2015 Valentine Day------物語をはじめよう (ノボリ編 )

2015 Valentine Day

物語をはじめよう (ノボリ編 )



初めて来るノボリさんの家の玄関の前で私はどの位こうしてるんだろう…
玄関のドアは私の気持ちを押しつぶしてしまうかって位大きくて
私の勇気がどんどんしぼんでしまいそうになっちゃう。

こんな気持ちのままじゃ嫌だから、頑張るって決めたんでしょう?
諦めても良いの?私のノボリさんへの気持ちってその程度なの?
どんな事になってもちゃんと受け止めるんだって決めたでしょう?

震える指でインターフォンを押す。
その音が凄く大きく聞こえて、私の胸が一層ドキドキと音をたてた。


様?あぁ、少々お待ちくださいまし!』


モニターで私だってわかったのかな?なんだかちょっと慌ててるみたい。
しばらく待ってるとロックが解除されてドアが開き、ノボリさんが出てきた。


「お待たせしてしまって申し訳ありません。
今日はどうされたのです?私、様と何か約束をしていたでしょうか?」


しまった!確かイッシュじゃ、バレンタインって男の人が好きな人に
プレゼントだとかディナーとかするんだった。
こんな大事な日にいきなり家に押しかけちゃうとか、私ってばなんて事したの!


「と、突然すみません!私ってばノボリさんの予定も考えないで勝手に…」

「……私の事はお気になさらず、特に予定があったわけではございませんので
ところで…様は私に何か用事があるのでございますよね?
ここで立ち話もなんでございますので、中に入ってくださいまし。」


散らかってますがと言われて通された部屋は全然そんな事なく綺麗だった。
リビングに通されて、ノボリさんは少々お待ちくださいと言って席を外した。
今のうちにと思ってバッグからチョコレートを出しておく。
どうしよう…凄く緊張してきちゃった。これをどうやって渡したら良いんだろう
あ、コーヒーと一緒にどうぞって渡せば良いかな?
でもその後でなんて言って切り出せば良いんだろう…怖い…凄く怖くなってきた


「お待たせしました、コーヒーでよろしかったですよね?どうぞ。」

「あ、ありがとうございますっ!」


普段なら砂糖もミルクも入れるんだけど、今は手が震えてそんなの出来そうにない
そのまま一口飲めば、向かいのソファーに座ったノボリさんが首を傾げた。


「貴女様は普段はミルクと砂糖を入れておりませんでしたか?
あぁ、失礼しました!その様な事を私が指摘すべき事ではございませんね。」


そう言ってノボリさんは表情を曇らせてしまった。
違うの、ノボリさんが悪いんじゃないの、こんな顔をさせたいわけじゃない!


「違うんです!初めてお邪魔したので、ちょっと緊張してるだけなんですっ!
すみません、いきなりやってきてこんな態度とか気分悪いですよね…」

「気分は悪くございません。ただ、普段の様からは想像できない行動に
私、少々驚いてはおります。何か大事な相談でもございますのでしょうか?」


私をじっとみつめるシルバーグレーの瞳を見つめたら、もう誤魔化せない。
思い切って傍に置いてた包みを黙ってノボリさんに差し出した。
不思議そうな顔をしてから、開けてみても良いかって聞かれたから頷けば
器用にラッピングを外して中身を取り出したんだけど、急に動きが止まった。
なんでこんなのを渡すって思ってるのかな?何か…何か言わなきゃ…!


「あの…それはですね…」

「……チョコレートでございますよね?」

「は、はいっ!」


見た通りのチョコレートをどうしてノボリさんは確かめる様に聞いたのかな?
あ、貰う意味がわからないから?これはチャンスだよね…言うなら今しかない。
だけど、喉がカラカラに乾いちゃってうまく話せなくて下を向いちゃった。
胸が凄くドキドキしてて顔が熱いから、今の私は真っ赤になってると思う…


様…お聞きしたい事がございますので、顔を上げてくださいまし。」


凄く近くでノボリさんの声が聞こえてびっくりして顔を上げたら
いつのまにだろう、私の隣にきてソファーには座らず床に膝をついていた。
それだけじゃない、口元を手で覆って視線が彷徨ってるのは気のせい?


「あ、あの…」

「あぁお待ちくださいまし、どうか私の質問に先に答えていただけませんか?
このチョコレートは…その……本命チョコと言われる物…なのでしょうか?」

「…っ!!ど…して…っ?」


嘘っ?!イッシュにはそんな習慣がないはずなのに、どうして知ってるの?
どうしよう…まさかノボリさんが知ってるなんて思わなかった。


「私の部下から聞いた事がございます。今日はバレンタインデー、この日は
地方によっては女性がチョコレートと一緒に男性に愛を告げるのだと…
ですからその…様は、私の事を……」


そう言って口元に手を当てたまま黙り込んでしまったノボリさんの顔が赤い。
私ってホントに馬鹿だ。沢山の地方からバトルサブウェイに人は集まってる。
そんな習慣がある事をノボリさんが聞いてたって不思議じゃないのに…
熱かった顔が更に熱くなってクラクラしてきた。それだけじゃない頭の中が
グチャグチャになって、恥ずかしすぎて…もう駄目っ!


様っ?!お待ちくださいまし!どうか逃げないでくださいましっ!!」

「やっ、離してくださいっ…ごめんなさい…ごめんなさいっ!」

「逃がしません、離しません!どうか私の話も聞いてくださいまし!!」


ノボリさんは私の手を掴んで離してくれない、逃げる事もできなくなった。
こんな風になるなんて考えてもいなかったから、私の思考はショートしちゃって
もう何をして良いかわからなくなっちゃった。


様、どうか落ち着いてくださいまし。なぜ謝られるのでございますか?
これは…このチョコレートは違うのでございますか?…私の勘違いなのですか?」


ノボリさんが私の手を掴んだまま、視線をそらさずに真っ直ぐに私をみつめる。
あぁ、これは…もうこうなったら全部正直に言うしかない。


「…の…ノボリさんの言う通り…ですっ!
わ、私はノボリさんの事を……っ、急にこんな事言うなんて…ごめんなさいっ!」


こんな最悪な状況で言わなきゃならなくなるなんて…そう思ったら泣けてきた。
勝手に押しかけて、チョコと一緒に自分の気持ちを押し付けて…
もう駄目だ、きっとノボリさんは呆れてる。軽蔑してるに違いない。


「ごめんなさい、勝手に押しかけて、こんな事までしてすみませんでした。
…もう帰ります。今日の事は忘れて…ください。」


ノボリさんから離れて玄関に向かおうとしたんだけど、それは…できなかった。
一度離れた体をノボリさんはまたギュって力強く抱きしめてから
赤ちゃんをあやす様に背中をトントンと叩くと私から離れた。


「謝らないでくださいまし。泣かないでくださいまし。
女性から、普段の貴女様さまを考えれば、とても勇気がいったでございましょう?
その様な事を様にさせてしまい、申し訳ございません。」

「ノボリさんが謝る事無いんです、私が勝手にやった事なんですから。
だからもう帰ります。明日…明日になったら元に戻りますから…。」

「貴女のしてくださった事を忘れろと?お断りいたします。
逃げないで、様落ち着いて、どうか私の話も聞いてくださいまし。」

「ノボリさん?」

「私は貴女様からこのチョコレートを受け取って嬉しかったのです。
バレンタインのこの習慣を部下から聞いた時、様が私にくれたら…
その様に浅ましくも思ってしまったのです。」


バレンタインの習慣を知って、私のチョコレートを待っていた…?
それってノボリさんも私と同じ気持ちだって思っても良いの?


「私は…、私も様をお慕いしております。
どうか私の特別な女性になってくださいまし、恋人になってくださいまし。」


抱きしめていた腕を解き、ソファーに座らせると大きな手が私の手に触れる。
大きな掌は私の手をスッポリと包み込んで、まるで全部を包まれてる様な
そんな気持ちにさせてくれた。


「私の想いを伝えて、貴女様に拒絶されるのが怖かったのです。
それならば友人として傍にいる方が良いと、自分を誤魔化していたのです。」


ノボリさんの告白を聞いてたら、また涙が出てきてしまった。
諦めなくて良かった、勇気を出して良かった。頑張って…良かった…っ!

ノボリさんが私の肩を抱き寄せてから、ポケットからハンカチを取り出して
私の涙をそっと拭ってくれた。その指先がとても暖かくて優しくて
涙が後から後から流れてしまう。


「そんな私と違って、様は勇気を持って打ち明けてくださいました。
本当なら男の私から先に想いを告げるべきでしたのに…申し訳ありません。
臆病で情けない男でございますが、どうかおそばにいさせてくださいまし。」

「…はい…っ」


泣きすぎな私は答えるしか出来なかった。
とうとうしゃくり上げ始めちゃった私の耳元で泣かないでと言い続けて
背中をさすってくれてる方の反対の手には私があげたチョコがあって
早く食べて欲しそうに小さな音を立てて揺れていた。