怒りと策略
朝礼の後、総務部長さんとちょっとした打ち合わせをしてから
執務室に戻る途中、エントランスの隅っこにとキャメロンがいた。
いや、別にそれは職員同士なんだからおかしくはないんだけど
なんだろ、二人共すっごく仲が良いって感じで笑い合ってる。
「クダリ?」
立ち止まって、そっちを見ていたからノボリが途中で気がついて
ボクに声をかける。そしてボクの視線の先をみてため息をついた。
「貴方の気持ちも理解できますが、ここは職場でございます。
そして、があの様に他の職員と話しているなどいつもでしょう?」
「…わかってる。」
そう、頭ではちゃんとわかってる。
は誰にでもあんな感じで話してる。笑っている。
それはボクにでもおんなじ事。仕事の時は特にそうだってのもわかってる。
そのまま歩き出したボクの後ろでノボリがまたため息をついてる。
きっと今のボクの顔はいつものスマイルなんてどこ?って感じなんだろうな。
「余裕のない男は嫌われますよ。」
「…」
それだってわかってるってば。
こんな事じゃ、勘のいいに気づかれちゃう。
いつものスマイルをつけて、いつもみたいに話をしなくちゃ駄目。
でもさ、いつまで自分の気持ちを誤魔化せば良いのかな?
執務室に戻れば、とがなんだか打ち合わせをしてた。
その横を無言で通り過ぎて、コートと帽子を壁にかける。
「白ボス、何かあったんですか?」
が心配そうに声をかけてきた。
だけど、それにどうやって答えたらいいのかわかんなくて黙ったままにする。
がコーヒーを手渡してくれながら、ボクの顔を覗き込む。
「白ボス、その顔は黒ボス?って感じになってるよ。
何があったか知らないけど、話してくれれば色々言う事は出来るけれど?」
受け取ったコーヒーを一口飲めば、苦さが逆にボクを落ち着けてくれる。
そうだよね、色々悩んだって仕方がない事なんだけど
ちょっと愚痴ってもいいよね?
二人は、マスコミに話しちゃった後ボクに協力してくれるって言ってるし…
「ねぇ、ボクって男として魅力ないのかな?」
それだけで、ボクが何を悩んでるのかが二人にはわかったみたい。
お互いに顔を見合わせてから、なんだか苦笑いをしてる。
「クダリに魅力がないわけじゃ無いと思うぞ?
問題はにある。でもそれは覚悟してたんじゃないのか?」
あ、の口調が仕事モードじゃなくなってる。
うん、今はその方が助かるかもしんない。ボクは黙って頷いた。
「まぁ、煮詰まっちまうのもわかるがな。
俺達が見たって、お前がすげぇあいつを大事に思っていながら
頑張ってアプローチしてるのは伝わって来るからな。
ちなみに、お前がにマジ惚れしてるってのは、職員全員にバレてるぞ。」
うわぁ…やっぱり皆にはバレてる?
いや、マスコミ相手に宣言してるんだから仕方ないけど。
それでもちょっと恥ずかしい、まぁ、ホントの事だから仕方ないんだけど。
なんだか朝から疲れきったかも、そのまま机に突っ伏しちゃったよ。
ノボリが行儀が悪いですよ。なんて言ってるけど、気にしてらんない。
「あれだけアプローチしてるのですから、皆様が気付かないわけがありません。
ですが、他人の感情に敏いはずの肝心のが気付かないのは?」
ノボリに言われて、ボクも初めて気がついた。
そうだよ、って相手の考えてる事とかをすぐに気がついて
色々とフォローするのが得意なはず。
じゃあなんでボクの気持ちに気付かないの?いや、もしかして…
「ねぇ、もしかしてはとっくにボクの気持ちを知ってる?」
ボクの質問にもも、あーって顔をしてる。
って事はそういう事なの?知っててあんな態度を取ってるって事なの?
それはボクの事をそういう目で見れないって事…なの?
「クダリ、早まるなよ。は恋愛感情をとことん遠ざける。
それは前にも言ったよな?それを承知でって事じゃなかったのか?」
「あ…」
の言葉に目の前が赤く染まってた状態がちょっとだけ落ち着いた。
そうだったね、それを知っててボクはそれでもが好きになったんだ。
危ない、こんな感情をにぶつけたって良い結果にはなりっこない。
深呼吸をして、全身に入っていた力を抜く。
「クダリ、ダブルバトルは戦略と先読みが重要じゃねぇか。
何手先も読んで、相手の裏をかいて隙をついて先手を打つ…だよな?
だが、言っておくがも俺達程じゃねぇがダブルバトルは得意だ。
さらに味方と敵の間合いと読み合いを重視するマルチバトルについちゃあ
はっきり言って、あいつの独壇場…だろう?」
の言葉になんだか頭をガツンって殴られたような気がした。
そうだ、バトルの戦術を組み立てたり、先読みをするのは
も得意な事なんだよね。
つまり、そういう感じでボクが諦めるのを待ってる…って事なんだね。
「冗談じゃない。何それ…ふざけないで欲しい。」
時間だからって、仕事に行っちゃった以外の残ったこの部屋の温度が
一気に下がったような気がした。うん、ボクその位ちょっと怒ってる。
「クダリ、早まらないでくださいましね?」
ボクの変化に気づいたノボリが釘をさす様に言ってるけど、大丈夫。
そんな馬鹿な真似をすれば、それこその思うツボだもん。
「ノボリ、心配しなくても大丈夫。ボクはバカな事はしない。
ううん、出来ない。そんな事したらの戦略にはまっちゃう。」
頬杖をついて笑う今のボクの顔は、多分バトル中と同じだと思う。
「っていうか、今までの戦略にはまってた。だけどもうそんな事はない。
だってボクはダブルのサブウェイマスター。そしてマルチが一番得意。
がそういうつもりでいるんだったら、ボクにだって考えがある。」
ボクの変化には驚いたみたいだけど、その後でいつもの
何か企んでる時によくするニヤリとした笑い方をした。
うん、にはボクのしようとしてる事がわかってるんだと思う。
「まぁ、俺達は全面的に白ボスを応援してるからね。
だけど、あいつを泣かせるような事だけは許さないよ?
ボスと違って経験値がゼロみたいなものなんだからね。
それだけは忘れないでいてほしいかな。」
それは最初にボクに協力してくれるって言った時と同じだよね。
を泣かせるなって、それだけは二人は許さないって言ってる。
そろそろこの話は終わりって事なんだろうな。口調が仕事モードに変わった。
「にそういう恋愛経験がないのは見ればわかる。
だけど、今度からはそれも逆手にとらせてもらう。
うん、ボクの恋愛経験も無駄じゃなかったかもしんない。
違う意味で泣かせるかもだけど、悲しませて泣かせる事は絶対にしない。」
今から作戦変更。がわからないだろう部分を徹底的に攻める。
ポケモンバトル以外で、ここまで戦略とか考えたのは初めてかも。
「クダリ、力ずくは駄目絶対でございますよ?
それは人として、男として許される事ではございませんからね?」
「ノボリ、ボクはを奥さんにしたいんだよ?
身体だけじゃない、全部が欲しい。だから馬鹿な真似はしない。」
勿論、それはわかってるから心配しないでって言えば
ノボリはちょっと安心したみたい。
その位ボクの顔つきが変わってるんだろうな。
でも、この本気のバトルは負けるわけにはいかないんだ。
さぁ、作戦変更も確認したし準備はオッケー
目指すは勝利、をゲットするために出発進行させてもらう。