それはひょんな切欠。
何時ものようにクダリさんが後ろから抱き着いてきている中、ノボリさんが呟いた事で始まった
「様はクダリのように誰かが抱き着いて来た時、どのように身を護っているんです?」
と。
確かにクダリさんだから何もせず対抗はしないのだけど。
しかしノボリさんが気になっているのなら見せるしかない
背中から伝わるクダリさんの緊張感に
私は笑みを深めてクダリさんの右手首を左手でがっちりと掴んだ
「…まさか実践…」
口をひくつかせて呟いた言葉に私は
「ええ。」
と頷き、一瞬で自分の左手を右手で掴みグルリと時計回りに回転して
クダリさんの背後に回り右手の関節技を決める間際に手を離した
流石に決めると痛いし、クダリさんに悪い
「こんな感じです」
「ブラボー!」
「ブラボー!ってノボリ、僕を少しは気遣ってよ!」
直ぐ様ノボリさんに抗議したクダリさんに私は苦笑する
私が関節技を最後まで決めれば地面に這いつくばって右手を固定され、
身動きが出来ない状態まで行ったけれど
ノボリさんにはアレだけで十分だったようで眼をキラキラさせて
「他には、他には無いんですか?」
とノリノリになってる
「勿論無くもないですけど…何でしたら教えましょうか?」
「是非、是非!教えてくださいまし!!」
ガシッと手を握ってきたノボリさんにクダリさんはガクッと肩を落とした
「練習相手、僕じゃないよね…?」
「…さぁ?でも習得には最低千回練習しないと実践には活かされないし…
あ、でも私も練習相手になるからクダリさんだけじゃないからそんなに落ち込まないで」
今にも茸を育成出来そうな程に暗い空気を纏わせたクダリさんを勇気づける
でも実際、気心の置ける仲で練習する方がお互いにベストだから
必然とクダリさんが大半ノボリさんの練習相手になりそうだけど
一先ず気を持ち直したクダリさんに一安心して、初心者でも可能な護身術の方法を思い浮かべる
様々な襲われるパターンで対処方は変わるのだけど
「ノボリさん、どんな襲われ方の対処方が良いですか?」
小首を傾げて聞けば、真顔で口を開き
「…それは……」
――――――――――――――――――――
タタン……タタン……タタン……
地下鉄を走る電車。
バトルで敗北したトレーナーの中にはBP欲しさに馬鹿な事を仕出かす輩も居ます
そう、目の前に居る男のように
「ポケモンバトルでは敗けた、けどよー俺自身は敗けてねーぜ?」
チャキリと音を出して取り出してきたのは刃渡り10センチを超えるナイフ
脅せば解決出来る筈の無い事…
しかし移動中で鉄の檻の電車は逃避不可能の閉鎖された空間。
背後には運転中のキャメロンが居ますから何としても守らなくてはいけません。
平然を装い、相手を図に乗らせない事が大事
冷めた眼を向けて威圧する
「お客様、それはルール違反で御座います」
「うっせー!!御前は黙ってBP渡せばそれで良いんだよ…」
冷たい刀身を首筋に宛がい男は笑う
仕方ありませんね。
視線を動かさず状況のみを確認する
距離、立ち位置共に充分。電車の出入口付近ですから…
咄嗟に右真横へ倒れ、男の両膝を挟み込み左へ回転する
足を取られた男はグアッと間抜けな声を上げて倒れ、
カシャカシャ音を立てて回転しながら刃物は電車の最先端部分である壁に止まった
しかし、まだ終わっていません
倒れた男の背中へ馬乗りになり、右腕を背中へ回し固定する
此で完全に動きを封じれました
「俺は、一般客だぞっ!!」
自由な左手と両足を暴れさせて見苦しい対抗をしてきましたが無駄な努力というもの。
「ええ、存じ上げております。
しかし目撃者もいらっしゃいますからジュンサーさんに身柄を受け渡します
宜しいですね?キャメロン」
「ボス、バッチリダヨ」
運転席で自動運転に切り替えたキャメロンがナイフを拾い上げ、ライブキャスターで連絡をとっている
最早、手出しをした所で
「無駄な足掻きですよ」
ライモンシティに到着するとジュンサーさんが男の身柄を拘束して連行して行く
それを横目に一息吐けば背中から大きな衝撃が走り、
前のめりになった手前で片足を前に出して耐えました
「良かった。ノボリ生きてる」
ギュッと抱きしめる力を込めたクダリに私は呆れつつその手に触れました
「サービス業として暴力沙汰は無きにしもあらずですからね」
様に一通りの護身術を学んだだけはありました
今までは手持ちのポケモンで対処していましたが
ポケモンも加害者も傷もつれになる事もありましたから
「クダリはサボらず練習されてますか?」
「や、やってるよ?」
「…本当ですか?様に確認して貰いますよ?」
動揺が背中越しに伝わってきました
ああ、やはり練習を怠ってますか
「…私が練習相手になりますから、しっかり練習して下さいまし」
様が居れば、今頃呆れた溜め息を吐いて仕方無い。
と肩を落としながら満更でも無さそうにクダリの相手をする姿が目に浮かびます
様は元気にしているでしょうか?
しっかり休んでいるでしょうか?
しっかり食事を摂られているでしょうか?
考えれば考える程、心配になってきました…特に生活面が。
「ちゃん、元気かな…」
「元気で居てくださると嬉しいのですが…ね」
予感が的中しなければ良いのですが――
寒空の中。森の深くで小さなクシャミが響いた
[習得して損は無い]