二章・東奔西走編 番外
勝てる気がしない!
スーパーマルチ用に手持ちメンバーと技の入れ替えをして、
ギアステーションに意気揚々と乗り込んだオレとトウコに
常連のチャレンジャーさんたちの声が聞こえた。
「マジであの作業員強すぎ!スーパーなら納得するけどよ
ノーマルのシングルでも勝てる気がしないんだぜ?
手持ちを色々変えてるみたいだけど、全部6Vって噂は本当だな。」
「ポケモンもそうだけど、トレーナーも凄いよな。
パワー重視かと思えば、意外な所で罠が張ってあるみたいな?
オレ、あの人が出てきたらサブウェイマスターには会えないって
さっさと諦めて、バトルを楽しむ事に専念してるよ。」
新しいバトルトレーナーさんが入ったのかな?
でも、この人達って余裕で最終車両に行ってた人達だったはず。
「シングルは作業員なんだ。ダブルではドクターだよ。
向こうのHPが殆ど減らせられないで、こっちがアウトになる。
スーパーでもノーマルでもだからね。」
「戦略、ポケモンの能力、技の構成、どれをとっても凄いよな!
状態異常の技や、大技の使い方なんて惚れ惚れする。
それに、全部のポケモンが凄く毛艶とか良いし。
ブリーダーとしても凄いんじゃねぇの?」
シングルとダブルでトレーナーさん達が違うみたいだけど
どっちもベタ褒めとかすげーな。
「トウヤあんな話聞いたら、うちらもバトルしてみたくならない?」
「なるよなー、でも乗り込んで必ず会えるモンなのか?
オレ、シングルの作業員さん?とバトルしてみたいな。」
「私はダブルだね!そっか、もし会えなかったら時間の無駄だしね。
まぁ、BPはしっかりゲットするけどね!」
二人でマルチの意気込みより、そっちの方が気になってきた時に
いい情報を聞くことが出来た。
「その二人、確かマルチには乗ってないんじゃないかな?
それだけ強いなら、マルチだって乗りそうだと思うんだけどね。
っていうかさ、サブウェイマスターがマルチ中に多くないか?
アレだろ?チャレンジャーを待たせない様にって感じでさ。
ぼくはどっちにも会ったけど、大抵後ろの車両にいるよね。」
そっか、確かにノボリさん達がマルチに取られたら
その間のシングルもダブルも、今までは大抵は待たされてたよな。
その時間が退屈だから、オレもトウコもマルチに乗ってるんだし…
まぁ、最大の理由はマルチだけが勝てないからなんだけどな!
スーパーマルチに乗り込もうと思ったら、先客が受付をしていた。
この二人、強いから待ち時間が結構あるな…
次の受付をして、時間つぶしをどうするかホームで考える。
「さんが通りかからないかなー、そうしたら話し相手になってもらって
ついでに、デートでも申し込むんだけどな。」
「さん達はお仕事の時って、滅多にこの辺通らないよねー。
そだ!トウヤ、チャンスだよ!!
さっきの二人だったら、余裕でノボリさん達の所まで行くはずでしょ?
今だったら、例の強いトレーナさん達に会えるんじゃない?」
「そっか!うし、オレはこれからスーパーシングルの受付行ってくる!
トウコはスーパーダブルだろ?どんな人だったか後で教えろよ。」
「トウヤこそ、バトルレコードにしっかり記録しておいてよ!
よーし、燃えてきた!いっちょ派手に暴れてくるわ!」
二人でハイタッチをして、それぞれの受付へ向かう。
俺の前に、スーパーシングルの受付をしてる人は…ラッキー!いないみたいだ。
待ち時間無しで、早速スーパーシングルの車両に乗り込む。
よーし、やたら強い作業員さんらしいけどオレが勝ってみせるぞ!
連勝記録を順調に伸ばして、後1戦すればノボリさんの所だ。
例のバトルトレインの作業員さんがいるとすれば、ここしかないはず。
どんな人かなんてもう関係ない、オレは勝ってノボリさんの所に行くんだ。
車両へ続くドアが開くと、そこには深々とお辞儀をした作業員姿が見えた。
「仕事合間に やってるわりには 俺って 頑張ってるだろ?
お客様とのバトルも 仕事も、 完璧に仕上げてみせましょう。」
なんだか聞き覚えのあるよく通るバリトンの声の作業員が顔をあげる。
それはオレの知ってる人の顔だけど、いつもと違って不敵な笑みを浮かべてた。
「トウヤ君だったらきっとここまで来ると思ってたよ、よろしくな。」
「いや、大丈夫もよろしくも待ってくださいよ!
さんからすげー強いって聞いてたけど、何やってるんですかさん!」
そっか、確かにさんは作業員だよな。
でも、仕事が結構忙しいって聞いてたけど大丈夫なのかな?
「チャレンジャーさん達を丁重におもてなし…接待するのは
ギアステ職員としては当然だろう?今はバトルトレーナー不足だからな
こうやってボランティアとして乗務してるんだ。」
あー、例の大掃除のせいで人が少なくなったって話は聞いた。
そっか、そう言う事だったらさんが乗っててもおかしくないもんな。
ライブキャスターを見ながら、さんはいつもの笑顔を見せる。
「トウヤ君はスーパーマルチの受付をしているだろ?
そっちの方がそろそろ最終駅に到着しそうだって報告がきているから
さっさと済ませてしまわないと乗り遅れてしまうぞ。」
「…それって、ここでオレがさんに負けるって前提で話してますよね?
そっちは後回しでも構いません。勝ってノボリさんの所に行きますから!」
ホルダーからボールを取り出し、さんに向かって宣言する。
オレが負ける前提で話をすすめてるのがわかって、すげーカチンときた。
「残念だが、ここはスーパーだから手加減は無しだ。
どれ、イッシュの英雄の腕前を見せてもらおうか。…楽しませてくれよ?」
これは何だ?目の前のさんがボールを取り出した途端に雰囲気が変わる。
ザワっとポッポ肌がたつ、それだけじゃなく足が勝手に震える。
この感覚は前にもあった気がする…そうだ、レシラムと会った時と同じだ。
レシラム相手ならそれも仕方がないよな、なんせ伝説のドラゴンだし…
「トゲキッス、エアスラッシュだ。ボーッとしてる所で悪いがな
そんなんじゃ俺の子達に傷一つ付けられないぞ?」
「─っつ!悪いなんて全く思って無いんじゃないですか?
くっそ、こっから全力でいかせてもらいますからね!」
ボーッとしてたわけじゃないけど、油断した!
だけど、オレだってやられっぱなしでいるつもりなんてない。
こっから反撃開始で逆転勝利してやる!
── 「大人も 子供も 結構 楽しめるのが ポケモンってか
本日の仕事は これにて 終わらせていただきます 有難うございました。」
ボールにポケモンを戻して、口上を言うさんの声が車両に響く。
結論を言えば反撃で逆転どころか、返り討ちで3タテだった。
こんな負け方したのは初めてバトルサブウェイに来た時以来かもしれない。
さんは、悔しくて下を向いたまんまの俺をみて苦笑いしてる。
「あと2分で駅につくから、そこから急いで戻れば
スーパーマルチの発車時刻には間に合うな、トウヤ君も結構やるな
本当だったら、ここまで長引かせるつもりじゃなかったから焦ったぞ。」
「…手加減なしとか言っておきながら時間配分の計算もしてたなんて
それって手加減と一緒じゃないですか!
うわー、すっげー悔しい!トゲキッス相手に3タテとか勘弁して欲しい!
次はシングルのフルアタパーティできますから、その時は覚悟して下さいね!」
今のパーティ構成は確かにマルチ用だけど、それでもここまで負けるとか
そんなはずはないんだけど、この人相手にだったその位やらないと無理だ。
言い訳っぽく聞こえたんだろうけど、そう思わないとやってられない。
「それは楽しみだな、俺の今の構成…っても、仕事用で旅パ仕様なんだが
こいつらと一緒に待たせてもらうぞ。まぁ、負けるつもりはないがな。」
「オレは旅パに3タテされたんですか?うわー、有り得ねぇえええ!
つーか、そのトゲキッスは6Vでしょう?旅パでそれとかマジですか!?」
なつき度も最高値までいってるとか満面の笑顔で言われても
ちーっとも嬉しくなんてないですってば!
そんなやり取りをしていたら、駅に着いたんで俺はトレインから降りる。
「トウヤ君とバトルをしてみたいと思っていたから、嬉しかったぞ。
後はトウコちゃんにもチャレンジに来るように言っておいてくれるか?
んじゃ、スーバーマルチ頑張れよ」
「さん、ダブルで噂になってる凄く強いドクターのトレーナーさんって
もしかして、もしかすると…」
言葉の途中でドアが閉まって、答えは聞けなかったけれど
動き出した車両内でさんのニヤリとした顔を見て、それが誰か確信した。
うわー、マジですか?っつーか、やっぱりって感じかなぁ。
急いでスーパーマルチトレインの乗車口に戻ってみたら
先にトウコが戻ってきてたみたいで、オレを待っていた。
でも、その表情はオレと違ってすげースッキリしているけど、なんでだろう?
「トウヤ遅いよ!間に合わないんじゃないかってすっごく焦ったでしょーが!」
「スマン!ってか、トウコは例のドクターに会えたのか?」
両手を腰にあててプンプン怒っているトウコに謝りながら聞けば。
すげー笑顔が帰ってきた。
「次でクダリさんって時に会えたよ。
んで、聞くまでもないと思うんだけど、そっちの作業員さんってやっぱり…?」
「おうよ、つーかそっちのドクターさんってのも聞くまでもない?」
「おうよ!なんて言うかさ、もうこれでもか!って位コテンパンにされたよ。
あんだけ綺麗に3タテされたら笑うしかないぞって感じよ!」
なんだろ、闘争心ってやつがオレ達の中で火が付いた感じがする。
それはトウコも同じみたいで、オレに向かって宣言してきた。
「トウヤ、私今度はスーパーシングル乗るから。
その時はフルアタパーティで最初からど本気だしやる!」
「オレも!でもな、さんのパーティ本気じゃなかったんだよな。
旅パって言ってたぞ、それでも6Vでなつき度MAXらしいけど。」
「嘘?!それ、さんも言ってたよ?
んで、前にスーパーダブルでクダリさんに5連勝した時も
本気メンバーは誰も出さなかったって…」
オレ達はお互いに顔を見合わせてから、ガックリと下を向いた。
なんだろう、こんな気持ちになったのはすげー久しぶりかもしれない。
「トウコ、俺の今頭の中にあるセリフはひとつしかないぞ。」
「トウヤ、私もだよ。多分二人共同じじゃないの?
でもさ、そのセリフは言わないからね。言ったらホントになりそうで怖い。」
同じ気持ちで頷いて答えた時に、黄色いラインの車体が止まりドアが開いた。
今は気持ちを切り替えて、こっちに集中する事にする。
そうじゃないと良いバトルは出来ないからな!
ここでの目的がまた増えたかもしれない。でもそれはすげー大変だろうな。
そんな事を思いながら、トウコと拳を合わせて気合を入れて車両に乗り込んだ。
目指すはいつだって勝利、それしか考えられないからな!
だけど今は噂のドクターさんと作業員さんこと、さんとさんには…
─── 『 勝てる気がしない! 』───