュッと目をつぶった。
だけど、痛い事も苦しい事もいつまでたっても起きなかった。
代わりに、暖かいモノがボクを包んだ。頭の上にツメタイ水が落ちてきた。
この暖かいモノは何?ツメタイ水は何?知らない、ボクは知らない。
でも、気持ちが良いな。ずっとこのままでいたいな。
これはナニ?ボクの知らないモノはナニ?
目を開けたら、ボクをニンゲンが抱っこしていた。
最後にママに抱っこしてもらったのはいつだったかな?
暖かくて、気持ち良くて、ずっとずっとこのままでいたい。
でもニンゲン、ママと同じ雌。
またボクを捨てる?ママにも嫌われて捨てられたボクなんて捨てるでしょ。
やめて、もう苦しくなるのも悲しくなるのもキライ。
〈マスター!!〉
ボクを抱っこしてたニンゲンのポケモンが叫んだ。
ボクの身体に赤い水が落ちてくる。この水は今まで沢山見てきた命の水。
この水がなくなると死んじゃうって知ってる。
でも、このニンゲンはそれでもボクを抱っこしたまんま動かない。
『悲しいね、辛いね、人間にこんな事されて悔しいよね。
ごめんね、謝っても許されない位酷い事をされたよね。
人間を嫌いなままでも良い、でも死んじゃ駄目だよ。』
ナニを言ってるの?ごめんねってナニ?どうして死んじゃダメなの?
知らない、わからない、やめて、やめて、やめて!!
『───!!』
別なニンゲンがナニか言ってる。でもそんなのボクは知らない。
ボクの身体にもっと赤い水が落ちてきた。
それでも、このニンゲンはボクを抱っこしたまんま。
『死んじゃ、駄目だよ。あのね、この世界には
綺麗なもの、楽しい事、嬉しい事が沢山あるんだよ?
あなたの知らない事が沢山沢山ある、あなたは生きてそれを知らなくちゃ
生きて、幸せにならなくちゃ駄目だよ。
いらない子なんていない。必要のない物なんて無い。生きてみよう…?」
ボクを抱っこしたままニンゲンが倒れた。
ボクの身体にはまだ赤い水が落ちてくる。それだけじゃなくって
ニンゲンの目から出る水も落ちてくる。ツメタイ…これはニンゲンの水?
ツメタイけど、抱っこしてくれてる身体とおんなじ位暖かいってナニ?
『自分の苦しい事を我慢して、人間を好きだったあなたが好きだよ。
優しい、健気があなたが好き。私はあなたが大好きだから大切にしたいよ。』
ボクの目から水が落ちた。そうだ、この水は涙だった。
赤い水がまだ流れる手がボクを撫でてくれる。
笑った顔はボクの知ってるママの笑った顔とは全然違う。
なんだろう、ココロが抱っこされてるみたいに暖かくなってきた。
どうしてだろう、ボクの目から涙が止まらない。
ねえ、ボクをスキって本当?大切って本当?
ボクを嫌いにならない?ボクを置いていかない?ボクを捨てない?
さっきまで、すごくココロも身体もイタかったんだ。ツメタかったんだ。
でも、今はどっちも凄く暖かいんだ。ボクはずっと暖かくなりたい。
もっと暖かくなりたくて、ニンゲンの身体にくっついてみたら
ギュって抱っこしてくれた。やっぱり暖かいな、気持ちがいいな。
『…信じてくれてありがとう、心を許してくれて嬉しいよ。
大好きよ、これから沢山幸せになろうね?ネイティ。』
ネイティってナニ?それがボクなの?
ママはボクの事、もっと長い変な言葉でしか呼ばなかったよ?
知らないがいっぱい、ボクは何も知らない。
ねぇ、ボクの知らない事を教えてくれるの?一緒にいてくれるの?
知らないニンゲンの雄が二匹こっちに近づいてきた。
ニンゲンの雄はキライ。ボクに痛い事、辛い事しかしないから。
ボクは怖くなって、またチカラを使おうとしたけど出来なかった。
『大丈夫、あの人間は私と同じ。あなたを、絶対、に、傷つけない。
あなたを好きな、私の、大切な人達なの。大丈夫、信、じて?』
ギュってまた抱っこされて、ボクの身体も心ももっと暖かくなって
ボクはチカラを使えなかった。
このニンゲンの大切なニンゲン。大丈夫ってナニ?信じるってナニ?
急に、ボクを抱っこしてくれた手がボクから離れた。
ボクはその手が欲しくて、くっついたんだけど、冷たい。
今まで暖かかった手が冷たくて、赤い水がずっと流れてる。
ボクは知ってる。この水が無くなると死んじゃうって。
ボクは知ってる。このニンゲンが赤い水を出してるのはボクのせい。
さっきのニンゲンの雄がボクとニンゲンを離した。
そのまま、何処かへ行こうとしてる。待って、ねぇ、待って!
ヤメテ、僕から暖かい手を取らないで。
ヤメテ、ボクを置いて死なないで。
ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ───!
〈落ち着きなさい、ネイティ。マスターは戦闘不能状態です。
早くニンゲンのポケモンセンターに連れて行かなければ死んでしまいます。〉
大きくてゴツゴツした身体がボクを抱っこした。
ボクとは違う、ポケモンの雌。しっぽの炎以外真っ黒のポケモン。
これはナニ?キミはナニ?ネイティってボク?
〈可哀想な子、もう大丈夫ですよ。マスターがアナタを助けてくれます。
マスターを傷つけた事は許したくないけれど、お前の気持ちもわかります。
そして、お前を許さなければ、マスターが悲しみますから許します。〉
マスターはあのニンゲン。ボクがマスターを傷つけた。
助けてくれるって本当?許すってナニ?どうしてマスターが悲しむの?
そんな事を考えていたら、凄く身体中がイタクなった。
ボクは知ってる、チカラを使いすぎると身体が壊れるんだって。
ボクは知ってる。身体が壊れると、死んじゃうんだって。
イタイ、イタイ、死んじゃうのかな?でも死にたくない。
あのニンゲンだけスキ。あのニンゲンと一緒にいたい。
イタイ、いたい、イタイ、いたい、イタイ、いたい、いたい、いたい
目の前が真っ暗になる前に、あのニンゲンの笑った顔が見えた気がした。