試着室のドアを開けて、出てきたその人はモデルさんでした…
つーか、他の人が見たらそう思っても仕方が無いと思う。
「Hmm…コチラのデザインの方が好みデスネ。」
コーヒーブラウンのロングベストを試着していたインゴさんが
私に感想を求めてるけどさ、似合ってます以外何を言えと?
事の発端はインゴさんが私の来ていたメンズ仕様のシャツを見て
デザインを気に入ったからなんだよねー。
私は元々メンズ物を良く着てて、大概がネットで買うんだけど
このお店は私好みの品揃えで結構買いに来てたんだ。
ギアステ近くのカフェで待ち合わせって意味がわかんなかったけど
エメットさんとかノボリさん達が一緒だとゆっくり買い物が出来ないって
確かにその通りだよなーって納得しちゃったよ。
「コレを全部もらいマス。」
着替え終わって店員さんに商品を渡しながら試着室から出てきたけど
店員さんがすっごい良い笑顔で怖いよ!!
…今気がついたんだけど、インゴさんと私の好みは似てるかもしんない
さっきから良いなって思ってる物に同時に手が伸びたりしてる。
着る人が違うから印象も違うから、お揃いっぽくはならないから良いか。
流石にそれは恥ずかしくなるから勘弁してって感じだよねー。
大きな紙袋を持って店を出ると、インゴさんはライブキャスターを見た。
「ランチタイムを過ぎてしまいマシタネ。ついてきなサイ。」
そう言って手を差し伸べたんだけどさ、いやそんなのいらねーから!
普通に後ろをついていくからね、子供じゃないんだぞー!
「…コチラへ、少々歩きマス。」
「うぎゃっ!」
無視を決め込んでたら、眉間に皺付きで手を握られて引っ張られたよ!
身長も足の長さも違うからちょっと早足になってたら
それに気がついたみたいで私の歩調に合わせてくれた。
行き先にはなんだかすっごい高級感溢れるホテル。
ここのホテルってカロス地方の資本で五つ星じゃなかったっけ?
「ちょ、インゴさんどこへ行くんですかっ?!」
余りにも豪華すぎる空間にビビりまくってる私を無視して
天井高でガラス張りの回廊を抜けてロビーの一角にある重厚なカーテンを
スルッとくぐり抜けると薄暗い通路の先にネオンサインが見える。
そこはイッシュらしい店構えをしたハンバーガーショップだった。
「うわー、こんな場所があるなんて初めて知りました。
なんだか雰囲気が秘密基地みたいで面白いですね!」
「フフッ、先程のの慌てぶりは面白かったデスヨ?
ココはサイズは少々小ぶりデスガ、味の保証はいたしマス。」
出来上がるまで席について周囲を見渡せば店内は映画のポスターがあったり
落書きやサインなんかが壁のあちこちにあって雰囲気が良いなー。
調理場の店員さん達の動きはキビキビしてて見てても気持ちが良い。
カウンターで名前を呼ばれ…うんにゃ、叫ばれて取りに行けば
「うわーい、パテがすっごくジューシー!
バンズも柔らかくってパテに合う!すっごく美味しいです、インゴさん!!」
「フレンチフライもお勧めデスヨ?」
もうね、すっごく美味しくって買い物疲れも吹っ飛んだ!
ノボリさん達がインゴさん達は味にうるさいって言ってたけど
そんな人がお勧めするお店が不味いわけないよねっ!大満足だよ!!
オレンジジュースを飲んでたら、インゴさんのライブキャスターが点滅してる
マナーモードにしてるんだろうけど、相手を見てそのまま電源切ったし。
「インゴさん、それは拙いんじゃないですか?」
「問題無しデス。…の方にも来た様デスネ。
ワタクシと一緒なのは言わない様に…できますネ?」
ライブキャスターを見れば私の方はメールで、内容を確認したら
〈 突然失礼します。ノボリですが、今どちらにいらっしゃるのですか?
今晩も夕食に招待したいのですがご都合はいかがでございましょうか?〉
晩ご飯かぁ…うーんと考えながらインゴさんを見ればコーラを飲んでて
その顔つきがいつもよりちょっとだけ柔らかい様な気がする。
これってこのままのんびりしたいって事なのかも?
オレ様だけど、心配性でホントは色々気を使う人だもんね。
〈ただ今ランジェリーショップで色々物色中でっす!
そういうワケで、夕飯も食べてから帰るので今日は遠慮しますー。
お詫びに今度は私が夕食にご招待しますので、ヨロシクです。〉
「うし、送信完了!インゴさん、この後何か用事がありますか?
なければ素敵なお店を教えてもらったお礼に夕食は奢らせてください。」
「気にする必要はありませんヨ?今のメールはノボリからデショウ?
アレの事でゴザイマス。夕食を共に…ではありませんカ?」
「その通り、ビンゴですよー、でも断っちゃいました。
先約はインゴさんですから、こっちを優先するのは当然でしょう?
そだ、アクセサリーとかお好きですか?が贔屓にしてる
シルバーアクセサリーのお店があって、多分インゴさんも気に入るかも。」
そんな提案をしたらちょっと驚いた顔をした後で頬杖をついて溜息をついた
ありゃ、好きそうだと思ったんだけど違ったのかな?
「、オマエは…イエ、言っても意味がありませんネ。
シルバーアクセサリーは好きデス。案内をお願いシマス。」
そう言って立ち上がるとさっきと同じく手を差し出してきた。
だからさー、そういうのは恥ずかしいんだってば!
「…無理矢理がお好みでゴザイマスカ?」
「いやいや、そうじゃなくて!あーもう!好きにして下さい!!」
そんな悪人面で笑うとか勘弁して欲しい、悔しいからヨーテリーばりに
お手!って感じで手をのせたら鼻で笑われたし…畜生。
ネイティ&リグレーのナビ付きでお店について中に入れば
インゴさんは気になる物があったみたいで、早速店員さんを呼んで
商品ついての説明を色々と受け始めた。
その間、私はショーケースの中を色々見て目の保養をしようっと
うわー、このラピスとムーンストーンのトワエモアリング可愛いなー
「欲しいモノがあるのナラ、プレゼントしますヨ?」
「どわっ?!びっくりしたー!インゴさんは何か…買ったんですね。
目の保養をしてただけです、こーいうのは見てても楽しいですから!」
いきなり耳元で声がしたから変な叫び声が出ちまったい!
簡単にプレゼントとか言うけど、ここの商品は全部一点モノだから
とっても良いお値段なんだぞー?
今にも店員を呼んで買いそうなインゴさんを引っ張りながら
店を出れば日も暮れてきたけど、まだご飯には早いしなー…
次はどこに行こうか…あ、公園でマメパトに餌やりも良いかも?
そんな事を色々考えてたらインゴさんが
「、オマエの乗り物酔いはアレでも駄目デスカ?」
トレイン乗車の時みたいに綺麗な指差をしてる先を見れば観覧車で、
平気な事を伝えれば、それじゃあって言われて行ってみれば
観覧車乗り場で待たされる事も無く、乗り込む。
特に何も話す事もないから、ゆっくりと地上を離れる景色を見てた。
家々の灯りがひとつ、またひとつ灯されて街全体が柔らかな光に包まれる
昔から私はこの時間帯が嫌いだった。
灯りの元で、皆がそこで幸せに笑ってるんだろうな…って
自分には縁のない世界、空間が羨ましかった。
「?」
声をかけられるのと同時に自分の手にインゴさんの手が重なった。
どうしたのかって問いかける視線に笑ってごまかしたんだけど
それでも私を見続けるその目がそれを許さないぞって言ってる。
こういう所は従兄弟同士だからなのか、ノボリさんと同じだね。
仕方なく思ってた事を口にすれば、何も言わないでインゴさんは頷いた。
「ソノ感情はワタクシも理解できマス。」
そうだった、インゴさんも肉親とはうまくいかなかったんだ。
そういう意味では似た者同士で分かり合える部分があるんだよね。
インゴさんは私の隣に移って、後ろから私を抱きしめた。
何をしやがる!って文句をいっても無視するのは流石だよね!
引き剥がすのを諦めて、外をみれば一番上にきたみたいで
ライモンシティ全体が煌めいていた。
「でも綺麗だよね。」
「…デスネ。」
そう言ったきり、二人で黙って外を見続けていたんだけど
「…二人の時間は終わった様でゴザイマスネ。」
溜息をついてインゴさんが下を指さしたんで、なんじゃらほいと覗けば
影が3つ、観覧車乗り場のそばに立っていた。
「うわーい、降りたくないぞー!って言っても仕方が無いけどね!
インゴさん、私は何も話しませんから!後は任せた!!」
「ワタクシも話すつもりは無いデス。二人で黙っていれば良いデショウ?」
観覧車を降りれば、揃って眉間にシワ寄せた顔とか勘弁して!
なんでも、夕飯を作るのをやめて食べに行こうって話になって
お店に向かう途中に私達を見つけて追いかけてきたんだとか…
いや、そこはスルーしておいて欲しかったんですけど?
次から次へと私とインゴさんへ質問が飛んでくるとか勘弁して!
視線を感じてインゴさんを見れば、ニヤリと笑って頷いていた。
うん、多分おんなじ事を考えてるんだよね?それじゃあ…
3人に向き直ってから人差し指を口にあてて
「「秘密(でっす!)(でゴザイマス。)」
「「「何(ソレ)(でーっ)(ですとっ)!?」」」
結局、夕飯はこのメンバーで食べに行ったんだけど
いつの間にか私の奢りになってたのだけは納得できなかった。
全員私より高給取りの癖に…畜生!