-Poco a Poco -

Poco a Poco




カランコロン…空き缶が無人のホームに転がる音が響く。

横にいた私のダストダスが拾って吸い上げ、礼を言って撫でると

嬉しそうにつぶらな瞳が細まるのが可愛らしいですね。


バトルが終わり、トレインから降りてみれば遠巻きに私を見つめる

女性達のその数にうんざりしてこの子を出してホームの清掃を始めれば

周囲は無人になりました。利用した様になって申し訳ありませんね。

控え目なこの子は自分の立ち位置を理解しているのか、私の背中を叩きます。

気にするな、大変だなぁと言うような感情が私に伝わってきます。


私達はポケモンと言葉が通じませんが触れ合うことで意志の疎通ができます。

言葉とは諸刃の剣にもなるものでございます。

自分の気持ちを正直にそのまま言葉に表す方など存在しません。

そこにはかならず余計なものが含まれます。

その辺の見極めのなんと面倒な事か。特に女性に対しては言うまでもありません。

自分が人との関わり方が下手なのでこんな事を思ってしまうのでしょう。



「あ、黒ボスお疲れ様です。ダストダスもお掃除お疲れ様!」



柔らかなアルトの声に思考の海に沈みかけた意識を浮かばせてみれば

前からがダストダスに向かって手を振っております。

ダストダスも、手を振ると嬉しそうに彼女のそばへ近づいていきます。

あなたは彼女が大好きですものね、そう言う私も…で、ございますが。

この子はの、他のポケモン達と接する時と同じ様に

自分にも接してくれる事が嬉しいのでしょう。

私も、以前はそうでございましたので、よくわかります。

ですが、今ではそれだけでは満足できないのです。

自分の気持ちを伝えてもいないのになんて傲慢なんでしょうね。

ホラ、今も私は何事もなかったかの様に接してしまいます。



もお疲れ様でございます。今お仕事が終わったのですか?」



ライブキャスターの画面の時刻を見れば退社時間をとっくに過ぎており

他の職員の方ももう殆ど退社しているでしょうに。



「えぇ、丁度キリの良い所までと思ってたらこんな時間になりました。

あ、ゴミを頂戴って?待ってね、今ホウキとちり取り出すから。

コラ、急かさないでってば。ハイどうぞ。」



隣でダストダスがの持っていたゴミを催促しています。

笑顔で渡されたゴミ袋を受け取ると嬉しそうに吸い込みました。

満足気なダストダスに美味しかった?と問いかけてダストダスが

頷くと、ホント可愛いんだからと言ってはこの子に抱きつきました。

ダストダスが慌ててその身体を離そうとしております。

あぁ、が汚れてしまうのが嫌なのですね。



、その様に抱きつきますと貴女が汚れてしまいますよ。

この子もそれを気にしておりますので離れてくださいまし。」



私の言葉に不思議そうな顔をして、その後でダストダスを見つめます。

私に抱きつかれるの嫌?と聞かれたダストダスが慌てて首を振っております。

自分についた埃をパンパンと払ってこれなら汚れないでしょうと

何やら勘違いをしたまま、満面の笑顔で再び抱きつく彼女に

今度は恐る恐る手を回して擦り寄ります。

その光景を見ていると、こちらまで心がホッコリと暖かくなりますね。


ホームの清掃を手伝ってくれるというをやんわりと断ってみれば

チリトリとホウキを持参してるんだからやらせてくださいよと言われて

結局最後までお手伝いしていただきました。

ダストダスに感謝の言葉をかけてボールに戻せば

そのボールを愛おしそうにも撫でてお疲れ様と声をかけます。

お互いが手袋をしているのにわずかに触れた指先が熱を持ったかのように

感じてしまうのはどうしようもないですね。


ホームのベンチに隣同士で腰をかけて、おいしい水を飲みながら

とりとめのない会話を致していましたが、ふと思う事があり聞いてみました。



「大抵の女性はダストダスを見ると逃げるのですが、は違うのですね。

勿論、この子に何の罪もありませんし、私もこの子が愛おしいので

気にすることでも無いとは思うのですが、ずっと不思議に思っておりました。」



なぜですか?と問いかけてみれば、はうーんと唸った後に

ちょっと話が長くなるし、漠然としてますがいいですか?と聞かれたので

頷いて続きを促しました。



「私はこの世界ではいらない命って無いと思ってるんですよ。

どんなポケモン達も何らかの意味があって生まれてきたと思ってます。

どの子達も皆一生懸命で誠実で優しくて、私達人間とは言葉が無くても

その気持ちに触れ合ってお互いに信頼しあえる。

純粋でキラキラしていてそんな彼らを大好きにならない方が変ですよ。」



そう言っては残りのおいしい水を一気に飲み干した。

私は、彼女の言葉に感銘を受け、頷く事しかできませんでした。



「そんなポケモン達はトレーナーの影響を受けやすいでしょう?

元々は人間なんかよりずっと高等な彼等を貶める事だけはしたくない

どんな時にもこの子達には誠実でありたいし、誇れる人でありたいから

私は、どのポケモンにも同じ様に大好きだよって言ってるんです。

それは言葉にしなくても通じちゃうんですよ?

彼等に触れて、抱きしめているとそれ以上の想いがかえってくるんです。

だから皆が好き、大好き、大切にしたい、守りたい、愛したいんです。」



なんという素晴らしい信頼関係、絆でしょうか…

彼女のどこまでも深い愛情と優しさの片鱗を垣間見た気がします。

私は何か言いたかったのですが、言葉が出てきませんでした。


こんな事言ってるけど、自分の子達が一番だったりしますけどね。と

おどけて笑うがとても愛おしくて気がつけばその身体を抱きしめて

腕の中へ閉じ込めておりました。

貴女が好きなのです、大切にしたい、守りたい、愛したい。



「黒ボス?えっと…どうしました?私、何かやらかしちゃいました?」



あいも変わらず何か勘違いされてる様で、私の後ろで手をパタパタと

動かして慌てております。あぁ、どうやってこの想いを伝えたら良いのでしょう



「私、どうも言葉に出して相手に伝えるという事が非常に苦手なのです。

ですが、何も想っていないわけではございません。むしろ色々と

伝えたい事は沢山あるのです。ですがその方法がわかりません。」



あぁ、私が伝えたいのはこんな事ではないのに、何を言っているのでしょう。

自分の不甲斐なさにやりきれなくなっていると、がまるで

子供をあやすかの様に背中をポンポンと規則的に繰り返し叩きました。



「黒ボス…いえ、ノボリさん。

焦る事ないですよ。ちゃんと聞きますから、ゆっくり ゆっくりと、ね?」



その言葉を聞いて、やりきれなさが消え去りました。



が好きです。大切にしたい、守りたい、愛したい。この想いが伝わって

そして、貴女にもそれに応えてもらいたいのです。」



気がつけば、素直な気持ちが何の飾りもないまま口から出ていました。

私の想いを伝えたくて、を抱きしめる力を少し強めれば

背中に回った腕が応えてくれるように抱きしめ返してきました。



「ノボリさんの気持ち、確かに受け取りました。とても嬉しいです。

私もそれに応えたいなって思いました。えっと、こういう答えでいいですか?」



ちょっとソッチ方面の感情ってのはよくわからなくてと困ったように

笑っている彼女に、私もですと言えば、お互い初心者ですけど

頑張りましょうねと言われました…何を頑張るのでしょうか?



「なんでしょう…私、新しくポケモンをゲットした時の様に

ワクワクしております。っと、には失礼ですね。」



思ったことを素直に口にしてみれば、怒るでもなく逆に私も!と頷かれました。

その姿が愛おしくて額に口付ければ、お返しですと頬に口付けされました。

いい歳した大人がとも思いましたが、私の心は満たされております。


そうですね、私達はこれで恋人同士と呼べるかすらよくわかりませんが、

スタートラインに立ったばかりなのですから、焦る必要はございませんね。

こうして、お互いに触れ合って、そしてゆっくりと絆を深め、

確かめ合いながら前に進んで行きましょう。