納涼!地下鉄の怪談 2014
草木も眠る丑三つ時、この世にあらざる者が闊歩する時間。
生者は眠りについていれば良いだけ、起きていちゃいけない。
「…なのになんで私は仕事をしなくちゃなんねーんだっつーのっ!」
常夜灯しかついていないバトルサブウェイのホームを
脚立を持って私は足早に作業場へ向かっていた。
普段なら絶対ありえない状況だと思う。
どうしていきなりマルチトレインのホームの空調が故障したんだろう?
この前点検した時は全く問題なかったのに。
地下施設での空調の故障は大問題だから至急修繕するのはわかる。
でも、もも手持ちの子が体調を崩しちゃったってんで
ポケモンセンターに連れてった後で看病するからって帰っちゃった。
絶対に夜間の一人作業はしたくない。
以前私は同じ様に地下鉄の作業現場で見えないものに遭遇して
有り得ない体験をいたしちゃったんだもん。
あんな怖い思いは絶対にしたくない。だけどそーも言ってらんない。
仕方なく作業に没頭して頑張って終わらせたんだけど
さっきからすごく空気が冷たいのは気のせいじゃないんだよねー。
いくら地下施設だからといってもこの冷たさは尋常じゃない。
そして…さっきから見ないふりをし続けて無視しまくってるんだけど
視界の隅っこになんだかヤバそうな姿がチラチラ映ってる。
気づいてるってバレたら前と同じになると思って
必死に歌ったり、明日の作業内容を思い出した様に口にしたりして
誤魔化し続けているんだけどさ
その姿が近づいてきてるんだけど?
怖くて泣きそうになるのをグッと堪えて、歩調を更に早めて
やっと作業場へたどり着いて中に入る。
照明をつけて、道具を片付けたりするのは明日やる事にして
急いでロッカーを開けて着替えて帰り支度を始める。
これ以上ここにいちゃいけない。さっきから私の中でその言葉が
ずーっと頭の中でアラームのように浮かび上がっている。
早く、早く帰らなくっちゃ…その前に自己防衛もしておかなくちゃ…
「…ムー?」
ボールからムウマを出せば、寝てたのかな?
大きなあくびをしながら私に擦り寄って甘えてきた。
一緒に帰ろうと言えば、喜んで私の周りをくるくる回りだす。
ゴーストには悪タイプなんだろうけど、悠長な事は今は言ってらんない。
パソコンの電源を落として、周囲を確認してから照明を消して部屋を出る。
しっかり施錠してから家に帰ろうとした瞬間、視界に映るそれがすごく近くて
そのまま振り返っちゃダメだと思った時にはもう体が動いていた。
「ひっ……!!」
目の前の光景に息を飲んでも仕方がないと思う。
どうみても元気じゃない五体満足じゃない方々がそこに立っていたんだもん
逃げなくちゃと思っても足が動かなくて下を見れば、胴体だけのお方が
私の足をホールドしてるよ?あんたらどーやってここまできたの?!
頭の中には助けを求める声だけじゃなく、一緒に逝こう…なんてお誘いの声や
誰かに向かっての恨み言なんかが直接響いて、混乱しそうになる。
ざっと見ただけでも10人はいるだろうかって人数のソレは
私に近づき、今にも私を捕まえようとしていた。
「ムー!!」
何人かが私に触れようとした瞬間にムウマがおにびを使った。
あちらさんはそれに驚いて、一瞬私との距離が離れる。
足を掴んでいた手も離れたから逃げようと思ったけどもう遅かった。
私とムウマはすっかり囲まれてしまっていた。
「マジで勘弁して欲しい…ってか、どーしろっていうのよ!」
必死になってムウマはおにびを繰り返して退路を確保しようとしてくれる
でも連中にはあまり効果がないみたい。
あの時私を助けてくれた子はよその子の所に婿入りしちゃっていないし
これは私終了のお知らせ?これからどうなっちゃうんだろう?
段々と距離が近づいてきて、その手が私に触れようとする距離まで来た時
もうダメだって、私はムウマを抱きしめてギュッと目を閉じた。
「「シャンデラ、シャドーボール!!(でございますっ!!)」」
私の体のそばを衝撃波が通り過ぎて、一番近くにいたソレにヒットした。
瞬間更に私とソレ等の距離が離れる。
「シャンデラ、そのままシャドーボールでもなんでも使って構いません。
コイツ等はもう人間じゃないからお好きにしてくださいまし。
クダリは視えてないのですから、をお守りしてくださいまし!」
「わかってる!ノボリ、連中に手加減なんか必要ない。
地下鉄の平和を乱す者は私達サブウェイマスターが許さない!
二度と手出しをしない様に徹底的に懲らしめちゃって!!」
地獄に仏ってこーいう事なんだろうな…なんて馬鹿な事を考えた私を
クダリさんは抱きしめて背中を優しくさすってくれた。
「とが深夜作業をしてると連絡が取れないって
もしかしてって、二人で来て正解だった!
怖かったよね?ボク達が来たからもう大丈夫、オッケー!」
「クダリさん…私、もう駄目かと、連れて逝かれるって、思って…」
暖かな温もりに一気に安心しちゃってもう泣くしかできなかった。
子供みたいにしゃくり上げる私をクダリさんは優しく抱きしめ続けてくれた。
「そんな事ボク達がぜったいにさせない!
だけど、一人で夜間作業は絶対にしないんじゃなかったっけ?」
「だけどっ、空調が故障してて、急がなきゃって、でももも
急用でできなくなって、私がやらなきゃって!」
「そういう時はボク達に声をかけなきゃダメ。
は色々と好かれる体質みたいだからすっごく危ない。
職員の安全を護るのはサブウェイマスターの仕事!わかった?」
「…っ、はいっ!」
こんな事絶対信じてもらえないって思ってたから誰にも言わなかったけど
ノボリさんとクダリさんは違った。
ってか、さっきノボリさんはなんて言ったっけ?
クダリさんは視えない…えっと、それってノボリさんは視えるって事?!
「クダリ、申し訳ありません!そちらに一人逃げてしまいました!!」
シャンデラに的確な指示を飛ばして連中を撃退していたノボリさんが
慌てた様に叫んだのと同時に、すごい形相の下半身が見当たらないソレが
私とクダリさんめがけて近くまで這い寄ってきていた。
「あのね、ボクが視えてないからって舐めてるの?馬鹿にしてるの?」
視えないって言ってるのにクリティカルヒットで蹴りを決めてるし…
ってか、クダリさんが触れた途端にそれは消えちゃったよ!
私が声も出ないくらい驚いてるのに気がついたクダリさんは
「そっか、は視えてるんだもんね。ボクは視えないだけ。
気配もわかるし、やっつける事だって出来る!
ノボリはとおんなじ視るだけ。だけどシャンデラが頑張ってる!
だけど皆には内緒だよ?変に怖がらせてバトルに影響出るのはダメ!」
うわーい、これなんてゴーストバスターズ?
ポケモンバトル、リアルバトルにゴーストバトル?までやっちゃうの?!
上司が色々凄すぎて息をするのも辛い!ってか、まじで気が遠くなってきた
慌てた様な顔をして私を呼ぶクダリさんの顔を見ながら
金輪際二人には逆らわないって心に誓っても仕方がないよね?