-スウィート マジック-

スウィート マジック




2丁目の交差点から17件目の雑貨屋を右に曲がってちょっと行くと

小さいカントリー風のお店『シュガー ポット』が見えてくる。

ここのスイーツとマスターはボクのお気に入り!



「いらっしゃませ!エメットさん、お久しぶりですね。」



木製のドアを開けると甘い香りがボクを優しく包んでくれて

カウンターの奥から漆黒の大きな瞳が弧を描き声をかけてくる。



「ヤッホー、美味しそうな匂いがするネ。今日のオススメはkitten?」



「いつも言ってますが、子猫って歳はとっくにすぎてますよ?」



カウンターに座ってバチンとウィンクをすると

困ったように笑いながらパンプキンパイですよと返事が返ってくる。

ボクはそれとシナモンティーを注文する。


テーブルに頬杖をついてマスターのを見つめる。

漆黒のロングヘアーをまとめてギャルソンの服装を着て

パッと見た感じは幼いんだけど、ふとした仕草が凄く綺麗で

ボクはドキドキしちゃうんだ。


出会いは最悪で、2、3回ベッドを一緒にしただけの女の子が

しつこくてキッパリと振ったと思ったら。

マッチョな男達を連れて待ち伏せされて、危機一髪って所を

そばを通りかかったに助けてもらった。

だから、僕の印象は最低な男からのスタート。

ボクはその後からここに通いつめてイメージアップに頑張ったヨ。

今のポジションは常連のお客さんなのかな?

この気を許した、何気ないやりとりとか、フンワリした空気も嫌いじゃない

でも、ボクとしてはもうちょっとランクアップさせたいんだよネー。


シックなデザインのカフェカーテンのかけられた窓からは

雨が多いことで有名なユノーヴァ地方でも夏は快晴の日が続いてる。

21時を過ぎた今でもサマータイムだから、まだ外は明るいんだ。



「お待たせしました、ごゆっくりどうぞ。」



流れるように綺麗な所作でテーブルの上に注文された品物が置かれる。

皿の上には二種類のいつもより小さめなケーキが乗せられていた。



、これってどっちもパンプキンパイなの?」



ボクがフォークでつついて声をかけると、ティーポットを洗っていた

手を止めてそばに来ては説明してくれた。



「えぇ、こっちのタルト風はイッシュ北部の伝統的なもので

カボチャのピューレにナツメグとかクローブとかジンジャーをブレンドした

スパイスをいれてカスタードとミックスした物を使っています。

それを層を作らないパイ生地の上に流し込んで焼くんです。

一緒に添えつけた、ホイップクリームと一緒に食べてくださいね。

そしてこっちのパイ生地にくるんであるものは、カボチャをマッシュして

バターや砂糖等入れてペースト状にした物と角切りのカボチャを混ぜて

パイ生地に包んであります。上にのせたパンプキンシードも美味しいですよ。」



ボクの隣でちょっとかがみこんで身振り手振りで説明してくれる。

このコは何にでも一生懸命なんだよネ、それが凄く格好良くて可愛いと思う。

が動く度にバニラエッセンスと蜂蜜が混じったような甘い匂いが広がる。

ボクに近づいてくる女のコ達がつける全然似合ってないトワレなんかよりも

こっちの方がずっとスキ。そう、ボクはが本気でスキ。


違いを楽しんで食べてくださいねって言って、はカウンターに戻った。

その腕を掴んで、キミを味わいたんだけど?って言いたいんだけどネ。

そんな事したら笑顔で投げ飛ばされそうだから言わないケド。

ウウン、その前に言えないんだよネ。ボクらしくなくて調子がでない。

でも、ボクが望んでいるのはワンナイト ラバーじゃないんだ。

こういう暖かくて、フワフワしたが作るスウィーツみたいな空気が

ボク達を包み込んでくれる…そんな日々が欲しいんだヨ。

だけど、ボクはどうすればそれが手に入るのかわからないんだ。


ティーソーサーの上に置かれた薔薇の形の角砂糖2つをカップに入れて

シナモンスティックで琥珀色の水面をクルクルとかき混ぜれば

一面にシナモンの甘くてスパイシーな香りが広がる。

そういえば、この前マルチにきた女の子達がこの店の事を話してたっけ。


“シュガー ポット のシナモンティーは恋のおまじないがあって

シナモンスティックで窓ガラスに3回好きな人の名前を書くと

その人と両思いになれるって、アタシの友達が成功したんだって!”


……ホントにそんな事で想いが叶うナラ、それはおまじないじゃなく

魔法だよネー、ボクはそう言うの今まで馬鹿にしてきたんだけどサ。

スティックを掴んでよく磨かれた窓ガラスに『』って3回

ボクの想いが届きますようにって心を込めて書く。

今はこんなくだらない事でも、縋りつきたいカモ。その位八方塞がり。


シナモンティーを飲みながら、パンプキンパイを口に入れれば

ちょうど良い甘さとスパイシーが絶妙なハーモニーで口に広がって

スウィーツにはうるさいボクの舌を満足させてくれる。

なんか、それだけでちょっと重くなった心が軽くなった。

このおまじないはもうちょとやってみようかな?

その位のアプローチはしても投げ飛ばされないデショ。

見えてはいない窓ガラスに書いた名前を見て、ボクは席を立った。

会計を済ませて、またねと投げキッスを送ったら、ニッコリ笑って

叩き落される真似されちゃった。ちょっと顔が赤かったけどネ!


外に出れば、まだ明るくて表通りからは人の賑わう声が聞こえる。

頬に触れる風は昼間よりは冷たくて気持ちも身体もスッキリさせた。

ウン、悩んでいたって仕方ないや。ボクらしくなくったっていい。

少しずつこの空気を楽しんで味わいながら距離を近づけよう。


店の中で、僕の使ったテーブルを片付けていた

窓ガラスに書かれた自分の名前をみつけて固まってた事を

ボクはまだ知らない。