Make A Wish
執務室の応接スペースで書類を読んだ私とクダリは返答に困りました。
個人的には是非とも参加したいのですが、色々と規約に触れてしまうのです。
「あのね、聞いても良いかな?
バトルをするのはこの子なの?それって凄く身体に負担をかけちゃう。
そういう事なら、ボク逹はこの話を受ける事は出来ない。」
クダリがいつものスマイルを引っ込めて、口を開きました。
「いえ、彼等にそんな体力は残っていません。
旅を終えた後でチャレンジしたいと思っていたこの場所で
共に過ごしてきたポケモン達のバトルを見るだけで良いそうです。」
向かい側にすわった男性が説明をすると、両隣の少年達が同時に頷きます。
クダリは眉間に皺を寄せて考え込んでしまいました。
私も恐らくは同じ表情をしているのでございましょう。
「私達としましても、是非ともこの二人の願いを叶えたいのです。
ですが、当施設の規約がございます。
ノーマルとは言え、私達とバトルするには20連勝していただかなくては…
そして、私達は手を抜いて勝利を与える事も出来ません。」
「うん、途中下車するかもしんない。それじゃ願いを叶えた事にはならない。」
書類には、ローティーンの双子が笑った写真を貼った書類があり
その内容は、難病で闘っている彼等の願い…
この写真の子達のパートナーポケモンを使用したマルチバトルを
サブウェイマスターである私達と行いたい。
付き添いのドクターや対応につきましては万全で申し分ないのです。
それでも当施設の規約を破る事は大変難しいでしょう。
「…要はサブウェイマスターの場所まで確実に辿り付けば良いんだろ?」
「兄さん、言葉遣い。」
初めて同席していた少年達が口を開いたのですが
どう見ても年下と思われていた少年に、もう一方の少年が兄と呼んだので
私達は驚いてしまいました。
「失礼ですが、お二人は?」
「あぁ、すみません。ボランティアとして当団体に所属しております。
この少年達の担当をしている、とです。
彼等が少年達のポケモンを預かり、バトルをさせる事になってます。
トレーナー歴につきましたは、こちらの書類に…えぇ、これに記述してます。」
「ふーん、二人共イッシュの人じゃないんだ。
ちょっと待って、これって向こうで四天王撃破してるって事?!」
「はい、私どもでも担当がこの二人でなければ諦めるはずでした。
しかし、彼等のトレーナーとしての素質にかける価値は十分あります。」
「おっさん、俺等は何度も言ってるだろー!
出来ない依頼は引き受けねーよ。ボケてんのか?」
「、オレはまだ二十代だっつーの!おっさん言うなっ!!」
「二人共、言葉…。」
「あはは!皆面白い!別に普通に話して構わない。
あのね、?出来ない依頼はしないって言うけど、甘く見てない?」
「甘く見てないよ?バトルはどんな時だって舐められないだろ?
そんなトレーナーは、もう一度スクールからやり直せば良いんじゃね?」
「うん、その気持ちすっごくわかるかもしんない!」
なんだか、様とクダリはすっかり意気投合したようでございますね。
まるで長年の友人の様に笑い合っております。
「…兄さんが色々とすみません。」
「あぁ、その様にお気遣いなさらなくても結構でございますよ?
様…でよろしいでしょうか?お兄様はとても明るく素敵な方ですね。」
「はい、自慢の兄さんです。」
恐縮した様に私に向かって頭を下げる様にそう言えば
無表情と思われたその顔が嬉しそうに綻びました。
その顔はお兄様と似ていて、見ている私も釣られて笑顔になってしまいますね。
「うん、わかった!そういう事なら問題無い!
っていうか、この子達の為にボク達も協力させてもらう。」
「えぇ、二人の為に素晴らしいバトルを提供する事をお約束いたします。」
「ご協力、感謝します!それでは詳しい日程につきましては後程。
時間が無い、俺は事務所に戻って病院と打ち合わせをする。
二人はあの子達の手持ちとトレインの6両目まで勝ち進んでくれ。」
それではと言って、三人は其々に執務室を出て行きました。
この計画が決して簡単なものでは無いのは、書類を見ればわかります。
それでも病と闘う子供達の為にという姿勢は、とても素晴らしいですね。
私もクダリも、個人として、サブウェイマスターとしてこの計画に参加できて
非常に嬉しく、そして誇りに思います!
それから間もなくして、団体を通して日程の提示があり
私達はそのまま了承する旨を伝えました。
そしてその当日
クラウンの衣装を来た様と様が車椅子を押して車両内に入ります。
後ろにはご両親と、付き添いのドクターもおられます。
私達は口上を述べる前に、少年達の前に立ち挨拶をしました。
病と必死に闘っている身体は余りにも華奢で、それでも私達を見る瞳は
キラキラと輝いております。
『二人共、ボク達は絶対に勝つからシッカリ見ててねっ!』
『うんうん、二人のポケモン達はすっごいんだよ!』
両手にポッチャマとヒコザルのパペットを二人に見せて様?が話します。
応接スペースで聞いたお声とは違い、とても溌剌とされてるので驚きました。
その後ろで、フウタ様でしょうクラウンがパチンと指を鳴らすと
その手にはナエトルがおりました。
「良いかい?このナエトルは無敵なんだ!
この子がキミ達全員を完璧に守るから、しっかり見てるんだよ?」
「「うんっ!」」
様も二人にパペットを渡すと揃ってに私達へと向き直ります。
その瞳には、クラウンらしからぬ挑戦的な光がございました。
「顔で 笑って 心で 泣いて」
「一世一代の」
「「大芝居!」」
それぞれに口上を述べるのは私達と同じですね、こちらも負けてはおれません!
「私、サブウェイマスターのノボリと申します!
片側に控えるは、同じくサブウェイマスターのクダリです。
さて、マルチバトル
お互いの弱点をカバーしあうのか?
はたまた、圧倒的な攻撃力をみせるのか?
どの様に戦われるのかたのしみでございますが
あなたさまとパートナーとの息がぴたりとあわないかぎり
勝利するのは難しいでしょう。
ではクダリ、なにかございましたらどうぞ!」
「ルールを守って 安全運転!
ダイヤを守って 皆さんスマイル!
指差し確認 準備オッケー!
目指すは勝利! 出発進行!」
バトルは序盤からヒートアップいたしました。
自分の手持ちではなく、お預かりしたポケモンであるはずの子達を
彼らは難なく操り、様々なコンビネーションを私達に披露し
その姿はまるで舞台の上で華麗なショーを繰り広げている様でございます。
時折爆風が巻き起こり、車椅子に乗った少年達を襲いますが
様の言葉通りナエトルが、ワイドガードでございましょうか?
後ろの人達の身体を青白く包み込み、完璧に守られております。
「よそ見は厳禁、サブウェイマスター!」
「油断大敵、サブウェイマスター!」
「ボク逹はサブウェイマスター!どんな時でも勝利を目指す!」
「全速前進が通常運行でございます!」
指示出しを一切躊躇しない様子はスーパーブラボー!で
クダリもその様に感じているのでしょう、とても楽しそうでございます。
「ボク達はクラウン、観客の笑顔が最高のご褒美!」
「その為ならどんな夢でも見せてあげる、それがクラウン!!」
まだ年若いはずの彼等をこの様に突き動かすのは、誰かの為にという意思
それは大人であっても誰もが出来る事ではございません
二人の瞳には揺るぎない信念が見られ、私はバトル中でございましたが
不覚にも感動してしまいました。
「アイアント戦闘不能!この勝負クラウンのとの勝利!!」
「ボク、クダリ
ノボリと一緒に負けちゃった。君達のコンビネーション最高、バツグン!
ものすごーく強いトレーナー!うん!最高におもしろかった!」
「ブラボー!!
あなたさまにみせていただいたのは、トレーナーとしてのきらめきです
ですが、ひとこと いわせていただきましょう!
私達に勝利したのも、人生の通過点
あなたさまならもっともっと上を目指せるでしょう
さらなる目標に向かって、爆走なさってくださいまし!」
心から、この口上を述べるのは久しいのではないでしょうか。
ノーマルとはいえ素晴らしいバトルの末に勝利した二人へ
私とクダリは惜しみない拍手を送りました。
「「最後までご観覧いただき、ありがとうございました!」」
様と様はポケモン達をボールへ戻すと、私達と後ろの少年逹に
それぞれ、恭しくお辞儀をなされました。
それから車椅子の少年逹の前に跪き、ボールを二人に渡します。
「二人のポケモンは沢山頑張ってサブウェイマスターに勝利したよ!」
様が指を鳴らすとナエトルの姿が消えました。
そして、お二人が持っていたはずの様のパペットが
様の手に戻っております。
『ポケモン達はマスターが大好き!二人とずっと友達!!』
『この勝利は二人が願ったから叶った!だから夢を希望を諦めないでねっ!』
夢のお手伝いとはこれ程までに心が温かくなるのですね。
私達も少年の傍に近づきました。
「お二人のポケモンはとても強く、素晴らしかったです!
今度は元気になられた貴方達と、是非バトルをしたいと思っております。」
「うん、だから待っている。きみたちが、ここに来ることを!
これは、素敵なバトルができたお礼。受け取ってくれると嬉しい。」
そう言って、袋から取り出したのは私達が被っている制帽のミニチュア。
二人でそれぞれの頭にのせれば、彼らの顔には満面の笑みが溢れました。
「「ありがとう!!」」
幸せそうに笑う少年逹の後ろで、ご両親もドクターも涙ぐまれております。
二人の心に大切な思い出を残す事が出来て、私達も感無量でございます!
その後途中駅で下車して、少年達はこれ以上身体に負担をかけない様にと
ドクターの用意したポケモンを使い病院へと戻られる予定なのです。
明るく手を振る少年逹と、何度もお礼をいう両親とその他の方々に向かい
敬礼をして見送った後に、私達も車両に戻りました。
後日二人が難しい手術を受け、無事に成功したというお話を
二人が描いた私達の似顔絵を持って来た様と様から聞きました。
経過が落ち着いたら、お見舞いに行きましょうとクダリと話しながら
額に入れた素敵なお返しの前に向かい、二人で敬礼をいたしました。