二章・初志貫徹編番外 -小鳥は誓う-

二章・初志貫徹編 番外

小鳥は誓う



その時、ボクはいつもと違ってボールの中に入ってた。

大きな銀色の箱の前に、昔のボクみたいにボロボロになった子が

ニンゲンにボールごと投げつけられたのを、中で見ていたんだ。



『危ないっ!』



お母さんが叫んだと思ったら、倒れてるその子を抱っこした。

目の前にはどんどん近づいてくる銀色の箱。

その中に、白兄ちゃんと黒兄ちゃん、それと見た事があるニンゲンがいて

お母さんを見てなんだか叫んでいた。


お母さんはボロボロのその子を抱っこしたまんま

暗い壁に向かって飛び込んだんだ。途中でよろめいて、だけど

抱っこした子を落とさない様にってギュッと抱きしめたまま倒れ込んだ。

その時、ガツンって凄い音が聞こえたのをボクは覚えてる。

凄い音が銀色の箱から聞こえて、お母さんの身体の傍を通り過ぎてった。

ボクは怖くなってギュって目を閉じてたんだけど

ボールに入ってた仲間達が、お母さんを大きな声で呼んでるのが聞こえて

そっと目をあけてみた。


お母さんはグッタリしたその子を抱っこして倒れたまんまだった。

仲間達が一生懸命お母さんを呼んでも、返事もなくて、動いてもくれなくて

ボール越しに見た地面には、あの赤い命の水が流れてた。


嘘、ねぇ…これはお母さんの命の水なの?

ボクの頭の中に、お母さんと初めて会った時の景色が浮かび上がる。

お母さんは、ボクのせいでこの水を沢山流して死にそうになった。

今度はこの子のせいで、死にそうになってるの?



『お母さん、お母さん!』



何度ボクが呼んでも、お母さんは動かない。

嫌だ、お母さんが死んじゃう。

お母さんが死んじゃったら、ボクはまたひとりぼっちになっちゃう。



『嫌だ、嫌だよぅ!お母さん!!』



涙が止まらない、お母さんを呼んで叫ぶ声を止めらんない。

お願い、起きて!ネイティっていっつもみたいにボクを呼んで、笑って!



『お母さん!お母さぁああんっ!!」



いっつもみたいに大好きだよって、ボクを抱っこして、目を開けて!!


怖い、怖い怖い怖い怖い…怖い!!

お母さんがいなくなっちゃう、ママとは違うけど、ボクを置いていくの?

死んじゃダメって言ったお母さんが死んじゃうの?

大好きだよって、たくさん幸せになろうねって言ってくれたのに

ボクはたくさん幸せになったけど、お母さんがいなくなっちゃったら

また悲しくなる、心も身体も寒くなって、痛くなる、幸せじゃなくなる。


急に身体がガタガタと震えだした。

寒いわけじゃないのに、自分で自分の身体を抱きしめてみたけど止まんない。

涙も全然止まんない。お母さんが死んじゃったらボクはこのままになっちゃう。


絶対守るから、そばにいて欲しいってお母さんは言ったけど

それはボクだって同じなんだよ?でも、ボクはお母さんを守れなかった。

だから?だからお母さんは死んじゃうの?死んじゃったの?


ボクの傍をゆっくりと銀色の箱がまた動き出した。

近くで白兄ちゃん、黒兄ちゃんの声がする。お母さんを探す声がする。



!どこでございますか?!』



いつも静かに笑ってる黒兄ちゃんの、ビックリするくらい大きな声が聞こえる。

ここだよ、お母さんはここにいるよ!早く見つけて、早くお母さんを助けて!!

お母さんを呼ぶ声と、近づいてくる足音が聞こえた。

黒兄ちゃんがお母さんを抱っこしようとしたけど、止められた。

動かすなってどういう事?お母さんは死んでないの?


黒兄ちゃんがお母さんが抱っこしたままの子を連れてどこかへ行った。

白兄ちゃんがその後でなんだか色々言ってたけど、ボクにはわかんない。

お母さんの仲間はボク達の入ってる入れ物をお母さんから外した。

その後で、ボクの嫌いな白い服を着た人間の雄がやってきて

お母さんと仲間の雄の一人が一緒にどこかへ連れて行っちゃった。



『待って!ボクも一緒に連れてって!!』



だけど、ボクの声は人間には聞こえなかった。

ムウマのむーたんはずっと泣いてる。ボクも涙が止まんない。

他の仲間は何も言わなくなって静かになっちゃった。


怖い…

ボクの大好きな人はまたいなくなっちゃうの?

ママみたいにお母さんはボクを捨てないのはわかってる。

でも、お母さんが死んじゃったら?いなくなっちゃったら?


嫌だ…

仲間がいたって、お母さんがいなくちゃ嫌だ。

大好きなお母さんがいるから、ボクは幸せなのに。

お母さんがいなくなったら、ボクはもう絶対に幸せになれない。



『お母さん…お母さん…!』



ボクは泣くだけしか出来ない。

お母さんのお手伝いをして、お母さんを助けてるって思ってたけど

全然助けてなんてなかった。ボクはお母さんを守ってあげれなかった……!!!










『ネイティ』



ボクを呼ぶ白兄ちゃんの声が聞こえた。

どの位泣いてたんだろ?時間なんてわかんない。

急にボールが開いてボクはお外に出た。お母さんのお家にボク達は戻ってた。



「あぁ、やはりあなたも泣きっぱなしでございましたか。

ネイティ、もう泣かないでくださいまし。は無事でございますよ?」



黒兄ちゃんのシャンデラがむーたんを抱っこして、ヒトモシが頭を撫でてた。

いつも、お母さんのそばにいる仲間達がいるけどお母さんはいない。

黒兄ちゃんは無事って言ってたけど、じゃあどうしてお母さんはいないの?



『お母さん、お母さん!』



お家のどこを探してもお母さんはいない。ボクはまた涙が止まんなくなった。

お母さんがいつも座ってる場所にうずくまって泣いてたら

白兄ちゃんがボクを抱っこして、撫でてくれた。



「ネイティ泣かないで?あのね、はちょっと怪我しちゃったから

元気になるまで病院にいなくちゃいけない。

ネイティも心配だよね?ボクもがすっごく心配。

だからネイティ、ボクの家に来て二人での帰りを待とう?」



白兄ちゃんの目が赤くなってる。ニンゲンは泣くと目が赤くなるのを

ボクは知ってる。白兄ちゃんも泣いてたの?

寂しい、悲しいって気持ちは一人でいると大きくなるってお母さんが言ってた。

白兄ちゃんはボクがいれば、寂しい気持ちが大きくならない?

それだったら、ボクは白兄ちゃんのお家に行く。

羽を広げて白兄ちゃんにギュってしたら、ありがとうって言われた。


それから、どの位過ぎたのかわかんない。

白兄ちゃんがご飯をくれるんだけど、食べたいって思えない。

お水だけ飲んでたら、白兄ちゃんはお母さんが作ったご飯を持ってきてくれた。

いっつもお母さんがボクにくれるご飯、一口食べれば優しい味がする。



「良かった、食べてる!ネイティご飯食べなくて心配だった!」



「ネイティが食事をしないと言ったら、以前もそうだったからと

が持ってきてくれたのでございます。これで一安心ですね?」



白兄ちゃんと黒兄ちゃんがボクの頭を撫でてくれた。

二人に撫でられるのは大好きだけど、今はお母さんに早く会いたいな。

目を閉じれば、お母さんの笑い顔が見える。

お母さん、ボクは良い子にしてるよ?ホントは泣きたいけど我慢してる。

白兄ちゃんはお仕事の時以外はずっとボクの傍にいてくれる。

ボクをボールから出して、ボクの好きなようにさせてくれてる。


今日も同じ様に白兄ちゃんの頭の上に乗ってたら、お母さんが帰ってきた。

まだ頭の怪我が治ってないって言ってたから、ボクは腕の中に飛び込んだ。



『お母さん、お母さん!!』



擦り寄れば、お母さんの匂いがする。あったかくて、優しい匂い。

黒兄ちゃんがボクを撫でてから、お母さんに何か言ったら

お母さんはボクをギュってしてから泣いちゃった。


ゴメンネって何?ボクはお母さんがいてくれるだけで幸せだよ?

辛い思いって何?お母さんがいなくなるのは辛い。

だから、ボクは白兄ちゃんのお家にいる時ずっと考えてた。

今度、お母さんが危ない事をする時はボクがお母さんを守る。

お母さんがボクにしてくれた様に、ボクがするんだ。



『ゴメンナサイ、ゴメンナサイ…』



急に頭の中に誰かの声が聞こえてきた。誰?

声はお母さんがいっつもボク達のボールを入れてる場所から聞こえた。


初めて聞く声、だけどすっごく悲しいって気持ちと寂しいって気持ちが

いっぱいの小さな声、それはきっとお母さんが助けた子の声。

ボクの様子に気がついたお母さんがボールを開けたら

やっぱりあの時ボロボロだった子だった。

お母さんは新しい家族って言った。ボクがお兄ちゃんになったって言った。



『オ兄チャン?』



その子はボクと同じ様にお母さんに抱っこされて、ボクに聞いてきた。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ?ボクはキミのお兄ちゃん!

お母さんを傷つけたって聞こえてきて、ちょっと怒りそうになったけど

ボクもおんなじ事した、お母さんを傷つけた。

その時仲間は怒ってたけど、ボクを許してくれた。今度はボクが許す番。


お母さんはお仕事があるからって、ボクとその子を置いて部屋を出ていった。

そしたら、その子…リグレーはすっごく泣きそうな顔をしちゃった。



『リグレー、泣いちゃダメ。大丈夫、お母さんはリグレーを置いていかない。』



『デモ、ボクハ イラナイポケモンダッテ…ズット 言ワレテタ。』



『お母さんはそんな事言わない。でも寂しい?大丈夫、ボクがいる。

ボクはリグレーのお兄ちゃん!これからずっと一緒!』



『オ兄チャン…ボクト一緒。ボク、モウ寂シクナイ!』



ボクはリグレーをギュってした。ボクはお母さんにギュってしてもらうと

すっごく安心する。心がポカポカ暖かくなって、幸せな気持ちになる。



『暖カイ、オ兄チャン。暖カイ好キ。オ兄チャン好キ。』



リグレーもボクをギュってしてくれた。リグレーも暖かい。

ボクも暖かいのが好き、リグレーが好き!


お母さんがお家に帰るって言ったから、お母さんの傍にいこうとしたけど

その前に白兄ちゃんの所に行く。

お母さんが帰ってきて、ボクは寂しくなくなった。白兄ちゃんも寂しくない?

リグレーに、友達になろうって言って笑ってるから大丈夫?

ボクも友達だよってリグレーに教えたら、リグレーはボクも友達って言って

白兄ちゃんの腕の中に飛び込んだ。

黒兄ちゃんも友達になろうって言って、リグレーを撫でてる。

撫でる手が気持ちよかったのかな?黒兄ちゃんにも甘えてる。


ボク達に新しい家族が出来た。

リグレーって言う子、昔のボクみたいにいっぱい悲しい思いをした子。


お母さんの腕の中でリグレーと一緒にギュってした。

ボクはお母さんからいっぱい色んな気持ちをもらった。

今度はボクも一緒にリグレーに色んな気持ちをあげたい。


ボクはお兄ちゃんになった。

お兄ちゃんは色んな事を教えてあげるんだって、ボクは知ってる。

お兄ちゃんは強くなくちゃいけないって、ボクは知ってる。

ボクは強くなって、リグレーだけじゃない。お母さんも友達も守る。


楽しい事、綺麗な事、嬉しい事、全部全部を教えてあげるんだ。

嫌な事、辛い事、危ない事、全部全部からボクが守るんだ。