-納涼!地下鉄の怪談-

納涼!地下鉄の怪談



日付も変わり、データー入力の仕事も一段落ついたんで帰ろうと

着替えるためにロッカーへ向かってた時に、ある一室から数人の話し声

がした。この時間だから恐らく、宿直のメンバーなんだろうなと思って

俺は挨拶しようとそのドアを開ける。



「…っちゅう事があそこのホームであったらしいで?…ギャー!!

って、か!脅かすなアホ!!」



お疲れさんの声をかけようとドアを開けた途端に叫ばれ、

アホ呼ばわり…なんだ?と思って部屋の中を覗くとそこにはクラウド、

ジャッキー、シンゲンそして、上司である白黒のマスターまで

勢揃いしてるじゃないか。



「皆して宿直か?俺は帰ろうと思ってロッカーに行く途中話し声が

したから覗いただけなんだがな。

アホ呼ばわりとはいい度胸じゃねぇか、クラウド」



「時と場合を考えてくれっちゅねん!

今な、夏らしく怪談話しとってん。せやから、いきなりお前が

ドア開けたさかい、びっくりしただけやねん。」



「この手の話よくやる。でもボク、信じない。

見たこと無いもの信じない!」



クダリが棒付きキャンディを口に咥えながら机に両足を上げている。

お前、その格好は下の者に示しがつかないだろうが…と隣をみれば

ノボリが机に突っ伏して半目になってクラウドを見ている。



「この手の話はよく致しますが、何分有りがちといいますか…

最近はちょっとマンネリ気味でございまして…」



「ボクはずっとここにいるので、

もう全部の話を聞いてしまっています。」



「大好キナ電車ノ事ナラ ドンナ事デモ 愛セマス。」



その両隣ではジャッキーとシンゲンがコーヒーを飲んで寛いでいる。

クラウドが俺にコーヒーを差し出しながら覗き込んできた。



「せや、はそう言った話知らんか? この際、ギアステじゃなくて

構へんわ、なんぞ背筋がスーっと寒うなる話、あったらしてや!」



クラウド以外の面々が俺に期待の目を向けてきた。

お前ら、宿直ってのはそんなに暇なのか?それなら仮眠取れば良いだろ

と思った俺は、間違ってないはずだ。



「んじゃ、別なとある地下鉄でダチが体験した話をしてやるよ。」



そばにあった椅子に座り、コーヒーを一口飲む。

他の面々の顔が俺に注がれる。うし、絶対怖がらせてやるからな!



「地下鉄の設備の仕事ってのは客のいない深夜がメインなんだよな。

そして、それは丁度そう言ったモンに出会いやすい時間帯でもあるんだ

ダチは丁度その時間にホーム下のピットで一人で仕事をしていたんだ。

本来なら二人ひと組じゃなきゃダメだが、その時は相方がどうしても

他の場所で仕事をしなきゃならなくてな。

んで、帳場の方も全く一人じゃないしってんで、特別に許可してさ。

ダチは黙々と仕事をしていたんだ。 

そしたら、フッと視線を感じた気がして

…ピットにある小さな窓っつーか穴から反対側のホームを

見たらしいんだ。そうしたら、そっちのピットの穴から

女の人がこっちを覗いてるんだと。もちろん、同業者なんかじゃねぇ。

ヤバイと思って視線を逸して、でも仕事は続けなきゃなんないってんで

無視する様に仕事を続けてたんだと。そうしたらな、視界の端っこに

その女が写るんだって、どんなに視線を彼方此方に向けても、その女が

必ず写りこんでるんだとよ。もうヤバすぎて仕事になんねぇっつーんで

上に上がってきてさ、反対側の最初に女を見たホームを

なんの気なしに見たらある部分の床から無数の手が伸びているんだと。

もう、絶対ヤバすぎるだろうってんで、

相方を呼びに行こうと振り向いたら…真正面にその女が立っててさ。

良く良く見たらその女、首が半分以上取れかかって、

変な方向に向いてるんだと。そしてその女が…

『貴女も連れて行く…』 ってニタァって笑いやがったんだとさ。」



俺はここで一旦、話をやめてコーヒーを一口飲んだ。



「おー、け、結構クル話やないか。」



「…ボクは信じないんだからねっ!」



「私…少し寒気が…」



「この手の話は初めて聞きますね。外の世界は色々あるんですね…」



「ソノ地下鉄…何処ニアルノ?」



他の面々の顔がわずかに強ばっているのがハッキリとわかった。

この話はまだ続きがあるんだよ。



「話はそれで終わりじゃねぇんだよ。いよいよダチも限界でさ

走って逃げようとしたんだが、足が動かねぇんだと。んで足元を見たら

反対側のホームで見た無数の手がダチの足を掴んで離さねぇんだと。

それだけじゃなく、その手はダチの足を動かしてホームの端っこへと

無理やり歩かせようとしだしてさ…ダチは段々ホームの端に移動して、

後3歩程で下に落ちる所まで歩かされたらしい。

まぁ、最終電車も終わってるから、問題ないだろうと落ちるの覚悟して

ホームの下を覗いたらさ。あるはずのレールとか床が失くなってて

ポッカリとでかい穴が開いているんだ。んで、そこから更に

無数の手が伸びていて、ダチを引っ張り込むように蠢いてるんだとさ。

ダチはもう完全にヤバすぎでなんとか振り切ろうとしたけど無理でさ…

とうとう、後一歩でそこに落ちるって所まできちまったんだ…。

もうダメだって観念した時に腰のボールからダチのゴーストタイプの

ポケモンが出てきて、ナイトヘッドかまして蹴散らしたんだと。

助かった!とダチが安心したその時に…

『…もう少しだったのにぃぃいいいいい!…』  

ってすげー恨めしそうな叫びが響いたんだって。

そのダチはそれ以来、深夜の作業は絶対に一人じゃやらなくなったぞ。

後で聞いた話じゃ、最初にその女を見たそのホームってのは

やたらと人身事故が起こるんで、そこの地下鉄でコッソリと

お祓いをしようかって話もあがる位ヤバイ場所だったららしい。

だから、お前らもホームには気をつけろよ?でないと…」



俺は、それぞれの顔を見回してから足元を指差した。



「無理やりにでも引きずられて…連れて行かれるかもしれねぇぞ?」


話が終わった後、床に足をつけていた面々が思わず足元を浮かせた。

ふふん、顔色が悪いぜ?してやったりだな。



「て、…その話ってホントにあった話なの?」



クダリ、口に物を入れたまま話しちゃいけねーって言われなかったか?



「その様な話、私達は聞いたこともございませんでございまし。」



「せ、せや!お前…わしらを怖がらそう思うて、話作りよったろう!」



全員が今度は疑いの眼差しで俺を見始めた。

確かに、そんな話はそうそうあるわけじゃないよな…うん。



「残念だが、この話はホントの話だぜ?…なんだったら今度そいつに

ホントの事か聞いてみるといいさ。」



「え、そのダチって…」



「おう、その話のダチはで、相方は俺だ。

その後、が半泣きで俺の所まできてさ。宥めるのに大変でさ。」



俺は、冷め切ったコーヒーの残りを一気に飲み干してから立ち上がる。



「ま、俺は帰る。お前ら、頑張って見回りとかしてくれ。お疲れ!」



、逃げるとか卑怯やろ!最後まで責任もてやー!」



「ボク、一人で巡回行きたくない!ノボリも来て!」



「ゴーストタイプでございます!私達にはシャンデラがおります!」



後ろで、残る面々が何やら叫んでいるが知った事じゃねぇ。

世の中、知らない方が良い事なんてのは山程あるんだからな。



  後書き
夏と言えばやはり怪談話!実はコレ、一部ノンフィクションでございます。
それが何処かは、ご想像におまかせします。(ニヤリ)