ましろの月
暗闇の空に煌々と輝く月の光
森の中にポッカリと開いたその場所は彼女のお気に入りでした。
虫の声も風の音も、いつもよりも輝きを増している月明かりに
一層かすみがちに瞬いている星々と、咲き乱れる秋咲きの花々
何もかもがあの時と変わらずこの場所にはあるというのに
目を閉じれば貴女の声も姿も、そこにいるかの様に思い出せるというのに
何故、貴女だけがここにいないのでしょうか?
空を見上げれば雲ひとつなく、月は輝き続けて私を照らしています。
そちらでも月の光は同じなのでしょうか?
貴女も同じ様に空を見上げているのでしょうか?
今も私を想ってくれているのでしょうか?
あの日、オブシディアンの様な瞳から流れ落ちる涙を
拭おうともせずにワタクシ達へ手を伸ばした貴女が忘れられません。
ワタクシの手を握り締めた時に見せた泣き笑いの顔が忘れられません。
『愛してます、今も昔も─── 』
途中で掻き消えた言葉の続きは
『これからも 』
で、間違いございませんでしょう?
私も同じ言葉を叫んでました。貴女には聞こえておりましたか?
その気持ちは今も変わらず…いえ、一層強く深く貴女を想っております。
「「父さん!!」」
「…お前達、リーフィアへの進化は終わらせたのですか?」
近くの茂みが揺れ、闇色の人影が二つ私の前に飛び出し
思考の海に揺蕩っていたワタクシを現実に引き戻します。
貴女の髪と瞳の色、ワタクシの容姿を受け継いだ、ワタクシ達の宝物。
急に開けた野原に二人は周囲を物珍しげに見回しておりますが
その表情は貴女にとてもよく似ております。
「勿論、その為に今日まで大切にこの子を育ててきたんです。
私もも無事にリーフィアに進化させました。」
「のエンカウント率が悪くって時間がかかっただけだよね!
うわぁ、この森にこんな素敵な場所があるなんて僕知らなかったよ!」
「……ここは母さんのお気に入りの場所でございます。
今夜は母さんのいた世界では月を愛でる日で、私達は何度かここに来て
寝そべりながら月を眺めておりました。」
「へぇ、そんな習慣があるなんて始めて聞いた。」
「月を愛でる…その意味は理解できませんが、確かに今夜の月は綺麗ですね。」
ユノーヴァにはその様な風習がございませんから二人が知らなくて当然。
今思えば貴女は沢山の事を教えてくださっておりましたね。
そして、私の中に常に新しい風を貴女は送ってくださっていたのですね。
「うわー、こうやって見ると一段と月が綺麗だよ!」
「、直に寝そべっては夜露で濡れてしまうでしょう?
風邪をひいたら看病するのは私なんですからやめてください。」
「父さんももやってみてよ!ホントに凄く綺麗なんだから。」
「行儀が悪いと注意すべきでございましょうが、母さんもやっていた事。
あぁ…久しぶりにこうして月を見ましたが、あの時と変わりませんね。」
ワタクシが寝そべった隣でが溜息をつきながら
同じ様に寝そべり、確かにこの方が月が近くに見えて綺麗だと言いました。
二人の会話が、あの時のワタクシ達と同じで血は争えませんね。
目を閉じれば昔と同じ、風が木々を揺らす音と虫の声が聞こえます。
その隣には愛おしい存在達の他愛の無いいつもの会話
ゆっくりと目を開ければ丁度真上に月が見え、風が花の香りを運んできます
あぁ…貴女にこの子達を見せて差し上げたい!
兄のは私の、弟のはどちらかといえば貴女の
それぞれの性格を引き継いだ様でございます。
現在はトレーナーを目指して研鑽の毎日を送っており
いずれはギアステに就き、サブウェイボスを目指すそうでございますよ?
「さぁ、夜も更けて来たので帰るといたしましょう。
二人共、早く寝ないと明日スクールに遅刻してしまいますよ?」
「私は父さんと違って早起きできますので、問題ありません。」
「うんうん、父さんこそ明日早いって言ってたんだから気をつけてね
僕、エメットおじさんからしっかり面倒見ろって怒られるのは嫌だからね!」
「……お前達のその一言多いのは本当に母さんそっくりでございますね。
よろしい、明日は父さんが朝食を用意いたしましょう。」
「父さんの料理は殺人兵器なんですから、やめてください!!」
「ぎゃー!ごめんなさいごめんなさい、それだけは勘弁してーっ!!」
「男なら一度口に出した事は最後までやり通すものでございます。
ですが、…二人が父さんよりも早く帰れば取り消しても構いませんよ?」
二人に手を差し伸べ立ち上がらせながら言えば、一目散に走り出します。
こういう素直な所は二人共貴女に似ているのでやりやすいですね。
月明かりに伸びた二人の長い影を見ながら、名残惜しいですが
明日も仕事がございますので、私もこの場を離れるといたしましょう。
あの時から二人で並んで歩んでいたレールが途切れてしまいました。
当然でございましょう、独りで進めるものではございませんから。
それでも心配は不要、私は自分自身の歩みを止めたりはしておりません。
私達の宝物である彼等と共に、新たなレールの上を走り続けております。
私の心の中にいる貴女と共に、今も、そしてこれからも────