手抜きな家事をこなして、ダーリンを仕事へ、チビを学校へ送ってから
自分の夢小説サイトの更新をするのにパソコンに向かった私だけど
ついつい、いつもの調子で脱線しちゃったし。
「うわーい、ノボリさんってば今日も性的!やっぱり萌え補給は
ここに限るってもんだ!ぐへへへ…」
「ふふっ、そんなに褒めていただけると照れてしまいますね。」
お話を書き込む手を止めて萌え補給という現実逃避をしていた私の隣には
画面の中で動いている張本人がのんびりとコーヒーを飲みながら座っていた。
「へ?あー…はぁあああああ?!」
「ちょ、耳元で叫ばないでくださいまし!」
私の叫びに自分の耳を塞いで眉を寄せる仕草すら性的とか…
いやいや、ちょっと待てー!これは夢?うん寝たのが昨日ってか
今朝の4時だからきっと夢に決まってる。
自分のほっぺたを抓るのは痛そうだから、目の前にいるノボリさん?に向かって
手を伸ばして、そのすべすべな頬をぐにーっとつまんだ。
あら、感覚がはっきりしてる夢なんて珍しいわよねー。
「痛いのでおやめくださいまし!これは夢ではございません。
仮に夢でも、それを確かめるなら自分の頬を抓らねば意味がないでしょうに!」
少し赤くなってしまった頬を白手袋をつけた綺麗な手で押さえる姿も
マジ性的とか…いやいやそれは有り得ない…でも目の前には確かに存在してる。
「えぇえええええ!!ちょ、ほ、本物ぉ?!」
「…ですから耳元で叫ぶなと先程からわたくし、言っておりますでしょう!
えぇ、正真正銘本物の、サブウェイマスターのノボリでございます。」
座ったまま胸に手を当ててお辞儀をするその礼儀正しさは紛れもなく本物?!
って、いやそれって無いから。絶対に有り得る事じゃないから!
落ち着け、これは多分すっごくリアルな夢なんだ。そうに決まってる!
「いや、有り得ませんて。えっとノボリさん?貴方はゲームの世界の住人
ここはイッシュとかそんな場所じゃなくて普通の日本の北海道のとある場所。
三次元に降臨とか夢小説でよくある設定だけど、信じるとか無理だって。」
「おや、夢小説サイトを運営している貴女様ともあろう方が、その様な事を?」
うわー、サイトの中心人物にそんな事言われるとかなり恥ずかしい。
そもそも夢小説サイトとかって言葉が、その口からでるのもどうかと思う。
私の心の中のツッコミを感じたのか、目の前のノボリさん?は
への字口はそのままに目元だけで笑うという器用な事して見せた。
「ふふっ、私は貴女様を存じてございますよ?
ご主人とお子様がおいでにも関わらず、わたくしとクダリ…いえこのノボリを
とても慕って下さってらっしゃるのでございますよね?。
そして、慣れないパソコンを頑張って操作されてサイト開設までされた…
その事がわたくしにはとても嬉しかったのでございます。」
「うわーい、本人からそんな事言われるとか恥ずかしすぎでしょー!
これなんてプレイ?いやいや、その前にこの状況ってどういう事?!」
半分以上パニック状態になった私を前にしても、その表情が変わらないとか
駄目だ、完全に私の理想のノボリさんだ。これは堕ちる、一撃で堕ちる!
「最初は貴女様も、他の方同様にその場限りの愛情でわたくしを翻弄するのだと
そう思っておりました…ですが、それは違っておりましたね?
貴女様は、どの様なわたくしでも変わらずに愛を囁いてくださいました。」
「いやいや、それは皆がそうだと…ノボリさんはノボリさんだから好き。
それ以外に理由なんて必要ないしー、当たり前だと思うけどなー。」
「ヤンデレでも、ヘタレでも、鬼畜でもど変態でも?受けでも攻めでも?」
「どれでもオッケー!むしろご馳走以外の何物でもありません!キリッ!!
って、何を言わせるんですかぁあああ!んで、何を言うんですかぁあああ!
うわーい、そんな事をその顔で言っちゃダメですってば!萌える!ハゲる!!」
駄目だ、私の理性が吹っ飛ぶ。いや理性なんて元からないけど。
ノボリさんの間で両手をブンブンと振り回せばその手を取られたし…
なにこの美味しい状況、私にこれからどーしろって言うの?!
「わたくしも、貴女様が燃えようとハゲようと構いません。
むしろもっと萌えて悶えてわたくしに溺れてくださいまし?
丁度おあつらえ向きに後ろにはたたまれているとは言え、布団もございます。
これは、わたくしと様で出発進行するべきではございませんか?」
…確かに、パソコンのある部屋は寝室と兼用ってかメインはそっちだし。
我が家はベッドは夫婦揃って腰痛持ちで合わないからって和式のお布団だし。
収納する場所がないからたたんではあるけど、すぐにスタンバイオッケーで
敷くことも出来るんだけど、それはどういう事ってかナニする気なのー!?
ノボリさんは私の手を引いて身体を引き寄せて腕の中に引き込んだ。
うわーい、夢にまで見たシチュエーション!って落ち着け自分!!
「貴女様の思いは常々わたくしに届いておりました。
初めの頃は別に何も感じておりませんでしたわたくしでございますが
あまりの熱く激しいそのの愛情に、いつしか絆されたのでございます。」
「いやいや、有り得ないって言ってるだろうが!
この世界にどれだけサブマスファンがいると思ってんの?
その人達の前にこうやってノボリさんが登場する?ねーよ、ねーわ!」
あんまりにも突拍子もない事で、パニクってた頭が逆に冷静になった。
それどころか、そんなご都合主義に腹さえ立ってきたし。
「それが夢小説の醍醐味でございましょう?
自分でその様なサイトを運営なさっておいででございますのに
何を今更戸惑ってらっしゃるのです!
わたくしが様の傍にいる。それでよろしいではございませんか!」
「ちょ、逆ギレやめて!って、先にブチ切れたのは私かよ!
そもそもノボリさんはこっちに来ちゃった…逆トリ?でしょうが。
一刻も早く帰らないとバトルサブウェイ終了のお知らせになりますよ?」
…さっきから、ノボリさんにがっちりとホールドされて腕の中とか
ネタ的には美味しいけど、現実だと小っ恥ずかしくて駄目だわー。
私の言葉に一瞬身体を強ばらせた後、骨が軋むくらい強く抱きしめられた。
「いだだだだ、痛いですってば!」
「あぁ、これは大変失礼をいたしました!
ねぇ、さま…わたくしは、貴女様がお望みになるのでしたら
夢小説の主人公の様に、私の世界へお連れする事も可能でございますよ?
いえ、わたくしがそれを希望しているのでございます。
どうかこの手を取ってくださいまし。そしてわたくしと生きてくださいまし。」
私の身体を開放したノボリさんはそう言って私の目の前に
白手袋をわざわざ外して、その手を差し出した。
何言ってるの?向こうの世界?ともに生きる?それはお話の中の事でしょうに。
「あちらの世界で、わたくしは様を全力でお守りします。愛します。
ですから、どうかこのままわたくしとご一緒してくださいまし。」
この手を取れば、大好きなノボリさんとずっと一緒にいれる?
そして大好きなバチュルたんやシャンデラちゃんやポケモン達にも会える?
それはとても魅力的で抗い難い誘いだけど、私は首を横に振った。
「様、なぜでございますか?わたくしを好きだという言葉は
あれは全て嘘なのでございますか?!」
あー、そんな悲しそうな顔しないで欲しい。
いや、むしろ私的にはその顔でご飯3杯は軽くいただける!って冗談はやめて
私はノボリさんにニッコリ笑ってみせた。
「もしこれが、こっちの世界に私のチビが生まれてなくて
結婚もしてなくて…ううん、ダーリンと知り合ってなければ…だね。
私は迷わずノボリさんのその手をとったと思うよ?
私だけだったら別にそれで良いけどさー、今はそうはいかないんだよね。」
「様…?」
意味がわからない、そんな顔をしてるけどこれは事実。
私にはダーリンとチビがいる。二人を置いてなんて行けるわけがない。
「私の心の中ではノボリさんが好きって気持ちは変わらないよ?
だけど、現実的な事を言えば私は既に既婚者で子供もいるんだから。
そんな不貞は出来ないわー、うわーい貞淑な妻の鏡ってか?」
ようやく、私が言いたい事がノボリさん伝わったみたい。
一瞬眉を寄せて凄く苦しそうな顔をしてから、ノボリさんは凄く綺麗な顔で
溜息をつきながら私に微笑んだ。
「そういう事でございますか…
あぁ、もっと…もっと早くに様と出会いとうございました!
そうすれば、わたくしはこの思いを成就させる事が出来ましたのに…
ですが身持ちの固い貴女様もわたくしは好ましく思います。
それが、私にであれば、何程良かった事か…!!」
「すっごく勿体無い事してる感は私にもあるよ、ノボリさん。
でもね今の私は、独身の頃の恋に恋する夢見る少女じゃないんだよね。
支え合う人がいて、守るべき命があるんだ。
ホントにさ、これが夢だったら私そのままお布団敷いて出発進行してたよ!」
冗談ぽく、だけどさりげなく本気を込めて笑って言えば
目の前のノボリさん一緒に笑ってくれた。
その姿がなんだか揺らいで見えてるのは気のせい…じゃないよね?!
「それはとても残念でございますね。
では、いつか再びお会いするのが…そうですね…夢の中でしたならば
その時こそ、貴女様はわたくしの想いを受け止めてくださいますか?」
「もっちろん!全身で受け止めさせてもらいますとも!!
つーか、むしろ私が全速前進でノボリさん目指します!暴走します!!」
「ふふっ、では今度は夢の中でお会いしましょう。
夢の中の様はわたくしのものになってくれるのですよね?
とても残念でございますが、わたくしもそれで満足するといたしましょう。
あぁ…もうお別れしなくてはならない様でございます。
様、お名残惜しゅうございますが…さようなら。夢で会いましょう…ね?」
揺らめきがどんどん強くなり、姿がほとんど確認できなくなる状況は
とってもシュールだったんだけど、私は目を逸らさなかった。
だって、どんなノボリさんでも大好きってのは嘘じゃないからねー。
「うん、夢でもし会えたら…その私はノボリさんだけの私だよ。」
私の言葉はノボリさん聞こえたのだろう。
への字口が僅かに上がって一本線状態になって笑って頷いていた。
私も、その笑顔にとびきりの笑顔を姿が完全に消えるまでし続けた。
その後、部屋の中はいつも見慣れている風景に戻っていた。
ただし、今までそこにいた場所にほんのわずかな温もりを残して…。
「あー、すっごく勿体無い事しちゃったよ自分!」
キーボードの上に突っ伏しながら、今更後悔しても仕方ないんだけどさー。
流石に夢小説の様に、何もかもを捨てて行くってのは無理!
これが大人になるって事なのねーとかイミフな事を考えながらも
気を取り直して、私はキーボードを叩き始める。
それは今起こった事が、夢じゃないって証拠を残したかったってのもあるけど
ネタ的にウマーだと思ったからなんて…言っちゃうよ!
あーあ、こういう所が現実的な主婦の考え方なんだろうなぁ。
でも、サイト運営は続けるよ?好きって気持ちは変わらないんだからねー。