-序章・オンとオフとの使い分け-

序章

オンとオフとの使い分け



「あのね、いつから仕事する?それによっては部屋作るの急がないとダメ。

それから、仕事に必要な機材とか細々した物も教えて。

それとこの書類、職員の規則が書いてある。請負業者としての専属契約は

正職員と同じ扱いだから目を通して、わからない所はボク達に聞いて。」



「そうですね、形式としましてはバトルサブウェイ保全管理課と言うものを

新設しまして、様には課長という事で就任していただく予定でございます。

ですから専用のデスクとパソコンの支給と個人のパスワードが発行されます。」



完成した書類を、所定の場所に片付けながら言うクダリの言葉に私も頷きます。



「俺、長とか付くの凄ぇ嫌なんだけど…場所が場所だけに仕方ないですね。

仕事は作業自体に取り掛かるのはが来てそれからになります。

部屋は申し訳ないですが、材料置き場と加工場、そして書類関係を行う場所

この3つを確保する事って可能でしょうか?」



様の口調が初めてお会いした時と同じものに変わったのに私は驚きました。

クダリも眉間に皺をよせております。今まで親しげに話して頂いておりましたが

どういう事なのでしょう?



、その口調やめて。さっきまでの口調に戻して!」



「いえ、仕事の時はこれでいかせてもらいます。お二人は俺の上司ですから。

仕事が終わったら戻させてもらいますが、こういう事は筋を通さなきゃ駄目です。

それとですね、仕事中でも終わった後でもなんですがと呼んで下さい。

俺、そんな敬称つけられるような出来た人間じゃないですから。」



オンとオフの切り替えは社会人の常識だと、の言う事は尤もでございます。

非常に納得したくない気持ちではありますが、これは仕方がないでしょう。

クダリもその辺は流石に理解しておりますので渋々ではございますが了承します。



「でも、今はまだ仕事初めてない!だからまだ普通の口調で話して欲しい。」



「そうですね、仕事の話は致しますが今はまだ普通に話して結構ですよ?」



最後の足掻きでこの位は許されるでしょう。えぇ、私もそうして欲しいのです。



「はぁ…わかりまし…わかった。必要な機材については今箇条書きしてるから

もうちょっと待ってくれ。規則については今は見てる暇が無い。

後からゆっくり見たいから持ち出し可能であれば借りてもいいか?

それと今更なんだが、俺…ここにずっといるけど大丈夫なのか?」



確かにここは私とクダリ、サブウェイマスター専用の執務室ですが

保全課のスペースができるまではこちらで仕事をして頂いても構わないでしょう。

あぁ…いっその事、ずっとこちらを使ってもらいましょうか。

我ながらブラボーなアイデアでございます!



「問題ありません、規則の書類につきましては後ほどコピーしてお渡ししますね。

後、部屋についてですが仕事部屋二つは確保いたします。

ですが事務処理等についてはこちらでされてはいかがでしょうか?

ここは私とクダリ2人の執務室になっておりますが、デスクがあと二つ程

入ってもなんら支障はございません。」



「それ良い!修繕とか保全の問題って急ぎの事多い。だからボク達のそばで

仕事すれば連絡とか対応とかスムーズにできる!」



クダリがすぐに飛びついてきました。えぇ、もっともな理由をつけておりますが、

ご一緒に仕事をしたいのですね。そして、それは私も同じでございます。



「確かにそれはあるなぁ…、じゃあ、凄ぇ恐れ多いんだがそれで頼むかな。

っと、これが揃えて欲しい機材一式。あとは細々した道具なんかも書いてあるが

こっちは俺の方で用意しても問題は…売ってる場所がわからない以外はないな。」



のメモをクダリが受け取り目を通すと内線を使って色々手配を始めました。

普段の彼からは想像もできない程仕事が早いですね。



次にはライブキャスターを取り出して何やら材料を色々と発注しております。

通話が終わった後尋ねたところ、様…いえ、と呼ばなければ…

女性を敬称なしで呼ぶなど、私としましては非常に心苦しいのですが

私達の部下になるわけでございますし、常識的に考えても部下に敬称など

使わないので仕方がありません。これは慣れなければいけませんね。

その彼女から、それぞれの材料の品質のチェックを頼まれたそうでございます。

なんでも、はじめて取引する場合、彼女は必ずこうしたチェックをされるとか…

良い材料がなければ良い仕事はできないのだとおっしゃられてるそうで。

が一目置くだけの事はありますね、そういう姿勢は私も見習わなくては。



、これも渡しておくね」



今度はクダリが書類の束をの目の前に差し出しました。

あぁ、あれは全て補修保全に関する申請、嘆願の書類でございますね。

いきなりあれだけの量の書類を目の前に出されましたら流石に面食らうかと

思いましたが、ごく普通にそれも素晴らしい早さで目を通し始めました。



が書類に目を通している横で私達もそれぞれ書類整理を始めた時に

ノックの後、執務室のドアが開いてクラウドが入ってまいりました。



「失礼します。ボス、の社員証が出来たんで持ってきました。

って、なんやもう仕事始めとんのか?しかも凄い量の書類やなぁ!」



「ありがとうございます。クラウド、後日改めて全員の前で紹介しますが

新設されるバトルサブウェイの保全管理課に課長としてが就任します。

…先程もお会いしたと思いますが、こちらクラウド、彼はシングルの

トレーナーの主任でもございます。」



書類の山と格闘しているを見て驚いてるクラウドから社員証を預り、

私がそれぞれを紹介するとがデスクから立ち上がりクラウドに一礼します。



「この度こちらと施設の保全管理で専属契約したです。

色々な場所に移動しての仕事になりますので、何か問題があるようでしたら

遠慮なくすぐに申し出て頂けると助かります。よろしくお願いします。」



「こっちこそよろしく頼むわ。後な、これから一緒に仕事する仲間やさかい、

そんな堅苦しいのはやめい!そんなん聞いとったらなんや肩凝ってかなわんわ。」



クラウドの言う事は尤もでございますが、少し砕け過ぎでございます。

普段ならまだ少しは使い分けておりますのにどういう事でございましょう?



「わかった、しかしクラウドの言ったとおりになって驚いたぜ?

まさか本当にここで働く事になるとは思わなかった。」



「だから言ったやろ?仕事の出来る奴は逃がさへんって。

優秀な人材はここではいつも大歓迎なんや。あとな、聞いたで?

整備班の主任とボイラー管理者、厨房責任者がお前就職させろ言うて

がん首揃えてボスに詰め寄ったちゅうやないか。そんなん前代未聞やで。

自分、この短時間でなにさらしよった?」



、それぞれの場所で不具合見つけた。それも結構大変なヤツ!

後、どーして2人ともそんなに仲良いの?もしかして知り合いだったの?」



「ちゃいますよ、今日が初対面ですわ。でもなんやろ…前にすると自分でも

不思議に思うんやが肩肘張らんと話ができんねん。おかげでコガネ弁も

出まくってキャメロンやラムセスなんか頭に?マークぎょうさんつけとったわ!」



確かに普段よりも彼のコガネ弁が炸裂しておりまして、一部私でもわかりません。

隣ではが気にした風でもないご様子でただ笑っておられます。

あぁ、でも、ギアステーションでも古参のクラウドに気に入られたのでしたら、

も職員たちに受け入れられやすいでしょう。

職員同士の連携は職種を問わず大切な事でございますから。



「それ、凄くわかる。でもボク達の方が先にと友達になった!」



「おう、両ボスがバトル抜きで仲良うなるとか、なんや珍しなぁ!」



はゴールドのトレーナーカード保持者でございます。それだけではなく

4つの地方のリーグ制覇もされたマスターランクのトレーナーでもございますよ?」



「そら凄いわ!そんなんやったらトレーナーとしても仕事してもらおか?

なんせうちらの所は更に人材不足やさかい、いつでも大歓迎やで?」



「クラウド、この書類の量を見てよくそんな事が言えるな!

あれか?死亡フラグ立てるのか?そんなモン全力でへし折るぞ!」



元々、クラウドも気さくな方でございますが、

私達とここまで気さくに会話をしたのは初めてではないでしょうか?

これもが間に入ったからなのでしょうね。本当に不思議な方です。



「あ、忘れとった!両ボス、スーパーマルチに挑戦者ですわ」



3人でひとしきり笑いあった後で、クラウドが思い出したように報告してきました。



「クラウド、あなた、そういう事は先に言ってくださいまし!」



「やった!ボクもう書類整理飽きた。すぐ向かう。、こっちの書類も

ボク達が戻ってくるまで、ちょっとでもいいから目を通しておいて。」



クダリが満面の笑みを浮かべサブウェイマスターの帽子とコートをハンガーから

外して着替えます。私もそれに倣って準備を始めます。

新たにクダリから渡された書類を見て、は苦笑いを浮かべております。

確かにこの量でございますので、その気持ち私もよくわかりますとも。



「クラウド、申し訳ないのですが私達が不在の間、ここに残ってわかる範囲で

構いませんのでに書類の説明をしていただけませんか?」



「了解、ほな、わからん事はこのクラウド兄さんになんでも聞いてや!」



「その言葉、後で後悔すんなよ?んじゃ、俺は一応この書類チェックして

重要度、危険度の高いものをランク付けしとくな。2人とも頑張れよ。」



「うん、すっごいバトルしてくる!」



「えぇ、勝利目指してひた走ってまいりますとも!」



2人に敬礼して、私たちは執務室を後にします。この度の挑戦者は私達の元へ

たどり着くことが出来るのでしょうか?なんにせよ楽しみではございます。