バトルトレインだけではなく、一般の方の交通を担う地下鉄業務において
職員の福利厚生を充実させる事もわたくし達サブウェイマスターの
大切な仕事なのでございます。
サマーバケーションをそれぞれ交代で職員にとらせたとしても
どうしても人員の確保、特に当直業務が難しい部分も発生するわけで
そういう場合は、バトルトレインのえきいん達が協力いたします。
本日がまさにその時であり、一般ホーム用の宿直室には
わたくしとクダリ、そしてクラウドがその業務にあたっております。
当直といっても、夜間の運行が無いので定期的な見回りがメイン業務で
後はこの様に当直室にてのんびり過ごすだけ。
仮眠もとれるので、明日の業務に支障もでませんから問題ありません。
「…ほんで、トンネルを抜けた後に窓ガラスにはびっしりと
手形がついてたっちゅう話や。確かにそんな事故があったら
そないな話があってもおかしゅうないしな、なんや切ないわ。」
「うん、怖いっていうより悲しいかもしんない。
自然災害は防ぐのは難しい。でも人的災害は絶対に許されない!」
夏、夜、暇な時間と三拍子揃えば、自然とそういう怖い話が出るわけで
地下鉄という職場ではこの手の話は尽きる事がございません。
最終車両を車両基地へ向かわせる時に無人のはずの車両が満員状態だったとか
毎月同じ日、同じ時刻に車両に飛び込む人影が視えるとか…
ある程度歴史のあるバトルサブウェイなら有名な話はいくつも存在します。
ですが、一般の方々に迷惑をかける様な話は全くありません。
もっとも地下鉄に害を与える様なら、わたくし達が黙っておりませんとも!
「おや、最後の巡回の時間でございますね。
クラウドは休んでいてくださいまし。わたくしとクダリが行います。」
時計を見れば深夜でこの巡回が終われば始発の時間までは仮眠ができます。
巡回は二人ひと組が原則なので、わたくしとクダリは脱いでいたコートに
袖を通して制帽をかぶり、立ち上がりました。
「いやいや、ボス達に巡回行かせて自分だけ寝るとかあかんやろ。
ここはわしも巡回に行かせてもらいますわ。」
「ボク達バトルトレインに配属されるまで一般のホームで働いてた。
昔と今とどう変わってるのか見てみたい!だから行かせて?」
「えぇ、あれからここも様変わりしておりますので
わたくし達はそれらを見るのを楽しみにしていたのでございます。
ですから、わたくし達の楽しみを奪わないでくださいまし?」
おどけた様に言えば、そういうもんでっか…と納得していただけた様で
わたくし達も安心いたしました。
えぇ、わたくし達の仕事はこれからはじまるのでございます。
宿直室を離れてしばらくしてから、わたくし達はポケモンを出します。
ヒトモシ、ランプラー、シャンデラ…どれも素晴らしい子達でございます。
「みんな、やる事はいつもと変わんない!すっごい案内お願いね?」
「皆様、よろしくお願いいたしましたよ?」
それぞれに声をかければ、元気の良い返事の後に八方へ駆け出しました。
後は彼等の帰りを待てば良いだけでございます。
「ボク達も行こうか、ノボリ。」
「えぇ、参りましょう。クダリ。」
常夜灯のうっすらとした明かりのホームには二人の足音がやけに響きました。
ここは地下鉄の一般車両のホームでは一番古い場所。
そこにわたくしとクダリは立ち、皆様をお迎えするべく待っております。
「ノボリ、来たみたい?」
「…えぇ、今回は随分人数が多いようでいらっしゃいますね。」
ヒトモシの先導でその後をズルズルと引きずる様な音をたてて
彼等はやってまいりました。
誰もがその目に生きる光を灯しておりません。
何故か?それは彼等が亡者と呼ばれる存在だからでございます。
あちらには赤子を連れたご婦人が…あぁ、先日ベビーカーごと落ちて
車両に巻き込まれた方でございますね。
その向こうにはバトルトレインの顔なじみのお客様のお姿が…
彼はわたくし達に勝てない事を苦に飛び込まれたのでしたね。
なかにはわたくし達の姿を見つけて、飛びかかろうとする方もおりますが
それらをシャンデラが引き止めます。
シャンデラに何かを吸い取られるのでしょう、一瞬苦悶の表情を浮かべ
悔しそうに列に戻っていかれました。
「毎年思うんだけど、これって凄い事かもしんない?」
「確かに、わたくしもサブウェイマスターの職務にこの様な事があるとは
想像もいたしておりませんでした。クダリは視えてないから良いでしょう?
この光景は正直、精神的に堪えますよ?」
「視えないけど、なんとなくはわかる!見てこのポッポ肌!
だけど実際に視えるノボリはもっと大変?うん、ボク視えなくて良かった!」
ホームに向かい白線の内側で二列に並んでいる亡者の姿は
ある意味シュールとでも言えばよいのでしょうか?
彼等を見ながら、わたくしはサブウェイマスターに就任した時を思い出します
沢山ある規約関係の書類の中に、超極秘!と赤文字で書かれたそれには
ヒトモシ、ランプラー、シャンデラの扱いをマスターする事
こちらの方はわたくし達はポケモントレーナーを目指した頃より
パートナーとしておりましたので問題はございませんでした。
問題はもうひとつの方で、最初はわたくし達には意味がわかりませんでした。
毎年夏のある時期に一般ホームでの当直を義務付けされていたのです。
ですが、初めての当直の時にそれが何故極秘かを理解いたしました。
「…先代のサブウェイマスターの方々はこの業務をどう思っていたのでしょう
わたくしは視えるので、何をしているのか理解しておりますが
貴方の様に視えない方には何が起きているのかわからないでしょう?」
「うん、ノボリに実況中継?されてもピンとこなかった!
だけど、視えなくても気配はわかるからすごく怖かった。」
「亡者の搬送も地下鉄業務になってるとは、誰も思わないでしょうね。
ですが、これがあるおかげで他地方でよく聞かれる霊障?の事例は
ここライモンシティでは皆無なのですから、良い事でございます。」
その様な話をしていると、遠くから電車の音が聞こえてまいりました。
カナワ行きと同じ、もしくはそれよりも古い型の車両がホームに到着して
音も無くドアが開き、整列していた亡者を乗せた後電車は出発すると
わたくし達の周囲を何とも言えない生ぬるい風が通り過ぎます。
最終車両が見える頃に、わたくしは車両にむかって敬礼いたします。
それに習いクダリも慌てて敬礼をして、視えてはいないはずの車両を
見送れば今年の業務は無事に終了でございます。
「ノボリ、いっつも最終車両に最敬礼してるけど誰が乗ってるの?」
「おや、以前にお話いたしませんでしたか?
初代の駅長でもありサブウェイマスターでもある方が車掌をしております。
貴方も写真で拝見した事位はあるはずでございますよ?」
「そっか、地下鉄とバトルが大好きだったって聞いてる。
死んじゃってからもこうやって地下鉄の安全を守ってるんだね。」
「えぇ、その姿勢はわたくし達も見習わなくてはいけませんね。」
「うん!ねぇ、ボクとノボリがいつか死んじゃったら
初代の駅長さんみたいに、あの車両の車掌になったりしちゃうのかな?」
「歴代のサブウェイマスターの方々のお姿が視えないので
それはどうかわかりませんが、もしその様な事になるのなら
それもまた楽しいかもしれませんね。」
「うん!ボクとノボリの二両編成はこれからもずっと一緒!
死んじゃってからも一緒だと嬉しい!ずっとハッピー!!」
死後の世界があるのなら…いえ、実際に視ていてそれは愚問ですね。
それでも大好きな地下鉄の業務につけるのは幸せかもしれません。
「ですが今は現世を謳歌いたしましょう。
わたくし達にはまだまだすべき事、目指すべき事が沢山あるでしょう?」
「そうだね、ボク達はまだまだ沢山バトルをしたい!
お客様にスマイルでハッピーになってもらわなくちゃなんない!」
今はもう視えなくなってしまった電車の行き先は何処なのか?
その先彼等はどうなるのございましょうか?
そして、わたくし達はこれからもサブウェイマスターで有り続ける限り
この様にして、視えざるお客様を毎年見送り続けるのでございましょう。
取りとめもなく考えながら、わたくし達はホームを後にしました。
─── 葬送列車は今年も走る ───
「危ないから白線の内側に下がって待ってて!」
「今更危険等無い様な気もするのですが、ルールでございます!」