2013 中秋の名月
フルムーンに囁いて
The moon is a moon still, whether it shines or not
精一杯着飾って、なれないお化粧で仮面をして
そうして会わなければいけないエメットさんの事を恋人とは言えない。
満月の明かりを頼りに安アパートの鍵を開けて部屋に入れば、
色とりどりの部屋には似合わない服が散乱していた。ため息をつきながら
拾い上げてクローゼットに押し込んで、来ている服もハンガーにかける。
乱暴に髪を解きそのままシャワールームに行って汗と化粧を落とす。
そろそろ、エメットさんはサヨナラを書いたメモを読んだ頃?
熱いシャワーは私の頬を伝う涙も一緒に流してくれた。
私がエメットさんと会ったのはつい3ヶ月前。
普段だったら絶対に入る事のない高級そうなバーのドアを開けたのは
ちょっと頑張って着飾った自分へのご褒美みたいな感じ。
友人の結婚式に出てみれば、バッタリ昔の彼が恋人を連れて出席していて
ショックだったけど、頑張って普通に接する事に成功したから良いよね。
一人でカウンターの一番端でムーンライトなんてカクテルを頼んだのは
満月にかけて、お酒にも自分にも酔ってしまいたかったから。
現実逃避したいなって時にエメットさんは声をかけてきた。
「キミみたいな綺麗な人が一人?どーせなら一緒に飲もうヨ」
きっと私が隙だらけだったんだと思う。
ブルーダイヤみたいな綺麗な瞳がニッコリと三日月型の弧を描く。
一人で居たくなかったからどうぞって言っただけ。ベタな出会いよね。
しばらくお酒を飲んで言葉の駆け引きを楽しんだらベッドに誘われた。
普段だったら絶対乗らないのに、何故か私は頷いてしまった。
一度だけの関係だと思ってたのに、また会いたいと言われてしまって
それからズルズルと今日までこの状態が続いたのは私が狡いから。
エメットさんのくれる優しさや温もりが仮初であっても嬉しかった。
仮初だから、私も別人を演じて誤魔化してきたのに。
「はボクになにも聞かないヨネー、そして自分の事も話さないヨネ。
でも、そろそろ教えて欲しいと思うんだケド。ボクの事も教えるからサ。」
そう言って聞いたエメットさん自身についての話に私は愕然とした。
ただの遊び人かと思ったらニンバス・シティで有名なバトル施設
バトルサブウェイのダブルのサブウェイボスーそれが本当のエメットさん
彼は私が遊んで良い様な人じゃなかった、地位も権力も名声もある人なんだもの。
夢を見るのはもう終わり。いつもの日常に戻るだけの話なんだから。
だけど、そう思うには遅すぎて、私はエメットさんを好きになってた。
でも、好きだけじゃ世の中通らないんだから仕方ないでしょう。
突然の私からのサヨナラにエメットさんは怒ってるかな?
それとも、遊び相手が減っただけって思ってるのかな?
おんなじ思考がグルグル回る頭を無理矢理切り替えるように
この想いも消えて欲しいと願いながら、何度も顔を洗った。
シャワールームを出て、部屋着に着替えてリビングに戻れば
ライブキャスターのメール通信が点滅してる。
履歴を見れば全てエメットさんからだった。
内容も読まないで全て破棄して、着信拒否の設定ボタンを押す。
出会った時も、別れようとしてる今も満月の時なんて
まるで安物のメロドラマみたいで私にはお似合いかもしれない。
私はあなたに釣り合うような女じゃありません、さようなら。
メモにも書いた言葉を思い出し、ライブキャスターをテーブルへ置けば
こんな夜中にドアをノックする音がする。
「、いるのはわかってる。開けないなら、ドア壊しちゃうヨ?」
恐ろしいセリフに慌ててドアを開けてから後悔しても遅かった。
エメットさんはスルリと身体を滑り込ませて、私を抱きしめた。
「未練がましい態度は貴方らしくないですよ、エメットさん。」
その背に手を回したくなるのを必死に堪えて、冷たく声をかける。
「ボクらしくないって、はボクの事わかってないデショ?
ここに住んでいる事も、結構前から知ってたヨ、バイトで食いつないで
日々の生活を送ってる事も知ってたケド、キミの口から聞きたかった。
ダケド、いつまでたってもキミは何も言ってくれない、聞いてくれない。」
「…言う必要も聞く必要もないでしょう。私達は所詮身体の関係です。
貴方もそのつもりだったはずですよ、違いますか?」
いつの間に私の事をと思ったけど、まずはこの体制をなんとかしたかった。
早く離れなくちゃ私の虚勢なんて簡単に見抜かれてしまう。
「それに、今の私を見れば貴方とそれすら続けていけない程
みすぼらしい女なんですよ、エメットさんはこんな女といてはいけません。」
「バカにしないで欲しいナ、ボクだって人を見る目はあるんダヨ?
が全然遊び慣れてない事ナンテ最初からわかってた。
でも、あぁでもしないとキミとはもう会えないと思ったからネ。
外見とか生活面とか関係ないヨ、はダモン。」
エメットさんがそんな風に私の事を想ってくれてるなんて知らなかった
とっても嬉しいけど、でも甘えちゃいけない。
だけど、心は正直で彼を求め叫んでいる。とうとう堪えられなくなった想いは
涙になって私の頬を伝う。
エメットさんはそれを優しく唇で拭うと私を抱きしめる力を強めた。
「泣かないで My Honey、どんなキミでもボクはスキ。
だから、キミもどんなボクでもスキなままでいて欲しいナ。
そのまんまの、ホントのをボクに見せて、教えてヨ。」
「ちょっと待って、さっきだってあんなに…!!」
部屋着の中に滑り込み優しく私の肌に触れてくる手の感触に
驚いた私の言葉はエメットさんの唇に塞がれて途切れてしまった。
長く深い口付けに身体も心も溶かされてしまう。
「Honey を素直にさせるのは大変ダヨ。だから続きはベッドで、ネ?」
そう言って私をかかえてベッドルームへ向かうエメットさんに
私はダメとも良いとも言わなかった。だって、素直じゃないんでしょう?
答えなんて、知ってるはずなのに貴方も意地悪ですね。 My Darling。