2014 Valentine Day
Gently and Sweetly〜そっと、そして、甘く
サブウェイマスターの執務室のドアの前で、ウロウロすること数分間
私は未だにドアを開ける勇気がなかった。
手にしているのは、ここに間借りしてる施設設備保全管理課の書類で
ファイルに貼られた付箋には、お手本にしたい位の綺麗な文字で
【 至急サインをお願いします。 施設設備保全管理課 課長 】
と、やや大きめに書かれているわけで…
だから、これは急ぎの書類だってわかってはいるんだけど。
…駄目だ、こんな事してたら総務部長さんに怒られちゃう。
『君、すまないがこの書類を保全管理課の課長に渡してくれないか?
後で取りに来ると言ってはいたんだが、急ぎの書類のようだし
私が渡せれば良いんだが、これから会議に出るから席をはずすんだよ。』
総務部の入口に一番近い席に座っている私は、結構こんな感じで
総務部長さんやほかの部署の人達から書類を預かったりする。
百戦錬磨の猛者揃いと言われる職員の中で、まだまだひよっ子な私だから
これも大事な仕事、だからちゃんとしないとダメだってわかってる。
ため息をひとつついて、付箋に書かれた文字をそっと指先でなぞってから
書類の下に、隠すようにして持ってきたラッピングされた箱を見る。
一番最初に課長をみたのは、オリエンテーションを受けにきた時
『失礼します。本日よりお世話になります保全管理課のですが
部長さんはいらっしゃいますか?』
カントー系の顔立ちのその人は、よく通る低めの声で私に声をかけてきた。
大抵の新入社員の人達って、ここに来るときは緊張してるのがわかるのに
課長はそんな事なくて、堂々としていたからなんとなく気になった。
その、気になるが職員として凄いなって思う様になって
それから好きって気持ちになるのには、そんなに時間はかからなかった。
私の気持ちを伝えたいけど、職員としてもそれ程接点がないのに
どうしたらいいんだろうって思いながら日々を過ごしていた時に
テレビでカントーの番組をやっているのを見てこれだ!と思った。
イッシュでは、バレンタインデーは恋人同士であれば
大抵は男の人が女の人にプレゼントを贈るんだけれど
カントーではチョコレートを添えて、女の人が男の人に告白する日らしい。
そして、告白をしなくても義理チョコ?っていうのがあって
職場の男性に配る事もあるんだとか…
それからは必死になって、課長へ渡すチョコレートを作った。
甘い物よりもお酒が好きって情報を聞いてからは
ビター系のチョコレートをいろいろ作って食べ比べたりした。
そうして、やっと納得できるチョコレートが出来上がったのは昨日。
なんとなくイメージかな?って思って
黒地に細いメタリックパープルのストライプの包装紙を選んで、
光沢のあるシルバーのリボンをかけて、バッグに入れたのは
今朝、バレンタイン当日で現在に至ってる。
これはチャンスだってわかってる。この機会を逃しちゃったら
今後私が告白する事なんて出来ないかもしれない。
でも、どうやって渡せば良いの?
もうこうなったら、義理って感じで誤魔化しちゃっても良いかな?
これ、良かったら皆さんで休憩の時にでも食べてくださいって…
うん、そっちの方が自然っぽくて良いかな?
突然、あまり知らない私が好きですって言っても迷惑かもしれない。
最初の意気込みはどこ?っていう位、すっかり弱気になった私は
そう自分自身に言い聞かせてから、勇気を出してドアをノックした。
中から返事が聞こえたので中に入れば、そこには課長しかいなかった。
「あ、お疲れ様です。さん…で良かったですよね?
ボス達に用事ですか?生憎会議で不在ですが用件なら俺が聞きますよ?」
「あ、いえ…ボス達にではないんです。
課長に渡して欲しいと、総務部長から書類を預かってきました。」
部屋には二人っきりで、最大のチャンスなのに
私の口から出るのは事務的な言葉ばかり…こんなんじゃダメだ。
頑張れ、頑張れ私!
ファイルに入った書類を渡せば、書類の確認を始めた課長を見る。
こんな近くで見るのって初めてじゃないのかな?
それだけの事なのに、私の鼓動が早くなる。
「早めに欲しかった書類だったので、これから取りに行くつもりでした。
さんに届けさせてしまう事になってすみませんでした。有難うございます。」
一通りの確認をしたみたいで、書類を引き出しにしまった後
私の方に身体を向けて、課長は言った。
目元が綺麗な弧を描いて細まる笑い方に、胸が苦しくなった。
「…さん、どうかしましたか?他に何か伝言でも?」
ここで、いいえって言ってしまえばそれで全部終ってしまう。
勇気を振り絞って首を振ってから、目の前にラッピングをした箱を出した。
だけど、言葉が上手く出てこない…こんなんじゃ変に思われちゃうのに。
「…俺は…この包みを受け取ればいいのかな?」
「は、はい良かったら皆さんで…っ!…休憩の時にでも食べてください…」
一瞬目を見開いてから、その後で箱と私を交互に見ながら聞かれたから
反射的に、皆さんでって口から出てしまった。
あぁ、違うのに…本当に言いたい事はそうじゃないのに…
課長の視線を感じるんだけど、目なんて合わせられなくて俯いた。
受け取ればいいのかなって聞かれたけれど、課長はそうしなかった。
「さん、もう一度聞きますが…
これは、同じ職員としての…課長としての俺が受け取れば良いんですか?」
その言い方は、私の気持ちなんかお見通しだと言ってるみたいで
驚いて顔を上げたら、笑いながら頬杖をついて私を見ていた。
「もうこれ以上は聞かない、君は俺にどういう風に受け取って欲しい?」
小さな子に言い聞かせるような口調なんだけど、嘘を言わせない様な
そんな声色を聞いていたら、素直な言葉が私の口から出てくる。
「で、できれば課長だけに食べて欲しい!…です。」
「了解、そういうつもりで受け取らせてもらいます。」
そう言って箱を私から受け取ってから、立ち上がる。
「イッシュの習慣っていうのかな?
プレゼントは、相手の前で開けるのが普通でしたね…早速開けても?」
デスクのそばにもう一つ椅子を持ってきて、勧められたので座れば。
手にコーヒーを渡される。
頷いた私をみてから、課長はゆっくりとラッピングを綺麗に開けて
箱を取り出して蓋を開けると中のチョコレートを一つ口に入れた。
「これは、手作りですよね?うん、洋酒がきいてて美味いです。」
口に合ったみたいで、喜んでもらえた。良かった!
ちょっとホッとして、コーヒーを一口飲んでいたら、目の前に箱を出される。
「美味い物は一人で食べるより、二人で食べた方がもっと美味いですから
さんも、おひとつどうぞ。って、もらった俺が言うのも変ですね。」
「そんな事ないです!あ、ありがとうございます。いただきます…。」
慌てて一つ箱から取り出して口に入れる。
洋酒とビターチョコレートのほろ苦さが口に広がる。
でも、味見で食べた時よりももっと美味しいような気がする。
私が一つ食べている間に、課長は残りを全部綺麗に食べてくれた。
箱とラッピングペーパーとかリボンをデスクの引き出しに入れて。
空になった紙コップを私の分も受け取って、ゴミ箱に入れる。
「ごちそうさまでした、とても美味しくいただきました。」
「い、いえ…お口に合ったみたいで良かったです。」
私の言葉に笑みを深くしてから、課長はデスクに向かって
パソコンを操作しはじめた。
チョコレートは受け取ってくれたけど、課長は何も言わない…。
色々聞きたいけれど、結構ここで時間を潰しちゃったから
私も急いで総務に戻らなくちゃ…。
「それじゃあ、戻りま「うし、定時に終わらせそうだな。」…す?」
椅子から立ち上がって、挨拶をしてから出ようと思ったら
課長は画面を見て一人満足そうに頷いた。
「あぁ、失礼。ちょっと仕事のスケジュール確認をしていたんですよ。
すみませんが、1ヶ月後の今日は何か予定がありますか?」
「いえ、特に入ってません!入っててもキャンセルします!!」
それって、デートの予約なんだろうか?でも、どうして一ヶ月後なんだろう?
よくわからないけれど、課長から誘われた?のが嬉しくて
私は元気よく返事をしてから、部署へ戻るためにドアノブに手をかけた。
「さん…後日もう一度来月の予定を聞きます。
この意味をもう一度、よく考えてから返事をしてください。」
「え?それってどういう…」
「…興味本位でなら、やめた方が良いって事です。火傷位じゃ済みませんよ?」
課長は黒曜石の様な瞳を細めて囁くように呟いた。
その奥に甘いような妖しい様な光が見えたのは気のせいなんだろうか?
当作品のお持ち帰りはリクエストしてくださった方のみですので
どうぞご了承の程、お願いいたします。
長編の課長さんにギアステ職員の女主が勇気を出してチョコ渡す話という、
さく様のリクエストを受けて頑張って書いてみました。
えぇ、目指したものはハーレクインロマンスだったなんて言えない…(苦笑)
そして、サブマスもポケモンのキャラクターも出てこないよ!
オリキャラの総務部長さんは出るのに、どこに行ったのー?(笑)
課長さんが危険です。肉食男子設定が前面に出ちゃって暴走してます。
さく様、ターゲットロックオンされちゃいましたよ?逃げて!超逃げて!!
職人とか仕事の顔じゃなく、大人の男を全面に出したらこうなってしまいました。
このような作品になりましたが、どうぞご笑納くださいませ。
そして、サプライズプレゼントを押し付けさせて頂きます!
一ヶ月後のホワイトデーですが、こちらも企画を用意してありまして
バレンタイン企画に参加して頂いた方全員に、同設定での逆バージョンor逆視点での
ホワイトデー用のお話をご用意いたしますので、そちらもお受け取りください。
その際、内容変更のリクエスト等についても承りますので、お気軽に連絡をくださいませ。
さく様、企画参加本当に有難うございました!
また何か企画する時がありましたら、どうぞ参加してくださいませ。(平伏)