2014 White Day------狡い人 前編

2014 White Day

狡い人 前編



月が変わって、月末締めの計算も終わり私のいる経理課全体も
なんとなく落ち着いてきた頃に、一枚のメモを受け取った。

渡してくれたのは保全管理課の主任なんだけど、
これって、私と課長さんとの経緯を知ってるって事なのかな?
別にまだお付き合いしてるわけでもないのに、なんだか顔が赤くなった。
周囲の目を気にしながら、メモの内容を見れば

〈 今月14日、どうしますか?連絡お待ちしています。  〉

相変わらずの綺麗な文字で短くそう書かれた後に、課長のかな?
ライブキャスターのメールアドレスが書いてあった。
お返事はあの時にしたんだけど

『…興味本位でなら、やめた方が良いって事です。火傷位じゃ済みませんよ?』

あの時の課長の瞳が忘れられない。
普段の仕事をしてる時とは全く別な表情に驚いたけど、もっと惹かれた。
これで誘いを断ってしまったら、何もなかった事にされるんだろうな。

選ぶのは私、決めるのも私…それって大人の狡さかもしれない。
あの人は私が思っている以上に、こういう事に慣れているのかもしれない。
だけど、自分の気持ちに嘘もつけない…つきたくない。

勇気を振り絞って、もらったアドレスにメールを送ればすぐに返信がきた。

〈 誘いを受けてくれてありがとうございます。
食事も一緒にしたいので、そのつもりでいてください。
ドレスコードは特にありませんので、普通の格好で構いません。
当日定時であがる予定ですが、変更もないわけではないので
さんが終わったら、保全管理課の事務室で待っててください。
14日の日を楽しみにしています。では、おやすみなさい。〉

なんの飾りもない文面なのに、心が躍る。
私はメールを保護するを選択して、ライブキャスターを閉じた。

それから当日までは本当にあっという間で、私のした事といえば
何を着ていくのか散々迷った挙句、結局は無難なワンピースを選んだり
ヘアケアとスキンケアを集中的にしたりと、色々頑張ってみた。

いよいよ当日、定時で仕事を終わらせた私は
この前と同じく、サブウェイマスターの執務室のドアの前でウロウロしていた。
待ち合わせが保全管理課の事務室って時点で気が付くべきだった。
でも今更、場所の変更をお願いするのも変だし…どうしよう。

「えっと、さん…で良かったですよね?中に入らないんですか?」

いきなり後ろから声をかけられて、驚いて振り返れば
さんが書類の束を抱えて、首をかしげながら私を見ていた。

「えっと、まだお仕事中かと思って…なんだか入りにくくって…」

正直に話せば、さんは笑いながら首を横に振る。

「課長から聞いてますよー。ホワイトデーのお返しでしょ?
もうちょっとで終わると思うから、中に入って待っててください。」

そう言って、さんはドアを開けてしまった。
うわわ、ボス達も全員揃ってるの?!
凄く緊張しちゃうけど、もう覚悟を決めて失礼しますと言って中へ入る。
そのまま応接スペースに通されて、さんがコーヒーをくれた。

「ありがとうございます。えっとさん、ホワイトデーってなんですか?」

「あれ?課長ったら教えてなかったんですか?
ホワイトデーってのはカントー方面での風習っていうか習慣?
バレンタインにチョコをもらった男の人はその1ヶ月後に
お返しを相手にするんですよ。」

そんな習慣があるなんて知らなかった。
そっか、課長はその習慣に倣ってるだけなんだ。
今までのフワフワした気持ちが一気にしぼんでしまって、俯く。

「うし、俺の仕事は終わったんで帰らせてもらいます。
ボス達、この書類は明日の朝イチで受け取らせてもらいます。」

「りょーかい、他の事はに聞くから帰って良い。」

「えぇ、女性を待たせるのは感心いたしませんよ?」

「いきなり、書類をつきつけた張本人達が良く言いますね。
さん、お待たせしてしまって申し訳ありません。
着替えてきますのでもう少しここで待っててください。」

そう言って、課長は私に向かって手をあげてから部屋を出ていった。
なんだか取り残されたというか、ちょっといたたまれないかもしれない。

、すっごく緊張してる?ボク達がいるからって気にしないで?」

「えぇ、もっとこちらに…の所に来てもよろしいのですよ?」

ボス達が私の緊張っぷりに苦笑いしてこっちをみてるけど
そんな事できるわけないから仕方がないんです。

「いえ、私と課長はそんな…」

さん、ホワイトデーは貴女が思っている様なものだけじゃない。
その意味を俺は教えてはあげられないけど、後からに聞くといいよ。」

主任が訳知り顔で笑っているんだけど、意味ってなんだろう?
こんな事になるなら、もっとカントー方面の風習を調べておけばよかった。

「お待たせしました、それじゃあ行きましょうか。」

着替えを終わらせた課長が部屋に入ってきて私を手招くから
慌ててソファーからた立ち上がり入口に向かう。
二人でお先に失礼しますといって部屋を出た後は、近くの出口に向かって
それぞれ、何をいうでもなく歩きだした。

「さて、食事の場所はここから少し離れているんで歩きますね。
さんはアルコールは大丈夫かい?」

「あ、はい。あまり強くないですけど、甘めのカクテルとかは好きです。
あの、課長…なんだかすみません。
私、ホワイトデーの習慣を知らなかったので気を使わせてしまって…」

うつむき加減に言葉も小さくなっちゃう。

「…です。」

自分の名前を言い出した課長に驚いて顔を上げれば、
課長は苦笑いして私を見ていた。

「ここはもうギアステじゃないんだから、課長とか役職は無しだよ。
ホワイトデーの習慣を知らなくて当然、俺も敢えて教えなかったし。」

口調が仕事中のじゃなくなって、表情もなんだか違う様に見える。
これが、普段の課長なの?それも素敵だと思う私は重症かもしれない。